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【オランダ】アムステルダムで真夜中に作品を残していく不思議な彫刻家って?
アムステルダムには、ちょっと不思議な彫刻家の逸話があります。真夜中の街の一角に、人知れず作品を残していくのです。素朴でユーモラスな彫刻の数々は、アムステルダムの住民に愛されてきました。その作品の数々をご紹介していきます。
1.トラム10番に駆けこむ男性
ことの始まりは1982年のことです。アムステルダム西部のマルニックス・ストラートに、「バイオリンケースを持った男性の像」が現れました。トレンチコートをまとい、目の前にあるトラムの停留所へ駆け込むようなポーズです。作者が「匿名」であることを象徴するかのように、持ち上げられた帽子の下に顔はありません。
この彫刻は『トラム10番に駆けこむ男性』と呼び親しまれています。
2.小さな木こり
それから7年後の1989年にはライツェ・ボッシェの樹の枝の上に、高さ50cmほどの『小さな木こり』が現れました。
仕事道具のノコギリが持ち去られてしまったり、ベレー帽が行方不明になったりと災難にも見舞われましたが(どちらも無事に元に戻されました)、小さな木こりは26年間休むことなく働き続けています。
3.ヴァイオリニスト
3つ目の彫刻は1991年、北海沿いの街フェルセンで発見されました。ある朝、ヴァイオリン奏者の大きな胸像が、砂浜から幻想的に姿を現したのです。
『ヴァイオリニスト』は現在、アムステルダム市のStopera(市庁舎とオペラハウスが合体した複合施設)のエントランスホールに、大理石の床を突き破るような演出で設置されています。
4.その他の彫刻
1993年には旧教会広場の石畳に、女性の胸の浮き彫りが見つかりました。乳房に優しく添えられた手には、鎖と南京錠が繋がれていました。この界隈は「飾り窓」の並ぶ売春地区で、2007年には同広場に、世界中の売春婦に敬意を表す『Belle』の像が設置されています。
続く1994年には『アコーディオン奏者』が、1995年には『会話中の三紳士』が姿を現しました。
『アコーディオン奏者』は、1982年と1991年のヴァイオリン奏者に続く第三の音楽家です。
人々が寝静まった真夜中に作品を残していく彫刻家の正体は?
夜な夜な彫刻を残しては消えていく彫刻家の正体は誰なのか、二つの説が囁かれています。まずは彫刻を趣味とする医師、「アンドレ・ハバス氏」だという説。もうひとつは「ベアトリクス前女王」だとする説です。ベアトリクス前女王が彫刻家として優れた腕前の持ち主であること、『小さな木こり』が女王誕生日前夜に設置されたこと、『ヴァイオリニスト』がベアトリクス前女王の夫であるクラウス殿下と似ていること、設置場所などアムステルダム市に優遇されていることなどから、彫刻家はベアトリクス前女王に違いないと期待をこめて信じられるようになりました。彫刻にオランダ国旗の三色が用いられたのは、ただの偶然ではないようです。最後の作品からは既に15年以上が経過していますが、また思い出したように連作が現れるかもしれません。
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Kayo Temel
- オランダ在住。アムステルダムの美術アカデミーで絵画を学び、イラストレーターとして活動中。20年の在蘭経験を活かして、オランダを満喫するためのローカルな情報をお届けします。