新春恒例、東京・青山のギャラリーショップでおめでたい郷土玩具を観る、買う

毎年の年始、心待ちにしているイベントがあります。イラストレーター佐々木一澄さんが選び集めた郷土玩具を展示即売する催しです。健やかに穏やかに、今年も平穏無事な、おめでたい年にしたい。そんな純粋で清らかな願いを映すような、愛らしくほがらかな玩具たちに会いに、青山のギャラリーショップにお出かけしてみませんか?

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2015年から青山の「オーパ・ショップ」で始まった「日本の郷土玩具」展示即売会

丸〆猫に招かれて

3年前の正月、私は初詣ついでに浅草あたりで縁起物を買えないかと思案しました。浅草は江戸の代表的玩具・犬の張り子が有名ですが、調べると、江戸時代から続く今戸焼の白井家6代目・白井裕一郎さんが今戸の地で唯一、土人形の招き猫を製作していることがわかりました(土人形の製作は4代目の孝一さんから)。招き猫は江戸・嘉永年間(1848~1854年)頃に浅草で売られた「丸〆(まるしめ)猫」が優品とされます。私はこの背面に丸〆印のある招き猫を求めようと工房に連絡すると「待っている方が多く、お渡しまで最短でも1年半ほどかかります」との返答。これで私の物欲に火がつきました。なんとか入手する術は無いか、躍起にネット検索すると、白井さんの工房を訪ねたイラストレーター佐々木さんのブログ記事を見つけました。なんと佐々木さんが新春に催す「日本の郷土玩具」展示即売会で丸〆猫を並べるというのです!

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佐々木さんのイラストに通じる、軽妙で自由な描写、ユーモラスな表情、明るい色使いの郷土玩具

当時、私は佐々木さんが描く招き猫のイラストを雑誌「Hanako」(マガジンハウス)新年号の表紙や特集記事で見かけ、その画風に強く惹かれていたので、たまたま佐々木さんのブログに行き着いたときは、まるで招き猫に手招きされ、導かれているように感じました。もちろん展示初日に駆けつけ、願いを無事かなえたことは言うまでもありません。

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幸運にも招きいれられた今戸焼の丸〆猫。背後は佐々木さんの作品

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丸〆猫と同じ会期に求めた縁起物。左は土笛で、佐賀県・尾崎人形のカチガラス。尾崎人形は鎌倉時代の弘安4年(1281年)に日本を襲来した蒙古軍の捕虜が故郷を偲んで吹き鳴らした人形が原型と伝えられます。右は江戸末期に作られ始めた仙台市・本郷だるまの雀の張り子。体も足とくちばしも和紙で出来ています。ピンクの色味とゴテゴテとしたかたち。その派手な調子は伊達正宗公好みなのだとか

自由で素朴な郷土玩具

江戸時代以降、郷土や風土、その土地の暮らしに深く根ざして生まれてきた日本のおもちゃ。全国各地の地域だけで愛されてきた、それらのおもちゃが「郷土玩具」と呼ばれるようになったのは明治時代からだそうです。自分の子供のために父親が手がけた素朴で武骨なもの、豊作や健康を祈る護符的なもの、木地師が作る木製の可動式で丈夫なものなど、さまざまなタイプが存在しています。いずれも、いつ誰の創意によって作り出したのか、はっきりわからないのだとか。

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佐々木さんから送られてくる年賀状と展示DM。年始に届くたびに幸せな心地になります

こうした郷土玩具の虜となり、収集し、良さを伝える活動を続けている佐々木さんはプロのイラストレーターになることに悩んでいた24歳のころ、新宿の民藝店を訪ねました。この店は当時、たくさんの郷土玩具を全国からセンス良く選び集め、販売していたのですが、鮮やかな色をまとい、作為なく顔や模様、線が描かれたそれらの郷土玩具を眼にして「あっ、これだ!」と求めていたものを見つけ、衝撃を受けたのだとか。「なんて自由なのだろうと力が抜けました。好き勝手にやっていいのだ」と背中を押されたように思え、イラストレーターの道に進むことができたそうです。そして、それまで集めていた音楽のレコードやCDを売り払ってまで、郷土玩具の収集に夢中になっていったのでした。

無意識の味わい

江戸時代から始まる郷土玩具作り。今もその流れを継ぐつくり手のなかには、なぜこの模様を描くのかわからない方もいるそうで、ただ以前から描かれているパターンのままに手を動かしています。繋いでいる伝統を意識しつつ、自己の作為は意識から消している。当たり前のように昔からの模様を力みなく描く。佐々木さんはそうした「自分自身(の個性)はどうだってよい」という名のなき工人の製作態度に惹かれると言います。

