ヴェネチアでムラーノ島、ブラーノ島、トルチェッロ島の一日離島巡り

ブラーノ島 イタリア

イタリアの旅行先として人気の高いヴェネチア。この島で数日間ほど過ごす機会があるならば、少し遠出をして島巡りの旅に出るのがおすすめです。カラフルな家々で有名なブラーノ島をはじめ、ムラーノ島やトルチェッロ島といった離島は、本島とは全く違った風景や魅力を体験できますよ。

目次

ヴェネチア本島を離れ、水上バスで離島を一日旅しよう

ヴェネチアはイタリアの観光都市のなかでも、きわめて特殊な街。完全に島が連なり出来上がった地形、水が織り出す唯一無二の風景、築き上げてきた歴史を背景に持つ特殊な文化や習慣が存在します。

ヴェネチアは約120の島から成り立つと言われています。そのなかでも、ヴェネチア本島が歴史的建造物の集中する代表的な観光地ですが、その周辺に点在する島々も個性豊かな島ばかり。そのうちの代表が、ムラーノ島、ブラーノ島、そしてトルチェッロ島です。

実は効率良く移動すれば、丸一日でこれらの主要3島を訪れることができます。やや駆け足のスケジュールですが、今回はこれらの島々を一日で巡るルートをシミュレーションしてご紹介しましょう。

※編集部注:主な乗り継ぎルートは、以下の図をご覧ください。

ヴェネチア離島めぐり 一覧表

フォンダメンテ・ノーヴェ→ムラーノ島へ

島巡りの出発点は、フォンダメンテ・ノーヴェ (Fondamente Nove)という停留所。サンマルコ広場が本島の南側に位置するのに対し、反対の北側に位置します。ここから4.2番の水上バスに乗ります。

チミテーロ(Cimitero)を過ぎ、先に見える島がムラーノ島です。その後、ムラーノ島の停留所、ムラーノ・コロンナ(Murano Colonna)にて下船します。所用時間は約10分です。

フォンダメンテ・ノーヴェ 水上バス乗り場

島巡りのスタート地点、フォンダメンテ・ノーヴェの水上バス乗り場です。上部に表示されている路線番号を確認し、乗船を待ちます。

ムラーノ島...ヴェネチアングラスを生み出したガラスの島

ムラーノ島はガラス工房及び職人の集まる島。一般的に「ヴェネチアングラス」と呼ばれているものは、地元では「ヴェートロ・ディ・ムラーノ(ムラーノのガラス)」という呼び方をします。

ムラーノ島でのガラス製作の歴史は、ヴェネチア共和国時代の1295年に島にガラス職人を集めて工房を開いたことから始まります。水辺の島に職人を集めたのは高熱の窯で仕上げるガラス製品の工房からの火事を恐れたからとも、彼らの技術を囲い込んで、流出を防ぐためだったとも言われています。

海洋貿易で富を得て栄えたヴェネチア共和国。しかし、ヴェネチア自体は原料や燃料などの調達が困難な場所です。だからこそ、原料を独自で調達できる他国に重要産業であるガラス製品の製法を知られることを恐れたのです。ガラス職人達は手厚く保護されながらも厳しい管理下に置かれ、ムラーノ島でのみ職人としての生涯を送ることを許されたといいます。

ムラーノのガラス製品は世界中の貴族達の憧れとして高値で取引されましたが、15世紀に入ると他国のガラス製品の注目度があがり、ムラーノのガラス産業が衰退しはじめます。しかし、ムラーノのガラス産業はここから再生の道を歩みます。

技術を進歩させ、当時流行となったクリスタルの様な無色透明なガラスの製法を確立。これをムラーノガラスとしました。また、豪華なシャンデリア製作に力を注いだことも復活へと繋がります。こうして、ムラーノはガラス製品における不動の地位へと返り咲いたのです。

とは言え、近年はムラーノのガラスはまたしても危機に晒されています。世界的な不況と、中国製の安いガラスの普及が要因です。土産物店を見て回っても安価な中国製のグラスが増えています。伝統的な職人の技術が廃れてしまうのは悲しいことですね。

それでも、ムラーノのガラスはやはり特別。その違いはぜひ、実物を見て確かめていただきたいと思います。

ムラーノ島の歩き方

コロンナ停留所から右手に向かって歩くと、運河を挟んだ両脇にガラス製品を扱うショップがずらりと並んでいます。ここがムラーノのメインストリート、フォンダメンタ・ディ・ヴェトラーイ(Fondamenta dei Vetrai)です。

ムラーノ島

ムラーノ島、フォンダメンタ・ディ・ヴェトラーイ通り。運河を挟んでショップが建ち並びます。

扱うガラス製品は大きな置物から、アクセサリーなどの小物まで様々。ガラス工房の直営店もあれば、ブランド品のみを販売する店舗もあります。どこに入ればいいか迷ったなら、工房直営のショップを見比べるのがオススメです。各店舗の個性の違いを見ているだけで楽しくなりますよ。

