たびこふれ

となりの外国(その1) 君は国境線が見えるか?

記事投稿日:2012/06/29最終更新日:2018/02/27

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現在島国である日本では「外国」と「海外」という言葉はおおよそイコールだ。外国に行こうとする(もしくはその逆で外国から日本に行こうとする)場合は必ずどうにかして海を渡らなければならない地理的な現実というのは、アドヴァンテージでありディスアドヴァンテージでもある。

スイスという国は日本の九州ほどの面積しかない小国だが、欧州の多くの国がそうであるように、複数の外国―正確にはフランス・ドイツ・オーストリア・イタリア・リヒテンシュタインの5カ国―と国境を接している。スイスはEUには加盟していない(2001年3月にEU加盟の是非を問う国民投票があったのだが、76.8パーセントという圧倒的な「ノー」投票によって加盟が否決された)もののシェンゲン協定には署名しているため、数年前からは他のシェンゲン協定加盟国(すなわちEU加盟国)からスイスに入国する際には国境におけるいわゆる個別のパスポートチェック/入国審査が廃止されている。つまり、日本人旅行者が日本からスイスに直行便で飛ぶとスイスの空港での入国審査は必要になるが、フランスやオランダなどEU加盟国を経由して入国する際には最初に入国するEU加盟国で審査を済ませれば、その後90日間のスイスを含むシェンゲン協定加盟国内での移動は自由ということだ。ドイツとスイスの国境をはさむ2つの街コンスタンツ(ドイツ)とクロイツリンゲン(スイス)の間には以前はしっかりと金網があったのだが、ボーデン湖に近い国境地帯にある小道Wiesenstrasseウィーゼン通りでは2009年7月にその金網が取り除かれ、歩行者と自転車はそこを「素通り」できるようになった。下の写真はドイツ側から撮ったものだが、道脇に「ここからスイス」という控えめな看板と「ここにかつて国境の金網がありましたよ」という歴史を説明するボードが立っている。

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これはスイス側から。ようこそスイスへ!...いや、「お帰りなさい」かもしれないが。

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私にとってはコンスタンツの市街地やショッピングセンターに行くのにとても便利な近道なためよくここを利用するのだが、何度通っても「これから外国に行くのだ」という実感がどうしても湧かず、不思議な気持ちになる。ボーデン湖畔の公園内にあった国境線上の金網も取り除かれ、現在は世界唯一の「クンストグレンツェKunstgrenze(=芸術作品による国境表示)」となっている。国境線上に並ぶ22個の像はタロットの大アルカナを模したもので、ちょっとした観光名所だ。

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昨今のユーロ安・スイスフラン高を受けて、スイスではスイスよりも物価が安いドイツやイタリアやフランスにお買い物旅行に行く「アインカオフスツーリズムスEinkaufstourismus」と呼ばれるものがブームになっている。単に「値段が安いから」という理由だけではなかなか動かないスイス人だが、新鮮な野菜やスイスでも売っているメーカー品(例えばケロッグのコーンフレークやブイトーニのスパゲティ等)などが数百メートル先のスーパーで時に半額以下だという事実が目の前にあると、それを見ないフリをするのはなかなか難しいものだ。これはスイスの国内経済的には苦々しい問題だし、基本的には「お給料をもらっている地元にそのお金を還元する」のが大前提であるべきなのだけれど。

私が比較的事情を知っているドイツを例にとると、ドイツの商品価格設定はスイスに比べるとおしなべて低い。ボリュームがあって美味しいレストランのメニューはスイスのおおよそ半額だし、高品質な生鮮食料品もスイスのそれと比較すると3割安~半額だ。スイス在住者にとってはそもそもの価格が安いということに加えて先に述べたユーロ安による更なる「お得感」、そしてメアウェアトシュトイヤーMehrwertsteuerと呼ばれる付加価値税(商品価格に含まれている税金)の還付という特典もあるので、ドイツの国境地帯にあるスーパーマーケットは国境近くのスイス一般家庭にこのような派手な広告を配布し、スイスからの顧客の獲得に熱心だ。

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広告にはスイス国旗のモチーフがちりばめられ「節約パラダイスのドイツへ!」とか「スイスからのお客様には付加価値税を還付いたします!」などといった言葉が並ぶ。シャンプーや歯磨き粉などの日用雑貨はもちろん乳製品や肉類などもとても安いのだけれど、ここにちょっとした落とし穴がある。国境における「人間の移動をチェックする機能」は無くなったが、物品の移動をチェックするツォルZoll(税関)は現在も立派に存在するからだ。

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個人がスイスに物品を持込む場合、基本的には食料品(アルコール類を除く)は1人あたり300フラン相当まで非課税(申告不要)だが、肉や乳製品などの農産物には非課税での持込みにかなり厳しい量制限がある。例えばバターや生クリーム類の持込みは合わせて1キロまでは非課税だが、1キロを超える場合は以降1キロごとに16フラン(1500円弱!)の関税がかかる。鶏肉を除く生肉(牛・豚・羊・馬肉など)は合わせて500グラムまでは非課税だが、それ以上は1キロごとに20フラン(約1800円!)というとても高い関税がかかる(そして日本など第三国からの肉製品の持込は禁止だ)。もちろんドイツで支払った付加価値税は購入店とドイツ側の税関で所定の手続きを踏めば還付されるのだけれど、還付額以上の関税をスイス側で支払わなければならない可能性があるということになる。ちなみにアルコール類の持込は17歳以上からで、持込めるのは1人1日1回まで。1回に非課税で持込める量はアルコール量15パーセントまでのものが2リットル、15パーセント以上のものは1リットルまでだ。日本人の旅行者に限って言えば、ビールなどを持込むことはあるかもしれないが、バターを何キロも持込むという状況はあまり現実的ではないかもしれない。しかしちょっと意外なところではポテトチップスやりんごジュースも量によっては税関申告の対象になっている。ポテトチップスをスイスに持込む場合、非課税の上限は1人あたり2.5キロまで。それ以上は超過1キロごとに7.5フラン(約600円)の関税がかかるのでご注意を。

>となりの外国(その2) 内なる異国ビューシンゲン はこちらから!

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Asami AMMANN-HONDA
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