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スイスの言語、公用語は?祝80周年!第4の国語・ロマンシュ語
スイスでは言語(国語)が4つ!
スイスは日本の九州ほどの面積しかない小さな国である。そんな小国スイスに、4つもの異なる国語があると言うと驚かれるかもしれない。
<スイスの4つの国語>
・「ドイツ語」
・「フランス語」
・「イタリア語」
・「ロマンシュ語」
この4つの中で、最も多く話されているのはドイツ語(スイスドイツ語)。国内のおよそ70パーセントの地域で話されていて、首都ベルンを始めチューリッヒやバーゼル、ルツェルン、ツェルマットなど、スイス観光でお馴染みの街の多くはドイツ語圏に当たる。次に多いのがフランス語(約23パーセント)で、チーズで有名なグリュイエールや「時計の街」ラ・ショー・ド・フォン、レマン湖畔にあるジュネーブやローザンヌ、モントルーなど、基本的にスイス西部地方はフランス語圏だ。イタリア語は南部のティチーノ州(とグラウビュンデン州の一部)で話されていて、その割合は国内のおよそ6パーセント。残りの約0.5パーセントは?というのが、今回ご紹介するロマンシュ語だ。
<おおよその各語圏分布図。ロマンシュ語圏は面積こそかなり広いものの、住んでいる人は少ない。>
スイス人が誇る、スイスならではの超少数言語「ロマンシュ語」
ロマンシュ語というのは、スイス東部・グラウビュンデン州の中のごく限られた地域で話されている、スイス独特の言語。スイス国内でロマンシュ語を母語としている人は、約5万人と大変少ない。ロマンシュ語はスイスの国語(ランデスシュプラーヘLandessprache)ではあるが、厳密な意味での公用語(アムツシュプラーヘAmtssprache)ではないのが特徴(グラウビュンデン州では公用語)。ロマンシュ語だけで生活するのは現実的に不可能なので、ロマンシュ語話者はほぼ全員、他の国語(基本的にはドイツ語/スイスドイツ語かイタリア語、もしくは両方)も話すマルチリンガルだ。
ロマンシュ語がスイスの国語として法的に正式に認められたのは1938年のことで、今年はロマンシュ語がスイスの国語になってちょうど80年の記念すべき年に当たる。ロマンシュ語を国語に採用・認定するかどうかについては1938年2月に国民投票が行われたのだが、この超少数言語の国語認定に、何と投票者の91.6パーセントが「賛成」票を投じたのだそうだ。圧倒的多数で可決されたこの「第4の国語・ロマンシュ語」は、スイスの多様性とソリダリティ(団結・連帯)を象徴する顕著な例のひとつだと言える。
ものすごく違う!ロマンシュ語の5つの方言
ロマンシュ語は俗ラテン語を起源に持つロマンス語派の言語だ。同じロマンス語派であるイタリア語やフランス語と比較的近い関係にある。大きく分けると、5つの方言があるのだが、それぞれが独自の言語だと言う方がいいぐらい、各方言に大きな違いがある。
<5つの方言>
・州西部の「Sursilvan」
・州中西部の「Sutsilvan」
・州中東部の「Surmiran」
・州南東部・オーバーエンガディン地方の「Puter」
・州北東部・ウンターエンガディン地方の「Vallader」
例えば、「さようなら/また会いましょう」という意味の別れの挨拶は、以下のようになる。
・Sursilvanでは「シン・セヴェセァ(Sin seveser)」
・Sutslivanでは「セン・サヴァセァ(Sen savaser)」
・Valladerでは「ア・レヴァイァ(A revair)」
これらを標準・統一化した「ルマンチュ・グリシュン(Rumantsch Grischun/※直訳すると「グラウビュンデン・ロマンシュ語」で、グラウビュンデン州の公用語)」というものもある。こちらは公文書などではこれが使われているそうだが、ロマンシュ語話者の中ではあまり肯定的に受け入れられてはいない。特に、グラウビュンデン州の小学校における「ロマンシュ語」の授業科目で「『どの』ロマンシュ語を教えるか/使うか」ということについては、白熱した議論が続いている(高校の授業では前出の「ルマンチュ・グリシュン」が教えられている様子)。外から見れば、これは色々な方言のスイスドイツ語話者が共通の「標準ドイツ語」を習うことと同じように感じる。しかし、小さな国の大変限られた地域だけで話されている特別な言語(言語自体も消滅の危機にある)の標準化や統一化は、各方言の存在を揺るがす脅威にもなり得るので、想像するよりもずっと難しいのだろう。
こちらの写真は、ウンターエンガディン地方のフタン(Ftan)村にある伝統家屋の壁に書かれた、ロマンシュ語のハオスシュプルック(Hausspruch※家を守護する等の目的で綴られた、短い詩に似た文章のこと)。
ここには下記のように記載されている。
「Etern viadi es nos destin, tscherchond vardà e perfecziun. La buna terr' at porta, infin ch' ün di, vast vi pro' l Segner bun.」
(真実と完全を探求する永遠の旅は我らの運命。汝が善良な神の御許に行くその終の日まで、豊饒な大地は汝を抱く。という意味)
漆喰を使った伝統装飾技法・スグラッフィーティ(Sgraffiti)の手法で描かれている詩や美しいモチーフは、エンガディン地方の芸術家「コンスタント・ケンツ(Constant Könz)」によるものだ。
そんな少数言語が話されている地域になんで観光旅行で行くかな...?と思われるかもしれないが、童話「ウルスリのすず」の舞台・グアルダ(Guarda子※ウンターエンガディン地方)や、スキー&ハイキングで人気の高級リゾート地・サンモリッツ(St. Moritz※オーバーエンガディン地方)などは、バッチリとロマンシュ語圏。
関連記事:スイスで愛される物語「ウルスリのすず」
<オーバーエンガディン地方のサン・モリッツでは、Puter方言が話されている>
英語やドイツ語も通じるが、ここはせっかくの機会。「アレグラ(Allegra)」(こんにちは)や「グラツィア(Grazia)」(ありがとう)、前出の「ア・レヴァイア(A revair)」(さようなら/また会いましょう)などの簡単な言葉を、お店やレストラン・ホテルなどで試してみてはいかがだろうか。
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Asami AMMANN-HONDA
- スイス東部トゥールガウ州の農村在住。元書店員、現在は兼業主婦(介護補助士&日本語教師&日独英通訳)。趣味はスポーツ・園芸・料理、専門は音響映像技術。