クラシックなガラス製品からモダンな作品まで、ムラーノのガラスの色合いは非常に鮮やか。また、ムラーノならではの伝統的な製法を用いたものなどもあります。一軒一軒、丁寧に歩いてお気に入りのお店を探しましょう。

ムラーノのガラス

ヴェネチアの伝統的製法に使われるミッレフィオーリ(Millefiori)。"千の花"という意味です。色々な柄の素材を切断し、それらを合わせて複雑な模様を創り出します。

コロンナ停留所から先にまっすぐ歩くと、大きな運河に突き当たります。その手前左手にあるのがサン・ピエトロ・マルティーレ教会(Chiesa di San Pietro Martire)です。美しいガラスのシャンデリアが数多く備え付けられ、ティントレット、ジョヴァンニ・ベッリーニ、パオロ・ヴェロネーゼなどヴェネチアを代表する画家の作品が飾られています。

この教会を訪れたら、運河を反対側に渡り、来た方向へ戻るようにして歩きましょう。しばらく進むと、左手に水上バスの停留所ムラーノ・ファロ(Murano Faro)が見えてきます。「ファロ=灯台」の通り、停留所の脇に灯台があります。それが目印です。

ムラーノ島→ブラーノ島へ

ムラーノのガラス工房を堪能したら次の目的地、ブラーノ島を目指しましょう。乗船するバスは12番。ブラーノ(Burano)までの所用時間は約40分です。

ここからは景色も大きく開けます。水上バスもどんどん進んでいきます。ひと気のない小さな島やヴェネチアの潟(ラグーナ)内の船の通り道を示す木杭「ブリッコレ」といった、船窓から見えるヴェネチアの風景を楽しんで下さい。

木杭 ブリッコレ

ラグーナ内、あちこちに見られる木杭は、ブリッコレといいます。潟内の深い場所を示しており、船の通路として利用されます。

ブラーノ島...カラフルな家並みとレース編みの島

ブラーノ島最大の特徴は、建ち並ぶカラフルな家々。ブラーノを支えてきた漁業関係者が、家に辿りつくために目印にしたことがきっかけです。特に冬季は霧が深くなり、この鮮やかな色彩が家を見つけるための頼りになったと言われています。

また、家の壁色も人物・家族を特定するためのサインでもあったのだとか。ヴェネチア周辺では同姓が一つのエリアに集まることが多いという、この土地ならではの慣習があります。

ブラーノ島

ブラーノ島 カラフルな街並み

ブラーノ島の風景を構成するカラフルな家々。島中どこを歩いてもカメラに収めたくなる風景ばかりです。

そして、この島の重要な産業が16世紀から発達した「メルレッティ(レース編み)」。漁師の男達が家を空けている間、家を守る女達が漁に使う網の修繕をしていたことから生まれた技術です。

刺繍師により生み出されたこれらのレースは、ヨーロッパではもちろんのこと、世界でもトップレベル。ヴェネチアならではの産業として、世界各国へ輸出されたといいます。

これらのレースは17世紀半ばに誕生した島独自の技法「プント・イン・アリア」で生み出されています。「プント・イン・アリア」は日本語で訳すと「空中スケッチ」。布に施す平面的な刺繍ではなく、一点を中心に凸凹や高低差をつけた刺繍技術のことを指しています。

メルレッティ レース編み

非常に精巧で美しいレース編みです。人の手仕事によるものですので、それぞれが世界に二つとない物に。

現在、ブラーノ島及びヴェネチア本島で売られている比較的手頃な価格のものは、残念ながら本物のブラーノのメルレッティではないことのほうが多いようです。しかし、同島に建ち並ぶレースのお店に入ると、職人の手仕事を間近で見ることができ、彼女達の手がけた貴重な商品を手に取ることもできます。実際に作業を間近で見たら、その手先の器用さに驚くことでしょう。休みなく動く指先は、まるで手品のようです。

また、保蔵されているアンティークのコレクションを見られる一画を設けている店舗などもあります。とにかく繊細なアンティークはそれぞれ一点もの。非常に高い希少価値があります。

メルレッティ レース編みの様子

デザインが描かれた紙を下地にし、一針ずつ丁寧にステッチを進めます

ブラーノ島ならではの美味しい魚介料理を

ブラーノ島は漁師の島なので、規模の割に飲食店の数が多いのが特徴。島巡りの際には、ブラーノ島でのご昼食がおすすめです。

一般的なヴェネチア料理はもちろんですが、この島ならではの伝統料理が「ゴー(Gò)」と呼ばれる白身魚を使ったリゾット。「ゴー」はラグーナ潟で獲れる小さな白身魚で、一般的には「ギオッツォ (Giozzo)」と呼ばれるボラの一種です。

小骨が非常に多いこの魚をダシとして、リゾットを作ります。見た目はシンプルですが、魚の風味がしっかりとした旨みの深い一皿。ぜひお試し下さい。

メニュー名は「リゾット・ディ・ゴー(Risotto di Gò)」。または「リゾット・アッラ・ブラネッラ(Risotto alla Buranella)」などで表記されています。

