築地のいい店、酔える店 第3回『酒美土場』

<心地よい築地の宵を過ごせる、よい店を訪ねて酔いしれるシリーズ。3軒目は前回登場した『長生庵』の2代目・松本さんが推す、築地場外市場のワインショップへはしごします>

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<身体に優しいワイン、日本酒、食材の店『酒美土場(しゅびどぅば)』。昼間も角打ちをしていて、週末は夜遅くまで開いている>

目次

スルスル呑めるワイン

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<ジョージア、イタリア、スペインなど国内外のナチュラルワイン、とくにオレンジワインのセレクトに力を入れる>

築地場外市場にある『酒美土場』はナチュラルワインと、ワインとの相性も良い日本の伝統的な発酵食材を扱うショップ。呑んで、食べて身体が活き活きと元気になるお酒と、素材の力を感じる食材を選び抜いています。意外にも、築地でそのような存在は希少です。店主はフレンチレストランのシェフソムリエ、ワインのインポーター、講師などワインに関わる仕事に長年携わってきた岩井穂純(ほずみ)さん。友人の縁で出店を決めたとき、「食の街」をうたうからには、安全、安心でおいしいものを置き、伝えたいと考えたそうです。

「ワインを呑みすぎるとアルコールの分解も遅くなって、翌日に残ることがありますが、ここで扱うワインはそういうものがないです。スムーズに入ってきて、素直に呑めるもの。自分の身体と相談して、お客さまに本当に大丈夫ですと勧められるものを選んでいます」

農薬、ブドウの発酵を促す人工的な糖分、酸化防止剤、それら頭が痛くなり、気分が悪くなる要因と考えられるケミカルな成分を注視するのはもちろん、すべて身体のセンサーを介して、岩井さんはふるいにかけているのです。ショップでは真摯で、誠実な造り手が醸した、スルスルと呑めるワインを買い、店内で味わうこともできます。

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<酒粕、漬け物、納豆、味噌など日本古来の製法を守り、造られる食材を厳選。ナチュラルワインともよく合う>

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<店主の岩井さん。ワインショップはいろいろな意味で多彩なことができると思い、2年半前に『酒美土場』をオープン。ワインコンサルタントとしても活躍中。個人としてはオーストリアのワインが好きで、オーストリアワイン大使の称号ももつ。酸味、ミネラル感がしっかり感じられて、味が伸びやか。きれいなクラシックを聴いているような、とても凛として美しいオーストリアのワインに魅せられてきたそう。ちなみに手に持つのは珍しいスロバキアのオレンジワイン>

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<スタッフの喜納(きな)さん。ラジオ番組のディレクターなどさまざまな仕事を経て、ナチュラルワイン好きが高じて店に立つ。深い知識をもちつつ、さらりと軽妙。好みに合わせて最適なものを選んでくれる。飄々とした彼の人柄が醸すフレンドリーな空間感もあって、私のようなワイン初心者も気軽に、快楽的に酔える>

ひたすら心地いいオレンジワイン

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<滋賀「ヒトミワイナリー」のオレンジワイン。口当たりの良いフルーティさ、味噌漬け豆腐との相性のよさにびっくり>

私はあらゆるお酒のなかでワイン独特のフルーティな香りや味わいが好みなのですが、ワインを呑むと頭が痛くなり、翌日に身体が重く、心がどんより沈むことが多々ありました。安価なものだけでなく、都内の有名店でナチュラルワインを呑んだときも同様で、体質的にワインが合わないと諦めつつあったのです。それが前回ご紹介したように、「長生庵」で日本のナチュラルワインを口にして考えが一変。その感慨を後日、店主の松本さんに伝えると、ぜひ訪ねてみてと推薦されたのが「酒美土場」だったわけです。初訪問時にスタッフの喜納さんが選んでくれたのはヒトミワイナリーという滋賀県のワイナリーが造るオレンジワイン。今まで口にしたどのナチュラルワインよりもスルスルと呑めて、果実のふくよかな香りを愉しめて、心地よさが長く続き、身体も心も元気になる感銘を受けました。

オレンジワインとは赤、白、ロゼに続く4番目のワインで、白ブドウを用いつつ、赤ワインと同じ工程で造られ、果汁だけでなく皮や種も一緒に発酵させたもの。白ブドウの皮にはアントシアニンが含まれないため、赤色にはならず、黄色系の色素が溶けだすことでオレンジ色になるそうです。約8,000年前からワインを造ってきたジョージアでは白ブドウの皮と種を素焼きの壺に入れて(茎も入れることも)土中で自然発酵させるやり方を今も継承しているのですが、これにより生まれるオレンジワインをアンバー(琥珀)ワインと呼んでいます。ジョージアのみでなく、今は世界的にオレンジワインがトレンドで、ナチュラルワインにはオレンジワインが多いのだとか。

