映画「ポルトの恋人たち  時の記憶」を観た感想

こんにちは!たびこふれ編集部のシンジーノです。

映画「ポルトの恋人たち 時の記憶」の試写を観ました。
日本、ポルトガル、アメリカによる合作映画である本作は
ラブストーリーでもあり、ミステリーでもあり、ホラー的色あいもある、
今までに見たことのないような斬新な構成の映画で心を揺さぶられました。

(以下一部ネタバレの部分があります。)

あらすじ

物語の舞台は、リスボン大震災後のポルトガルと東京オリンピック後の日本。
乗り越えられない境遇ーボーダー(境界線)によって引き裂かれ、その挙句に恋人を殺害された女が、その恨みを晴らすために選んだ手段は、想像もつかないものだった・・。
18世紀と21世紀、登場人物の立場は時代によって微妙に入れ替わりながらもほとんど同じプロットが反復され、デジャブのように交差し、やがて愛憎の不条理に引き裂かれた人間の業を炙り出してゆく。

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(C)2017『ポルトの恋人たち』制作委員会

あまり知られていない日本人奴隷の存在

ポルトガルで日本人が奴隷をしていたということを私は知りませんでしたが、歴史に記録が残っているようです。大航海時代、ポルトガルから日本に鉄砲が伝来した時、火薬と引き換えに日本が輸出していたのは奴隷だったそうです。農民や身分の低い人々が集められ、男は労働力、女は売春婦として売りさばかれていたようです。

映画を観てとても印象に残ったのは、18世紀の「奴隷の顔(表情)」です。生気がなく、ただ生きている。まるで一日中暗闇の中にいるように。現代に生きる私たちからは奴隷の人たちの心がどのようなものだったのかは想像できませんが、そういう時代が確かにあったという事実。
この映画の原題は「Lovers on borders」。border(境界線)の外にいる人たちが不条理の中で虐げられながら生きている。そんな中でも思いを通じあわせ、わずかな光に希望を持って生き繋いでいる人もいる。この映画はそういった人たちの物語です。現代には奴隷制度はありませんが、今も境界線で虐げられている人は現実にいます。例えば不況で企業の業績が落ちてきた時、リストラでまっさきに切られるのは国籍(境界線)の外にいる人たちだったりします。時代や場所が変わっても"人間が作った"ボーダー(境界線)によって不条理な目に遭う人がいるという現実を舩橋監督は映画を通して世の中に問いかけます。

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(C)2017『ポルトの恋人たち』制作委員会

今の時代から見れば奴隷制度は非人道的で、決してあってはならないことだと簡単に判断できます。しかしその時代には奴隷制度は当たり前のように認識されていたでしょう。時代が変わった今でも、リストラでボーダー(境界線)外にいて不条理な扱いを受けている人たちがいる。私たちはそれを「しょうがない」と感じたり、見て見ぬふりをしたり、もしかしたら昔の奴隷制度のように当たり前と思っているかもしれません。でも現代では奴隷制度が明らかにおかしいと感じるように、時代によって人の心も変わってきます。国籍等で不条理な扱いを受けるという現在のボーダー(境界線)も、あくまで人が作ったボーダー(境界線)で、永久に絶対的なものではないのかもしれない。時代が変われば昔の奴隷制度と同じように「それはおかしい」と認識されることになるかもしれません。境界線とは人間が勝手にその時の都合のよいように設定した"方便"に過ぎないのかもしれないのです。このことを私たちは意識しておく必要がある、と映画は問いかけてきます。

私の好きなシーン

私は2部(浜松)のマリナ(アナ・モレイラ)と幸四郎(中野裕太)の雰囲気が好きでした。恋人らしさがとてもよく出ていました。中でもポルトガルの街の片隅でマリナと幸四郎が出会う場面は素敵です。最高にかっこいい。街の雰囲気がとても絵になっています。

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(C)2017『ポルトの恋人たち』制作委員会

また仕事を終えて工場からの帰り道、幸四郎のたばこをマリナが取って背中ごしに吸うシーン。貧しくともささやかで確かな幸せをふたりが感じている雰囲気がよく出ていました。ぜひこのシーンは皆さんにご覧いただきたいですね。

