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1万体の人骨アートがお出迎え!?チェコ・プラハから日帰りで行けるセドレツ納骨堂
チェコの首都プラハから東へ約65km、鉄道なら1時間の距離にある人口約2万人の地方都市クトナー・ホラ。中世に銀鉱脈が発見されて以来、その豊富な産出量をもとに13世紀から15世紀にかけて都市として栄えました。しかし銀が枯渇し、それに戦争とペストの流行が追い打ちをかけて衰退していきます。
現在は落ち着いた地方都市といった趣きで、旧市街にある聖バラバラ教会が世界遺産に登録されていますが、今回紹介するのはそのクトナー・ホラに隣接した村セドレツにあるセドレツ納骨堂(墓地教会)です。この納骨堂は、旅人たちの間では「ガイコツ教会」として知られているほど、内部はとにかく人骨だらけなのです。それではこれから、みなさんをこの教会にご案内しましょう。
目次
- 1万体のガイコツがお出迎え!?教会の地下にある納骨堂
- ゴルゴタの丘の土がまかれた聖地
- 4万体分の人骨が地下の納骨堂に!
- 人骨でできたシャンデリアや紋章は、もはや不気味アート
- 骸骨が表す「メメント・モリ」とは?
- すぐ近くにある世界遺産の聖母マリア大聖堂に寄ってみよう
- セドレツへのアクセスとチケットの買い方は?
1万体のガイコツがお出迎え!?教会の地下にある納骨堂
<舗道のガイコツが納骨堂の入り口のしるし>
クトナー・ホラ鉄道駅から徒歩10分。セドレツのランドマークである大きな聖母マリア教会を左に見て右折すると、突き当たり正面に全聖人教会が見えてきます。お目当てのセドレツ納骨堂の入り口はその敷地の左側で、舗道にある骸骨のモザイクが目印です。
地下に降りる階段を下りていくと空気がひやりとするのは、単に地下だから温度が低いだけではないでしょう。目の前にいきなりたくさんの人骨が飛び込んできて、圧倒されるからです。その人骨も無造作に並んでいるわけではなく、みな装飾としての目的を持って飾り付けられています。いったい、なぜこの教会は人骨で飾られているのでしょうか。その異様さに圧倒されながらも目が離せません。きっと怖がりの人は、直視するのが厳しいかもしれません。
ゴルゴタの丘の土がまかれた聖地
<訪れた2019年の夏は納骨堂の入口部分を補修中でした>
この教会の歴史は13世紀にさかのぼります。伝承によると、ここにあったシトー派セドレツ修道院の修道院長がエルサレムに派遣された時、ゴルゴタの丘(イエスが磔刑に処された場所)からひとにぎりの土を持ち帰り、修道院の墓地にまきました。それによりこの教会は聖地となり、多くの巡礼者たちを集めるようになったのです。ちなみに「ゴルゴタ」はアラム語で「しゃれこうべ」を意味する単語です。
4万体分の人骨が地下の納骨堂に!
<納骨堂の奥に積み上げられた多くの骸骨>
聖地であるセドレツへの埋葬希望者は多かったようで、墓地には中世にはすでに数万人が埋葬されていました。15世紀初頭、ゴシック様式の教会が墓地の中央に建てられた際、掘り起こされた多くの人骨が地下の礼拝堂に運び込まれました。1511年に半盲の修道士が、人骨をピラミッド状に積みあげたということが記録に残っています。その後も墓地を整理するために人骨が掘り出され、堂内には4万人分の人骨が運び込まれました。
19世紀にこの教会を購入したシュヴァルツェンベルク家は、1870年にチェコの木彫師であるリントに、内部にある人骨を使って内装をするようにと依頼します。4万体の内、1万体の人骨を使ってリントはそれを仕上げ、現在見られる骸骨による装飾の数々が作られたのです。
人骨でできたシャンデリアや紋章は、もはや不気味アート
<地下堂の入口から、すでにガイコツが...。>
まずは見学を始める前に入り口で日本語の説明書を借りましょう。階段を降りて行くと、階段の両脇や地下堂の入口に、すでにしゃれこうべが見えてきます。
<壮観なガイコツのシャンデリア>
階段を下りきって恐る恐る地下堂に入ると、その中心に上から下がっているのが人骨でできたシャンデリアです。この8腕のシャンデリアは、全部で22の頭蓋骨のほか、人骨のほとんどのパーツを使って作られているとか。地下道の左側には、人骨で作られたシュヴァルツェンベルク家の紋章もあります。
骸骨が表す「メメント・モリ」とは?
