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ウィーンのど真ん中で200年の眠りから覚めた、地下礼拝堂「ヴィルギル礼拝堂」
目次
はじめに
ウィーンの地下鉄の駅構内には、不思議な地下礼拝堂があります。
シュテファンスプラッツ駅はウィーンの中心にあるシュテファン大聖堂の真下にあり、観光の起点になるため、ウィーンに来たら必ず利用することになる主要駅です。そんな人通りの多い駅の構内から、奇妙な石造りのアーチと地下空間が続いています。
この礼拝堂は、1973年の地下鉄工事の途中で発見されるまで、その存在は200年間完全に忘れ去られていました。発掘当時は、巨大な地下礼拝堂が街の真ん中で発見されたということで、ヨーロッパ中でニュースになったほどです。
発見後40年かかった改修期間中も、礼拝堂はガラス越しに一部見ることができても、立ち入る機会はほとんどありませんでした。2015年にやっと改修工事が終わって晴れて博物館としてオープンし、数奇な運命をたどった地下礼拝堂の歴史を知ることができるようになったのです。
駅構内から入れる、ヴィルギル礼拝堂の入り口。礼拝堂の上部がガラスからのぞいています。
礼拝堂の歴史
この謎の礼拝堂は聖ヴィルギルにささげられたもので、1220~30年ごろに作られたとされています。壁には赤い十字架が描かれ、主祭壇にはおそらく儀礼用と思われる井戸があります。石造りで、地下鉄の駅から更に2階分ほど深いので、地下4階分ほどの深さでしょうか。こんなに深いところに広々とした礼拝堂が作られたこと自体、驚きです。
礼拝堂を正面から見て。地下とは思えない高さです。
儀礼用とされる井戸を覗くと、コインが入れられています。礼拝堂ですので、ご利益があるかもしれませんね。
14世紀には、この地下礼拝堂の地上部分に、マグダラのマリア礼拝堂が建てられ、地上と地下に一つずつ礼拝堂があるという構造になりました。この地上の礼拝堂では、シュテファン大聖堂の周りにあった墓地のための、葬儀などを執り行われていました。
地下の礼拝堂(一番下)と、上に建てられたマグダラのマリア礼拝堂の再現図。
しかしその後、このマグダラのマリア礼拝堂は1781年に焼失します。その頃には墓地はもう移転していたため存在意義を失い、再建されることはありませんでした。この教会の当時の場所は、シュテファン広場の地面に描かれていることで、うかがい知ることができます。
そして、目印となる地上の礼拝堂がなくなってしまったため、地下のヴィルギル礼拝堂は完全に忘れ去られてしまいました。200年という長い年月の間、この空間は暗闇に包まれていたのでしょう。
内部見学
ヴィルギル礼拝堂への入場料を入り口で支払うと、iPadとヘッドホンが手渡されます。画面上で今いる場所をタッチすると、音声案内が聞こえる仕組みになっています。
<オーディーガイドは使いやすいスクリーン&ヘッドホンタイプ>
中世の音楽であるグレゴリオ聖歌などのBGMを聞きながら、この礼拝堂の数奇な運命を聞いていると、不思議な気持ちになります。
入り口を入ると、礼拝堂を見下ろすことができる橋があり、螺旋階段を通って下の階に降ります。
螺旋階段の上の橋の部分が入り口。螺旋階段を下りて礼拝堂に入ります。
礼拝堂自体はあまり大きくありませんが、かなりの高さがありますので、見上げると自分が地下にいることを忘れてしまいそうになります。赤くうっすらと見える壁の十字架と、武骨な石造りを見ていると、時代の流れの中で、誰にも気づかれることなく地下に眠っていたこの礼拝堂の歴史がリアルに感じられます。
また、礼拝堂の一角は小さな展示スペースになっていて、修復途中でここで発見された、中世のコインや鍵などの発掘物が展示されています。ローマ時代から中世にかけてのウィーンの歴史に興味がある方は、ぜひ覗いてみてください。
何の扉の鍵なのか、気になってしまいますね。
ヴィルギル礼拝堂まとめ
謎に満ちた地下礼拝堂の全貌が、ようやく最近になって一般の目に触れることができるようになったわけですが、実際に足を踏み入れ、説明を聞いてみると、思った以上に歴史と建築、宗教の重みを感じることができました。
首都のど真ん中という好立地で、ここまで手軽に短時間で別世界感を体験できる場所は、なかなか珍しいかもしれません。もし観光の合間に少し時間があれば、ぜひ立ち寄って、この奇妙な礼拝堂の忘れられた歴史を肌で感じてみてくださいね。
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ひょろ
- オーストリア、ウィーン在住。10年以上暮らしてもまだ新しい発見の連続のウィーンの魅力を、記事執筆、現地調査、ネットショップなどを通じてお届けしています。国際機関勤務を経て、バイリンガル育児の傍ら、ミュージカル観劇が趣味。