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(C)2017『ポルトの恋人たち』制作委員会

ポルトガルという国の魅力

映画「ポルトの恋人たち 時の記憶」を観て、ポルトガルは本当に美しい街だなぁと改めて思いました。
どの場所もすごく絵になります。とくに恋人同士を写真に撮る時の背景には絶好の舞台ではないかと思います。ただ佇んでいるだけでラブストーリーです(笑)例えばポルトのサンベント駅の構内はこんなに素敵なんですよ。

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ポルトガルという国は他のラテン系の国のように明るく華やかではなく、どこか哀しい。退廃的な雰囲気さえします。マリナはバーでファド(ポルトガルの民族音楽)を謳いますが、イタリアのカンツォーネやスペインのフラメンコのような溌剌さ、激しさはなく「憂い」「哀愁」という言葉が似合います。弱った心に深く染みこんできます。私は時代小説が好きなのですが、カンツォーネやフラメンコが池波正太郎や司馬遼太郎だとしたらファドは藤沢周平ではないかと思います。元気でパワーに充ち溢れている時には明るいカンツォーネやフラメンコが心地良いのですが、心が疲れている時にはファドの哀しさが傷んだ心に寄り添ってくれるようです。(あくまで個人的見解です)

またポルトガルはヨーロッパの中では日本にとてもよく似ています。例えばポルトガルの「いわしのグリル」という料理は日本の塩焼きとそっくりです。

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ポルトガルのお米料理もイタリアのリゾットやスペインのパエリアよりも日本のお米に近い食感と味なんです。監督の舩橋 淳さんもポルトガルについてこう仰っています。「日本とポルトガルはどこか似ているんです。大陸の隅っこで、海に面していて、米を食べ、どこか内向き。最初は何を考えているかわからなかったですが、最後はガツガツしていないところがすごく好きになりました。まっすぐで素朴な人が多いんです。」柄本祐さんはハネムーンでポルトガルに18日間訪れたほどポルトガル好きだそうでポルトガルの魅力についてこう仰っています。「ゆったりしているところですね。ぼんやりしているから肌が合うんですよ。ゆったりしているせいか、人も優しいんです。」

経済や効率最優先ではなく、人が人として生きていくこと「生」を楽しむことが最優先される生き方。"人として生きていく幸せ"とは何なのかを問われているような気がします。

舩橋 淳監督は「震災」や「border(境界線)」をテーマにした作品を手がけて世界から高い評価を得ています。舩橋監督の別の作品「ビッグリバー(2006)」「桜並木の満開の下に(2013)」「フタバから遠く離れて(2012)」「フタバから遠く離れて 第2部(2014)」もぜひ観てみたいと思いました。

【ポルトの恋人たち 時の記憶】

柄本佑、アナ・モレイラ、アントニオ・ドゥランエス、中野裕太

製作:Bando á Parte, Cineric, Inc., Office Kitano

プロデューサー:ロドリゴ・アレイアス、エリック・ニアリ、市山尚三

脚本:村越繁 撮影:古屋幸一 編集:大重裕二 音楽:ヤニック・ドゥズィンスキ

監督・脚本・編集:舩橋淳

配給:パラダイス・カフェ フィルムズ

配給協力:朝日新聞社

PG-12

2018/日本=ポルトガル=アメリカ/139分/シネスコ/5.1

©2017 『ポルトの恋人たち』製作委員会

2018年11月10日(土)シネマート新宿 ・心斎橋ほかロードショー

※映画上映は終了しましたが、2019年8月にDVDが発売される予定です。

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シンジーノ

3人娘の父で、最近は山歩きにハマっているシンジーノです。私は「お客さまが”笑顔”で買いに来られる商品」を扱う仕事がしたいと思い、旅行会社に入って二十数年。今はその経験を元にできるだけ多くの人に旅の魅力を伝えたいと“たびこふれ”の編集局にいます。旅はカタチには残りませんが、生涯忘れられない宝物を心の中に残してくれます。このブログを通じて、人生を豊かに彩るパワーを秘めた旅の素晴らしさをお伝えしていきたいと思います。

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