魚のリゾット

ブラーノ島の伝統料理ともいえる、ゴーのリゾット。見た目はシンプルながら、魚の味が凝縮した美味しい一皿です。

海の幸のスパゲッティ

漁師の島ならでは。新鮮な魚介をたっぷり使った料理が楽しめます。写真は、海の幸のスパゲティです。

ブラーノ島→トルチェッロ島へ

3島巡りの最後はトルチェッロ島です。ブラーノ島の水上バス停留所より12番に乗船します。

約30分おきに両島を繋ぐバスが運行されており、所用時間は約5分です。ブラーノ島からはかなり近い場所に位置するこの島。少し斜めに傾いた鐘塔が目印です。

トルチェッロ島...ヴェネチア先住民のいた島

同島は、ヴェネチアで最も古い街として知られています。その歴史は5~6世紀のローマ時代に遡るそう。

ヴェネチア近郊の原住民や、西側からの民族移動により漂着したランゴバルド人等が先住民とされています。そして、商人の町へと変貌するヴェネチア共和国の玄関口として、同島の周辺や近郊の島などとともに発展してきました。

この島の代表的な建築が7世紀中期に建てられたサンタ・マリア・アッスンタ聖堂(Basilica di Santa Maria Assunta)。現存の形として改築されたのは11世紀で、ヴェネチアの司教区として機能しました。大聖堂の壁、天井を埋め尽くすモザイクの美しさに圧巻されます。

トルチェッロ島 サンタ・マリア・アッスンタ教会

トルチェッロ島の見どころである、サンタ・マリア・アッスンタ教会。内部の素晴らしいモザイクは、ぜひ実際に目にしていただきたい、訪れるべき、見るべき場所です。

この時代、トルチェッロ島には20,000人以上の住人がいたと記録されており、ヴェネチア共和国の重要な島として繁栄してきました。しかし、15世紀に転機が訪れます。ペストの蔓延が島を襲ったのです。それ以前はローマ時代に建築された建造物の石材の切り出しが盛んに行われていたのですが、ドージェ(ヴェネチアの総督=政治の最高権限者)により中断指令が出され、島は孤立、衰退を始めます。

司教区はトルチェッロ島からムラーノ島に移され、さらにヴェネチアがオーストリアの傘下となった1818年には他地区と同様にヴェネチアの一区に吸収。その後、今度はマラリアが蔓延して住民が減少。19世紀中期には300名強まで減り、現在は20人弱ほどがこの島に住んでいるのみとなりました。

商業都市ヴェネチアの華々しい歴史とは違う顔を持つ島といえるでしょう。

のどかな風景の広がるトルチェッロ島

水上バスの停留所を降りたら、そこから続く一本道をとにかく進んでいきましょう。ヴェネチア本島の喧騒が嘘のような静けさと、畑などが広がる穏やかな空気を感じます。同島の訪問者は、おのずと島の主要建築物である、サンタ・マリア・アッスンタ聖堂に足が向きます。

ですが、もうひとつの見どころは、その道すがらにある石造りの古い橋、ポンテ・デル・ディアーヴォロ(Ponte del Diavolo)、いわゆる「悪魔の橋」です。

トルチェッロ島出身者のみが知る「悪魔の橋」の名の由来は2つあります。

1つ目は、「ある朝、前の晩まであるはずのなかった橋が一晩で出来上がっていた」という伝承から。2つ目は、「この橋を境に海水と淡水とに分かれている」という言い伝えから。ただし、その真実はまだ誰も知らないとのことです。

この橋は非常に段差が低く造られています。それはこの橋が昔、馬が通っていたものであったことから。当時はヴェネチア本島でもこのような橋の造りがされていたそうです。

悪魔の橋

トルチェッロ島の伝説ともいえる、ポンテ・デル・ディアーヴォロ(悪魔の橋)。

トルチェッロ島→ヴェネチア本島へ

3つの島の魅力を堪能したら、ヴェネチア本島へ戻りましょう。

まずはトルチェッロ島からブラーノ島へ。来た時と同様の12番で移動します。ブラーノ島からは再度12番のバスに乗り換え、その後はヴェネチア本島、フォンダメンテ・ノーヴェまで直行です。

ブラーノ島での乗り換えの際には、乗船する方向を間違わないように注意して下さい。大抵の場合、乗組員が大きな声で行き先を告げています。「ヴェネチア!(ヴェネチア行き!)」と案内しているバスに乗船すれば、そのままヴェネチア本島へ到着します。

個性豊かな島巡りは、ヴェネチアのまた違う一面を感じさせます。また、ヴェネチア自体の歴史や文化をよく知ることにも繋がります。まだ知らないヴェネチアを、島巡りでたっぷり味わいましょう。

※ここで提示したルートはあくまでも仮のシミュレーションです。各島には、ここに掲載したもの以外の路線もあります。特にムラーノ島に関しては、サンタ・ルチア駅またはサンマルコ広場のサン・ザッカリアからの別便もあります。旅のご都合に合わせてご利用下さい

※水上バスの路線番号などは2017年6月時点のものです

(写真・執筆:Aki Shirahama)

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