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桐のおが屑を糊で固めて作る埼玉・鴻巣の練り物人形「熊金」。赤い彩色を主に使うため「赤物」とも呼ばれます。赤色が力んだ金太郎の元気さを表していて、産地の地域では節句に飾られているようです

ただし、作為を捨てて作られたものすべてが良いわけではありません。代々受け継いだ伝統の模様や色彩の華美さ、巧みさが過ぎていると、かえって味わいが損なわれる場合もあります。この点、佐々木さんが選び、展示するものはほぼすべてが味わい深い郷土玩具だと感じます。どこか気持ちをなごませる緩さがある。上手過ぎず、素朴で愛嬌があり、色使いがポップ。どれも生活の場に置いて日々、眺めたくなる。そんな魅力ある郷土玩具が佐々木さんの眼で選び抜かれているのです。

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神奈川・大山独楽(こま)の木地師、80歳台の播磨啓太郎さんが手がける玩具「りんご籠」。郷土玩具の主素材は紙、土、木ですが、これはミズキの木地をロクロで挽いた「挽き物」。大らかなかたちと極彩色に、がつんと頭を殴られるような強烈なパワーを感じます。2年前の展示即売会で買い逃したことを後悔し、のちに工房を訪ねて入手しました(笑)

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播磨さんの玩具。丈夫で子供のラフな扱いに耐えます。江戸時代まで日本固有の玩具は木製が主力を占めていたとか

会場で出合う玩具たちは各地の民芸店、物産店、お土産店には置いていない物ばかり。昔から今も作られ続けている良い物なのに、扱う店が少なく、一般の人が旅先でばったり見かける確率が低いのが現状です。佐々木さんは展示に合わせてお気に入りのつくり手の工房を訪ね、前年の夏ごろから製作依頼したり、直接仕入れています。この展示即売会は愛らしい郷土玩具を通じて佐々木さんの選択眼に魅せられる場にもなっているのです。

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福島のこけし工人・太田孝淳さんが手がけた土湯こけし。佐々木さんはつくり手に返礼の意味で郷土玩具の絵を描いて送っているそう。私はそんな律儀さに感心しながら、その絵と郷土玩具と並べて飾り、毎日眺めています

約200点の古き良き郷土玩具が並ぶ

郷土玩具のファンやコレクターが驚くほど存在することを私は佐々木さんの「日本の郷土玩具」で知りました。一方で、郷土玩具の未来は楽観できない状況が迫っているようです。つくり手の高齢化、後継者と材料の不足のため次々と根絶し、伝承が途切れ始めています。産地を訪ねるたびに、そんな様子を目の当たりにし、どうにか食い止められないか考えた佐々木さんは、そのためにはまず、郷土玩具がどんなものなのか知ってもらいたいと、展示即売会を催すようになったと言います。今春の会場には昭和30年代から平成のはじめ頃までに作られていた玩具が約200点並ぶのですが、そのなかには絶えてしまったものも含まれています。その時代は工人がたくさんいて、素朴で良い物も多いそうです。現在の玩具のなかには伝統を軽視し、自我が全面に出た「作品」も見られますが、今回の展示即売会では、良い玩具とは何なのか観て知り、しかも貴重な1点物を手ごろな値段で買える、素晴らしい機会なのです。

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今春の展示即売会に並ぶ郷土玩具のイメージ(これは佐々木さんの私物。左より静岡の張り子、福島・三春の張り子、大阪・住吉大社の裸雛、土湯こけし、鳴子こけし、熊本・日奈久のキジ車、京都の金天だるま)。

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宮城の鳴子こけし。右は今回製作をお願いし、販売する大沼秀顯さんの新作で、左は師匠であり父の大沼秀雄さん作。どちらも岩太郎さん(秀顯さんの曽祖父)のこけしを写したもの。先代たちが築いた伝統が継がれる好例

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シルクスクリーンの作品も販売。佐々木さんがいかに郷土玩具の影響を受けているか、よくわかります

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色鉛筆で描いた作品。これも会場で買えます

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ショップに隣接する「オーパ・ギャラリー」では2018年1月12日~1月17日、25人のイラストレーターが「だるま」をお題に描いた作品を展示。佐々木さんは廃絶した名古屋張り子のだるまをモチーフに描いたそうです

佐々木一澄 新春企画「日本の郷土玩具」

期間:2018年1月12日(金)~1月31日(水)
時間:11時~19時(最終日17時まで)
定休:木曜
会場:オーパ・ショップ
住所:東京都渋谷区神宮前4-1-23 1階
電話:03-5785-2646
HP:http://opagallery.net/
佐々木一澄HP: www.kazutosasaki.com/

※参考文献:「日本の郷土玩具」(未来社)、「日本のおもちゃ」(岩崎美術社)、いずれも斎藤良輔・著

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ヤスヒロ・ワールド

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