「身体に楽ですし、料理全般的に相性がいいのも魅力。肉や魚だけでなく、味噌をはじめ、日本の発酵料理ともよく合うんです。オレンジワインはこれからの分野なので、ほかにもいろんなものに合うかもしれません。そんな新しい発見が楽しいですし、王道の組み合わせというのではなく、自由に愉しめるワインなんです。ちなみに、パン単体をワインに合わせようと思うと意外に難しいんですが、オレンジワインはどのパンにもすごく合います」

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<赤ワインと同じくタンニンを含むオレンジワインは白ワインと比べて酸化防止剤の亜硫酸の添加が控えめ。加えて、岩井さんが選び抜くものはスルスル呑めて、心地いい余韻が続く。2杯目にいただいたのはスモーキーさが特徴の、イタリア、ピエモンテ州のオレンジワイン。ブドウの品種、製法の違いにより、ヒトミワイナリーとは異質の味わいを愉しめた。少しクセのあるもの、甘いもの、酸味が強いもの、気軽にいろいろ試して、好みに出合った瞬間が楽しい!>

器で味が変わる?

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<香りを引き立たせる効果があるワイングラス。立ち呑みでガラス製のグラスだと緊張し、味の感じ方に作用するからと『酒美土場』では成分が溶け出さないプラスチック製グラスで提供している>

下方が丸く膨らんだワイングラスで呑むと、ワインがよりおいしく感じられるとよく耳にします。素朴な疑問として事実なのか尋ねました。

「呑むときの顎の上がり方や角度など、いろんなことで味覚はけっこう変化します。おいしくしようと形状を工夫した結果ですし、ワイングラスで呑むとおいしく感じるのは、それはそれでいいことだと思います。ただ、それは味が少し補正されているともいえます。私はそういう誰かの考えのもとで呑まされているのがけっこう嫌で、湯呑みや平皿、手のひらで呑んでみたり、哺乳瓶も試してみました」と岩井さんは容器のかたちによって、いろいろなパターンがあることを知ってほしいと「感覚テイスティング」を唱えます。

例えば、厚みと若干の渋味があり、土っぽくてお茶に似た風味のジョージアのオレンジワインは湯呑みや茶碗など陶器とマッチするとか。これは相性の話ですが、そもそも親指と人さし指で細い脚をつまむ繊細なガラスのグラスと違って、湯呑みは両手で安定して支えられるぶんリラックスして呑めて、味の感じ方が変わることがあるそうです。私は最近、薄ガラスのワイングラスを初めて購入したのですが、華奢なグラスで呑む緊張感が味覚を鋭くするように感じられ、分厚い再生ガラス製のワイングラスでカジュアルに愉しんでいたときとは別の趣きを堪能できるようになりました。感じ方は人それぞれ。大事なのは風説に縛られず、自身の感覚をたいせつに、本当のおいしさを求める姿勢なのでしょう。

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<ジョージアのワインは陶器に合うと聞き、家から湯呑みを持参。確かにこのワインはガラスではなく土の容器の方がよりおいしく感じられると思った。天日干しのたくあんとも抜群に合う>

気軽な楽園

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<チャージ無しで一杯500円~1,000円。ワイン初心者でも気おくれすることなく、通りすがりに入れる『酒美土場』。一杯だけでさっと帰るもよし。居合わせた人と杯を重ねるのもよし。ひとり呑みが苦手だった私も頻繁に足を運んでいる>

ワイナリーや土地ごとの多様で個性あふれるオレンジワイン。まだ数杯を愉しんだだけの私でも、添加物で味を整えないそのままの味、自由で伸び伸びとした味わいにすっかり魅了されました。それに、本当に身体に優しいものを感得する岩井さんのセンサーにも。じつは、最近、別の店でナチュラルワインと謳うものを呑む機会があったのですが、すぐに気分が悪くなってしまいました。『酒美土場』の扱うオレンジワインに心酔して以来、自分に合わないものが鮮明になり、身体がより率直に素早く反応するようになったようです。

「うちでナチュラルワインやオレンジワインを呑んでもらって好きになってくれる人がたくさんおられてすごく嬉しいです。今までワインは受けつけなかったけれど、呑めるようになったと言ってくれる人もいます」と岩井さん。ひとりあるいは友だちと立ち呑みしに来る女性のお客さんもよく見かけるのですが、ワインの雰囲気は好きでも、ここに来るまでは悪酔いすることばかりで苦手でしたと皆さんが一様に話されます。築地から離れた所から呑みに来ていた女性は「岩井さんが選ぶナチュラルワインでないと駄目なんです」と明言。私も同感で、そうして嗜好を共感できる見ず知らずの人とともに心地いい酔いを愉しめるのが楽しいです。築地場外市場の楽園を目指す次なる晩が待ち遠しいなぁ。

酒美土場(しゅびどぅば)

>>>酒美土場の情報を【ぐるなび】で詳しく見てみる
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