中国初の鉄道が上海に!上海で旧駅・廃線跡をたどる

上海で鉄道と言うと、市内を走る地下鉄と、数か所ある駅から出発の、中国全土を結ぶ長距離鉄道がまず思い浮かぶことと思います。実は上海は中国初の鉄道が走った場所でもあるのです。中国初の鉄道「吴淞鉄路」(ごしょうてつろ/呉淞鉄道)は1876年に開通しました。現在その鉄道路線は廃止されていますが、今でもその遺構をたどることができます。

現在、上海市内は17路線の地下鉄(上海人も普段の会話では「地鉄(地下鉄)」と言いますが、実は正式名称は軌道交通)が走っています。そのうち2000年に開通した地下鉄3号線は、上海初の地上高架路線でした。そしてこの地下鉄3号線のルートは、今回ご紹介する中国初の鉄道「呉淞(ウーソン)鉄路」と関係があるのです。

この記事では、上海地下鉄3号線と中国初の鉄道・呉淞鉄路との関係と、今も辿ることができるかつての鉄道跡をご紹介します。

目次

中国初の鉄道「呉淞鉄路」

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<呉淞鉄路の開通式の様子。上海鉄道博物館展示より>

中国初の鉄道・呉淞鉄路は1876年に上海で開通しました。当時、上海にはイギリス、アメリカ、そしてフランス政府が管轄する「租界」と呼ばれるエリアがあった時代。

鉄道が必要となった背景として、当時外国から海上輸送で品を上海に運び入れる際の唯一の河川・黄浦江には水深が深い港が少なく、河口にある港で小舟を使ってする荷下ろしの不便さが主に外国人商人から不満になっていました。そこで、河口に近い場所から上海市内へ向けて、鉄道を引く案が浮上。イギリス系企業・怡和(いわ)洋行が線路や駅舎の建設を行い、機関車、車両、線路など鉄道建設に必要な資材はイギリスからの輸入でした。

呉淞鉄路は全長14.5km。外灘(ワイタン)からもほど近い場所の上海駅、江湾駅、そして河口近くの吴淞駅の全3駅の路線でした。

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<呉淞鉄路のルート。上海鉄道博物館展示より>

762mmゲージの狭い線路で、小ぶりの蒸気機関車だったそうです。

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<呉淞鉄路で走った蒸気機関車「天朝号」の模型。上海鉄道博物館展示より>

呉淞鉄路は1876年7月に一部開通し、10月に全面開通しました。開通の際は1000人の上海市民を招待しての乗車会を開催。中国初の鉄道として大きなニュースとなりました。

大きな注目を集め開業に至ったものの、元々呉淞鉄路は中国側の正式な許可を得ずに開設した鉄道だったこと、そして開通後に事故も相次ぎ、周辺住民の激しい反対運動に発展。中国当局より運行停止命令が出されました。開通から数か月で、清朝政府が建設費の2倍の値段で買収することで合意がなされ、1877年10月より呉淞鉄路の設備は取り壊されました。

20年後に「淞沪鉄路」開通

呉淞鉄路の開通から約20年が経った1895年。国の近代化を進めるための鉄道の役割が認識されるようになり、清朝政府関係者から吴淞鉄路のルートを基に鉄道を再建する案が出て、1897年より吴淞鉄路のルートを基に鉄道工事が開始されました。新規ルートも合わせ1898年に鉄道開業。「淞沪(ソンフー)鉄路」と命名されました。

淞沪鉄路は開通時、全長16km。呉淞鉄路の終点吴淞駅から更に河を渡って北上した砲台湾が終点で、上海駅~江湾駅~張華浜駅~藴藻浜駅~砲台湾駅の5駅を結ぶ路線でした。

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<淞沪鉄路のルート。上海鉄道博物館展示より>

その後、淞沪鉄路は天通庵路駅、三民路(三門)駅、高境廟駅、何家湾駅の5駅が新設されて計9駅に。1904年、管理会社の変更に伴い淞沪支」の名称に改められました。

淞沪鉄路の線路東側は公共租界と呼ばれる、イギリスとアメリカの政府が管轄するエリア。租界当局は鉄道東エリアに公園などの公共施設を建設して都市開発を進め、一帯は中産階級の居住エリアに発展していきました。

淞沪鉄路の線路西側は中国当局が管轄するエリア。中国側も鉄道西側の開発を進め、道路やビル、教育施設を建設。「淞沪鉄路」の中でも上海市内寄りのエリアが上海屈指の栄えた賑やかな場所になりました。

「淞沪鉄路」の戦争の影響とその後

その後1930年代に入り、戦火の影響は上海にも及び、淞沪鉄路の施設は爆撃などを受けて破壊されました。戦争の終結と共に淞沪鉄路は一部復旧するも、多くは復旧できないままに。時代の混乱もあり、淞沪鉄路の線路周辺にはバラック(仮小屋)が立ち並び、一帯は「鉄道弄堂(弄堂:ノンタン=上海の旧時の集合住宅を指す)」と呼ばれていました。

淞沪鉄道の復旧はできないまま、1960年代には同じルートで路線バスが運行されて鉄道の存在意義が薄れていき、1970年代からは関連施設の取り壊しが徐々に始まりました。1997年に取り壊しは完全終了。貨物引き込み線として、途中不定期に月数度貨物列車が運行されていますが、淞沪鉄路の路線の区間の多くは取り壊されました。

「淞沪鉄路」と上海地下鉄3号線

しかし、淞沪鉄路の面影は完全に消え去ったわけではなく、淞沪鉄路のルートに重なる形で上海地下鉄3号線の建設が決定。2000年に開通しました。3号線は上海地下鉄初の地上高架路線ですが、元々淞沪鉄路の線路があったため、用地取得が容易だった背景があったといいます。

