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【たびこふれ美術館】第4話 プラド美術館の至宝!空間のトリックを見よ「ラス・メニーナス」
こんにちは♪
たびこふれ美術ライターのやすおです!
いよいよ11月に入り、今年も残すところあと2か月となりましたね。
気候もすっかり秋らしくなって、まさに芸術の秋到来!といったところ。
今回はそんな芸術の秋にぴったりの、世界でも屈指の絵画を取り上げてみたいと思います。
プラド美術館の誇る門外不出の傑作、ベラスケスの「ラス・メニーナス」です!
謎に満ちた絵画、どうぞお楽しみください~♪
目次
世界最高峰の絵画とはこのこと!
この絵画は、新大陸を発見した(世界の融合)ことを発端に黄金時代を築いたスペインにおいて17世紀半ば、宮廷画家であるベラスケスが57歳のときに描き上げた、彼の作品の中でも屈指の出来を誇る作品です。
世界には「名画」と呼ばれる作品は星の数ほどありますが、この作品はそんな中でも突出するほどに素晴らしく、ガイドさん曰く歴史的価値・保存状態などを鑑みても今この作品をオークションにかけたとすると2,000億円は下らないそうです!
2017年に絵画最高落札額を記録したレオナルド・ダ・ヴィンチの「サルバドール・ムンディ」ですら508億円だったことを考えると、その価値は計り知れません。
もちろん絵画の価値は値段だけで決まるわけではないんですけど、それでもそこまで言わせてしまうっていうところが既にすごいですよね。
この絵画は非常に謎が多く、未だに統一された解釈は出ていないのですが、ミステリーハンターになった気持ちで鑑賞していきたいと思います!
ではもうちょっと寄って見てみましょう。
※「2,000億円」のくだりはガイドさんが大きく盛っている可能性があります。あしからず(笑)
描かれているのは何人?
「ラス・メニーナス」とは日本語に訳すと「女官たち」。真ん中の白いドレスを着てこちらを向く少女が、当時5歳のマルガリータ王女、その両側を2人の「ラス・メニーナス」が囲んでいる構図のため、こう呼ばれています。
左のキャンバスの後ろに立ち、こちらを見つめている人は画家ベラスケス自身。右端の2人は王家に仕える従者(矮人(わいじん)と呼ばれる低身長症の人が王女様の遊び相手として仕えていました)、立っている女官の右上の2人は貴婦人係と目付け役、後ろの扉の中に立つのは王妃の従者。
つまりこの絵画に描かれている人数は・・・9人?
いえ。
ここがこの絵の最大のポイントになります。
この絵画に描かれている人数は11人。
あとの二人は・・・
王女様のすぐ上の鏡の中に描かれているのです!
驚くべき絵画のトリック!
そもそもこの人たちはこうやって集まって何をしているのでしょうか?
ただみんなで集まっているだけなら9人のうち4人(ベラスケス・王女・左の矮人・王妃の従者)も、いわゆる「カメラ目線」である必要はありませよね。かれらの視線の先には何かがある。それを解き明かしてくれるのは・・・鏡。
鏡の中をご覧いただくと二人の人物が映っているのがわかります。
この二人は・・・マルガリータ王女のお父さんとお母さん、国王フェリペ4世と王妃マリアナ。この絵画には彼らを含めて合計11人もの人物が描かれている集団肖像画なのです。
そしてベラスケスがキャンバスに向かって描いている絵は、位置的に見て国王夫妻の肖像画。マルガリータ王女たちは、モデルとして退屈している国王夫妻の前に遊びにきたところなのでしょう。
つまりこんな感じ。
そう思ってみるとこの絵、急に奥行きがあるように見えてきませんか?
本来絵画とは2次元のものですが、西洋絵画ではいかにその中に3次元を表す?かということがルネッサンス以降のテーマでした。
国王夫妻の立つ位置というのは、ちょうど私たち鑑賞者の位置に重なります。つまりこの絵画は、鏡の中の国王夫妻の存在が私たちに絵画の手前部分を想像させ、私たちを絵の中の登場人物のような気持ちにさせます。
そして、その効果をより強く感じさせるもう一つの仕組みは、無駄に広く見える絵画の上半分のスペースです。
この絵画がただの肖像画なのであれば、下半分だけでも肖像画として成り立ちますよね。でも、この絵はこの広い上半分のスペースのおかげで無意識のうちに絵の中の世界に引き込まれていきます。まるで、
その同じ空間に立ち会っているように、私たちを絵画の世界に強く誘っているのです!
ベラスケスが本当に描きたかったものとは・・・!
この絵の主役は真ん中で一人、煌々と光を浴びているマルガリータ王女に違いありません。この絵の描かれた当時、何人かいた国王夫妻の子供たちはマルガリータ以外には既に亡くなっており、マルガリータがこの強大なスペインの後継者になることが決定していました(後に王子となる弟が産まれており、彼女はお嫁に出ますが)。
そんなマルガリータを中心に据えて立派な絵画を残そうとするのは至極当然のことです。しかし、王女の肖像を残すだけなら、こんなにややこしい構図にする必要はないですよね?
ここにベラスケスの思いが入っていると思うのです。
当時、画家という職業は、一般社会でも宮廷社会でも身分の低い「職人」のような仕事でした。ベラスケスは最終的には重要ポストである王宮配室長に任命されますが、それでも王様たちの肖像画の中に「職人」がおさまることなど異例中の異例。
ただ、33年間フェリペ4世の「王の画家」として仕え続けたベラスケスの気持ちを王様が汲んだのでしょう。この複雑な構図によって、本来はあり得ない「王様と同じ絵の中に姿を留める」ことを許されたのです!
よかったね、ベラスケスさん。
「ラス・メニーナス」を見に行こう!
さて、そんな「ラス・メニーナス」を擁するプラド美術館は今年、1819年に王立絵画彫刻博物館として開館してからちょうど200周年を迎えました!
来年からは201年目と、新しいプラド美術館として進んでいくようですので、是非足を運んでみてくださいませ。他にもゴヤやエルグレコを始め、世界屈指の絵画がみなさんをお待ちしています♪
あ、その際には「ラス・メニーナス」の空間トリックをお忘れなく。
精神を統一して絵画に入っていく気持ちでご鑑賞を・・・
実際には鑑賞のための場所取りに忙しくて精神統一どころではないですけどね(笑)
グッドラック☆
山上やすおのホームページはこちら
>>>「ラス・メニーナス」のあるマドリッドのプラド美術館を訪れるツアーはこちらからチェック!
<東京発>
<大阪発>
※上記ツアーは終了しています。
編集部註:本記事は2019年11月に公開されていますが、2021年3月に修正しています。
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山上やすお
- 国内外の添乗員として1年の半分ほどを現地で過ごすかたわら、日本にいるときには各地で美術のカルチャー講師をしています。博物館学芸員資格保有。「旅に美術は欠かせない!」の信念のもと、美術の見方、楽しみ方を記事にしていきます。