<納骨堂の上部にもビッシリと人骨が>
これらの装飾は、なぜ人骨で作られたのでしょう?単なる悪趣味?いえいえ、これにはちゃんとした理由があるのです。それには「メメント・モリ/Memento mori」という言葉が関わってきます。これはラテン語で「死を忘れるな」という警句です。古代ローマ時代には「今を楽しめ」というような意味で使われていたようですが、中世になりキリスト教が普及すると、異なる意味を持つようになってきました。つまりキリスト教的な世界観では、天国や地獄といった来世こそが重要であり、その通過点である現世での快楽や蓄財、名声は虚しいものとされたのです。そのため骸骨や頭骨の骸骨である"しゃれこうべ(髑髏)"を、絵画に描いたり、墓石に彫ったりすることが流行しました。
中世末期に流行したモチーフの「死の舞踏」は、当時流行ったペストの流行が背景にありますが、このセドレツの墓地にもペストの死者が数多く葬られているのです。つまりこの納骨堂に来た人たちは、多くの骸骨を見てただ怖がるだけでなく、人生の虚しさ、一生の短さを感じ、そして正しく生きることを意識する、そんなキリスト教的な考えがこの納骨堂にはあるのです。
すぐ近くにある世界遺産の聖母マリア大聖堂に寄ってみよう
納骨堂から地上に出ると、きっと開放感に包まれることかと思います。この納骨堂にいる間、私たちは「死」というものに、否が応でも向き合わざるを得ません。そのため外に出た時に、逆に生きていることを実感します。それが、この納骨堂の狙いでもあるのです。
<かなり大きな聖母マリア大聖堂>
セドレツではぜひ、聖母マリア大聖堂(「ナームニーチェの聖母マリア教会」とも)もご覧ください。14世紀前半に建てられた墓地教会をもとにした18世紀の再建ですが、最古のバロックゴシック建築とも言われ、これはチェコのゴシック建築としては最も有名なものの一つです。またクトナー・ホラの聖バルバラ教会など共に、世界遺産に登録されています。
セドレツへのアクセスとチケットの買い方は?
<クトナー・ホラ本駅へはプラハから1時間>
プラハからセドレツへはバスもありますが、時間がかかるため鉄道が便利。プラハ本駅からセドレツの最寄駅であるクトナー・ホラ本駅Kutna Hola hl. n.へは1時間に1〜2本。直通だけでなく、途中の少し大きな町コリーンKolin乗り換えでも行けます。所要約1時間。
クトナー・ホラ本駅からは、駅を出て右へ200mほど歩いて行くと大通りに出るので、そこを左折し800m進むと、左に大きな聖母マリア大聖堂が見えてくるので、その前を右折。途中、左側に観光案内所があり、そこでセドレツ納骨堂のチケットを購入します。地図やクトナー・ホラの日本語パンフレットも置いているので、ここで貰っておきましょう。チケットはセドレツ納骨堂だけでなく、聖母マリア大聖堂、クトナー・ホラの聖バルバラ教会の入場がセットになったものもあり、割引料金になっています。
クトナー・ホラ旧市街や世界遺産の聖バルバラ教会へはセドレツから歩いても行けますが(約3km)、聖母マリア大聖堂の向かい付近にあるバス停からバスで行けます。バスの運行時間は観光案内所で聞くといいでしょう。
基本情報
セドレツ納骨堂
- 施設名:Kostnice Sedlec
- 住所:Zámecká, 284 03 Kutná Hora
- 営業時間:4月〜9月9:00~18:00、10月〜3月9:00~17:00、
- 定休日:12月24日
- 入場料:90コルナ、聖母マリア大聖堂と共通120コルナ、カテドラル&聖バルバラ教会と3カ所共通220コルナ
- 電話:+420 326 551 049
- セドレツ観光局HP:https://www.sedlec.info/en
【注意】2020年1月1日より、教会内の写真撮影が禁止になりました。
セドレツ観光案内所 Information Center
- 住所:Zámecká 279, 284 03 Kutná Hora
- 営業時間:9:00~18:00
- 定休日:12月24日
- 電話:+420 326 551 049
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前原利行
- 東京出身で、現在は神奈川在住。今までに訪問した国はアジア、アメリカ、ヨーロッパ、アフリカなど90か国以上。現在は海外旅行や映画、音楽、アートに関する、ライター及び編集者として活動中です。一番多く訪れているのはインドで、仕事も含めて20回以上。プライベートではロックミュージックや映画、そして世界史好きなので、欧米旅行も多く、映画のロケ地や音楽フェス、ロックの聖地、世界史の場所など、テーマを持った旅をしています。