ベートーヴェンが暮らした家「ハイリゲンシュタットの遺書の家」を訪ねて

2020年は、ベートーヴェン生誕250周年です。ベートーヴェンが活躍したウィーンでも、さまざまなイベントやコンサートが企画されています。今回はウィーンでベートーヴェンが暮らした家をご紹介しましょう。

22歳でウィーンにやってきたベートーヴェンは、死ぬまでの35年間をウィーンで過ごしました。引っ越し魔で知られるベートーヴェンですが、ウィーンだけでも70回以上も住居を変えています。そのうちの3つが博物館になっていて(一つは非公開)、1804~1814年にかけて断続的に住んだパスクヴァラティハウスはこちらの記事でご紹介しています。

今回ご紹介するのは、ウィーンの町中から少し離れた、別名「ハイリゲンシュタットの遺書の家」として知られる住居です。2017年に全面改装され、展示面積が広くなり、「ベートーヴェン博物館」と改称し、新たな展示品が増えました。

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目次

ハイリゲンシュタットの遺書の家でのベートーヴェン

この家があるのは、ウィーン郊外の閑静な住宅地。今でこそ、この場所はウィーン市の一部ですが、当時は市内から少し離れた集落でした。疝痛(せんつう)と難聴に悩まされていたベートーヴェンは、湯治のため1802年5月から10月までここで過ごしました。

ベートーヴェンの住居のすぐ近くにハイリゲンシュタット温泉があり、ここに通いやすいという立地から、この場所に住んでいました。また、作曲の合間に自然の中を散歩するのが大好きだったベートーヴェンにとって、自然に囲まれたこの場所は、インスピレーションの源にもなったことでしょう。

ベートーヴェンの死の2年前のドナウ流域工事の影響で、この温泉は止まってしまい、温泉施設があった場所は公園になっています。この公園には、散歩姿のベートーヴェン像が立っています。

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この家では、作品番号31-2「テンペスト」のピアノソナタ、『プロメテウスの創造物』や『英雄』交響曲の一部が作曲されました。

また、31歳のベートーヴェンは、「ハイリゲンシュタットの遺書」と呼ばれる書簡の中で、自らの難聴や孤独や、それによる自殺願望について、弟のカールとヨハンに宛てて書き送っています。この手紙は実際は投函されず、私物の中に眠っていて、発見されたのは死後でした。

ベートーヴェンの住居

ここに住んでいたころのベートーヴェンは、そんな絶望の淵にありつつ、創作活動と健康回復に努めていました。当時この建物は農家で、この辺りはブドウ畑に囲まれた牧歌的な風景が広がっていました。

今は博物館になっていますが、古い民家の中庭や外庭、地下室、バルコニー、階段などの雰囲気満点で、のどかな田舎暮らしの様子が見て取れます。

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内部の展示室は「ウィーンへ到着」「湯治」「作曲」「収入」「上演」「死後の名声」の6つのテーマに分かれていて、それぞれのベートーヴェンの人生のフェーズを示しています。

「ウィーンへ到着」の展示は、生まれ故郷のドイツのボンからウィーンへの道行きや、移動手段、ウィーンに到着してからの足取り、ハイリゲンシュタット周辺の住居などに関する展示で、18世紀のリアルな生活が感じられます。

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「湯治」の展示は、まさに温泉地ならでは。温泉水や温泉施設、当時の温泉療法についての考え方などが詳しく、奥の部屋ではベートーヴェンが好んだ散歩のスタイルについて説明されています。また、スーツケースにはタマゴが展示してありますが、これは、ベートーヴェンが癇癪(かんしゃく)を起して投げつけることがあったというエピソードにちなんでいます。

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この博物館のハイライト、「作曲」の部屋には、ベートーヴェンが使用したオリジナルのピアノが展示されています。このピアノは以前パスクヴァラティハウスにありましたが、ハイリゲンシュタットの遺書の家の改修に伴い、こちらに移動してきました。

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このピアノには新たに、難聴だったベートーヴェンのために特別に作られた、金属の箱型の枠が取り付けられています。これは、ピアノの音を聞こえやすくするためのスピーカーの役割を果たすもので、補聴器などの展示と共に、ベートーヴェンの作曲への取り組みをうかがい知ることができます。また、ピアノのそばには、友人と開発したとされるメトロノームも展示され、実際に住んだとされるこの部屋で、作曲の様子をイメージできるようになっています。

また、奥の部屋では、ハイリゲンシュタットの遺書についての展示もあり、当時の精神状態についても説明されています。

「収入」「上演」の部屋では、パトロンとの交友関係や演奏会、オペラ公演などについての展示がされていて、ミニコンサート会場のような雰囲気があります。

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「死後の名声」の展示室では、遺髪やデスマスク、ベートーヴェン像の模型なども展示されています。ベートーヴェン最期の家はすでに取り壊され、別の建物が建っていますが、この博物館にはその扉と床板が保存されています。

最後に、この家の中庭を抜け、外庭を散策してみましょう。とても気持ちのいい田舎家の庭で、自然を好んだベートーヴェンが、ここで作曲の合間に一服した様子が思い浮かびますね。

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現在は建物全体がベートーヴェン博物館となっていますが、実際に住んでいたとされているのは、ピアノのある展示室3の辺りだそうです。また、最近の研究によると、ここは1807年の火災後に建てられたという説や、実際は別の家に住んでいたという説もあり、展示内でも説明されています。

まとめ

31歳のベートーヴェンが、人生に悩み苦しみ、作曲しながら暮らした、ハイリゲンシュタットの遺書の家、いかがだったでしょうか?

ウィーンの温泉施設の近くには、ほかにも多くのベートーヴェンゆかりの地があります。今後の連載でもそのいくつかをご紹介しますので、ベートーヴェンイヤーをきっかけに、訪ねてみてはいかがでしょうか?

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ひょろ

オーストリア、ウィーン在住。10年以上暮らしてもまだ新しい発見の連続のウィーンの魅力を、記事執筆、現地調査、ネットショップなどを通じてお届けしています。国際機関勤務を経て、バイリンガル育児の傍ら、ミュージカル観劇が趣味。

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