スイスで人気上昇中の復活祭菓子・コロンバ

スイスに根差す宗教的な祭事・暦の中で、クリスマスと並んで-いや、クリスマス以上に重要な意味を持つのが復活祭(イースター、独語ではオーステルンOstern)。復活祭は「春分の日の後の最初の満月の日の直後にある日曜」という定義の祭日で、3月22日から4月25日の間で毎年移動する移動祭日だ(今年の復活祭は4月1日)。復活祭にはちょっと特別な食べ物が欠かせず、例えば復活祭直前の金曜日(聖金曜日と呼ばれ、イエス・キリストが処刑されたとされる日)には魚料理を食べる(いわゆる普通の肉を食べるのはタブー)という習慣があったりする。復活祭に因んだお菓子も多く、ウサギや卵(ウサギは生命や豊穣を、卵は再生・つまり死と復活を象徴するとされる)を模ったチョコレートは有名だ。スイスの伝統的な復活祭菓子のひとつであるオースターフラーデンOsterfladenについては、2016年の3月に寄稿した私の記事スイスの復活祭菓子『オースターフラーデン』」でご紹介したが、今回は近年スイスでその人気が上昇している「コロンバColomba」という焼き菓子をご紹介したい。

スイスに根付くイタリア文化

コロンバは、スイスの隣国であるイタリア・ミラノ発祥の焼き菓子。5つの国(ドイツ、フランス、イタリア、リヒテンシュタイン、オーストリア)と国境を接し、4つの国語(ドイツ語、イタリア語、フランス語、ロマンシュ語)を持っているスイスは、周辺国の文化や慣習などから大きな影響を受けている。特にイタリア語圏のティチーノ州では、イタリアからの影響が強い。コロンバの正式な名称はコロンバ・パスクアーレColomba pasqualeで、「復活祭の鳩」という意味。その名前の通り、お菓子は羽を広げた鳩の形をしている...のだが、「鳩の形をしている」と知らなければ、その外見から鳥(鳩)の姿を想像するのは少々難しい。

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<心の目で見れば、羽ばたく鳩...に見えますよね!!>

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コロンバは乳酸とイーストを使った甘い醗酵生地で出来ていて、質感は同じミラノ発祥のクリスマス焼き菓子「パネットーネ」に近い。表面はサクッとしていて、アーモンドや大粒の砂糖が振りかけられている。生地の中には1cm四方ぐらいの大きさに切られた砂糖漬けのオレンジの皮が混ぜ込まれているのが伝統的。

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しかし、この手の砂糖漬けフルーツを苦手とする人も多く、最近では「砂糖漬けオレンジ抜き」のコロンバも出回っている。大きさは実際の鳩サイズ(!)ぐらいのものがスタンダードだが、手のひらに乗るほどのミニサイズ「コロンベッラColombella」などもある。

コロンバの由来はいかに?

鳩は平和の象徴ではあるが、死と再生・生命の復活を記念する復活祭のテーマと必ずしも一致するものではない。それなのになぜ鳩?というのには諸説があって、そのひとつが、ランゴバルド王国(6世紀中ごろ~8世紀終盤に現在のイタリア北部にあった)の王の一人であったアギルルフAgilulf(生年不詳、西暦615年没)にまつわるものだ。アギルルフは、ある日アイルランド出身のコロンバンColumban von Luxeuilという名前のカトリックの僧に出会い、その説教を聞く機会を得た。アギルルフ自身はアリウス派でキリスト教徒ではなかった(妻のトイデリンデはカトリック信者)が、アギルルフは宴席を設け(説教に感謝したのだろうか?)、コロンバンに鳩の肉を使った料理を出した。しかしこの日は聖金曜日(何たる偶然!)で、キリスト教徒は肉を食べない日。コロンバンはアギルルフのもてなしと心遣いに感謝をしたが食事(鳩の肉)をとることは丁寧に断り、不思議な力で鳩に生命と自由を与えたのだそうだ。鳩が再び羽ばたいて大空に飛んでいくのを見たアギルルフは感銘し、キリスト教に改宗。そして、以後復活祭の期間中には、鳩はパン生地で出来たもののみを食すると決めたのだそうだ。

史実を紐解くと、アギルルフは改宗こそはしなかったそうだが、妻の大きな影響でカトリックに傾倒。当時アリウス派が主流だったランゴバルド(現在のロンバルディ地方)でのカトリック普及に力を注いだ人物だ。コロンバンとも実際に邂逅・交流があり、西暦612年にはコロンバンにボッビオ修道院の建立を認めている。もちろん上記の「お話」はほぼおとぎ話で、その信憑性にはかなりの疑問がある。それでも、これは「羽を広げた鳩の形をしたパン菓子を復活祭に食べる」ことの理由をかなり上手く説明したお話で、私は個人的にはとても気に入っている。ホントの所はどういう由来なの?というと、その正解はちょっとガッカリするような話なのでここでは割愛(インターネットなどで少し調べると、比較的簡単に正解がわかります)。復活祭は生命の再生を祝う喜びの祭事。想像やファンタジーを羽ばたかせながら、美味しいお菓子を堪能したい。

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Asami AMMANN-HONDA

スイス東部トゥールガウ州の農村在住。元書店員、現在は兼業主婦(介護補助士&日本語教師&日独英通訳)。趣味はスポーツ・園芸・料理、専門は音響映像技術。

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