現在地下鉄3号線と淞沪鉄路のルートが重なる場所は宝山路駅、東宝興路駅、虹口足球場駅、赤峰駅、大柏路駅、江湾鎮駅の6駅分の区間です。

上海地下鉄3号線に乗って淞沪鉄路の遺構を訪ねる

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<地下鉄3号線の車両>

それでは、これから上海地下鉄3号線を北上するルートで淞沪鉄路の遺構を訪ねてみましょう。

かつての駅舎が鉄道博物館に@宝山路駅

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宝山路駅付近にある「上海鉄道博物館」は、淞沪鉄路上海駅の旧駅舎を使った博物館です。上海駅の駅舎は1909年に使用開始。淞沪鉄路と中国各地を結ぶ「沪寧(フーニン:上海・南京間の路線)鉄路」との2路線乗り入れのターミナル駅として建てられました。4階建て、イギリス風建築で、政府要人の移動に対応するよう個室待合室など備え、内部の装飾は豪華。北京にあるターミナル駅よりも規模が大きく、当時中国一の規模を誇りました。

1916年、沪寧(こねい)鉄路は沪杭(フーハン:上海・杭州間の路線)鉄路と接続し、上海南部に新設された「上海南駅」へ乗り入れるように。旧上海駅は「上海北駅」に改称しました。上海人にとってはこの「北駅」の名前の方がよく使われており、このエリア一帯を指す名称にもなっています。

戦火での損傷が激しかったものの駅舎として復旧し、戦後は長距離鉄道の駅として使われました。1980年代に入るころ、旅客の増大に伴い駅舎は容量不足に。1987年「上海火車駅」の開業に伴い、駅舎はその役目を終えました。

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<宝山路駅から見える旧上海北駅駅舎。手前には上海火車駅に乗り入れる長距離列車が停車しています>

現在駅舎は「上海鉄路博物館」の展示館として一般公開されています。屋外展示場はプラットフォームや蒸気機関車、客車の展示があり間近で見ることができます。

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館内には呉淞鉄路、淞沪鉄路はじめ、上海の鉄道発展の歴史が解説されています。

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筆者は乗り物が大好きなので展示を興味深く見ました。

上海鉄道博物館 基本情報

  • 中国語表記:上海铁路博物馆
  • 住所:上海市静安区天目東路200号
  • アクセス:地下鉄3号線「宝山路駅」徒歩11分


鉄道博物館を後にし、3号線に再び乗り、次なるスポットへ向かいます。

街中の交差点に残る旧駅の石碑@虹口足球場駅

宝山路駅から2つ目の駅になる虹口足球場駅。この駅最寄りの虹口公園は春には桜の名所として有名です。

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虹口足球駅から10分ほど歩いた交差点に、淞沪鉄路「天通庵駅旧跡」の石碑があります。

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石碑の裏には信号機と線路がひっそりとたたずんでいます。

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淞沪鉄道天通庵駅旧跡 基本情報

  • 中国語表記:淞沪铁路天通庵站遗址
  • 住所:上海市虹口区同心路宝山路交差点(中国交通銀行前)
  • アクセス:地下鉄3号線「虹口足球場駅」徒歩10分

かつての駅跡地が市民の憩いの場に@大柏樹駅

続いて向かったのは、虹口足球場駅から2駅先の大柏樹駅。

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この駅を出てすぐの場所に「1876老駅創意園」という商業施設があります。2016年オープンの比較的新しい施設です。

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近くには淞沪鉄路「江湾駅旧跡」の石碑が建っています。

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駅舎を思わせる商業施設から少し離れた場所に、蒸気機関車と客車が展示されています。鉄道博物館で蒸気機関車を見たばかりの筆者でしたが、また間近で見れて迫力を感じました。

この蒸気機関車は、かつて中国全土を走っていた代表的な国産蒸気機関車。展示されている車両は1988年に製造されました。

筆者は当初、この車両は展示の為に1988年に復刻製造されたものと思っていたのですが、中国では1988年まで旅客や貨物輸送用の蒸気機関車が製造されていました。展示車と同タイプの蒸気機関車は400台余り製造されたとのことです。

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蒸気機関車にけん引されて緑色の客車が見えます。この緑色の列車は中国語の通称で「緑皮車」と呼ばれ、新幹線がない時代の長距離列車の代表的存在です。現在も緑色の客車が長距離鉄道で走っているものの、中の設備は新しい新型緑皮車です。

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こちらはカフェになっており、客車の中でコーヒーを楽しめます。座席も緑で、店内の雰囲気は長距離列車旅のようです。

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車両展示エリアを抜けると、淞沪鉄路の廃線跡を見ることができます。

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廃線跡の最後にはこのような設備が置かれていましたが、この先はフェンスで覆われており、まだ廃線跡がこの先も残っているようでした。実は江湾駅の駅舎はこの線路を更に北にたどった先にあったということです。

1876老駅創意園 基本情報

  • 中国語表記:1876老站创意园
  • 住所:上海市虹口区汶水東路351号
  • アクセス:地下鉄3号線「大柏樹木駅」徒歩3分

まだある!淞沪鉄路の遺構をたどれるスポット

以上、吴淞鉄路、淞沪鉄路の当時の面影をたどれるスポットを紹介しましたが、実はこれだけではなく、更に数か所スポットが存在します。

取材に向かった日の時間の都合により、ここまでの探訪となりましたが、また別の機会にみなさんに更なるスポットをご紹介できればと思っています。お楽しみに!

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