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オーストリアにサンタクロースは来ない?クリスマス前の「ニコロ」のお祭り
クリスマス前の「アドベント」の時期で賑わうオーストリア。12月丸々かけてクリスマスを盛大に祝うこの国ですが、不思議なことに、サンタクロースの姿を見かけることはほとんどありません。
オーストリアでは、サンタさんの代わりに、子供にプレゼントをくれる存在が二人います。サンタさんのいないオーストリアのクリスマスってどんな感じなんでしょう?
<クリスマスの前に街に出まわるこの人物は一体誰?>
プレゼントを持ってくるのはサンタクロースではなく「クリストキント」
オーストリアでは、クリスマスプレゼントを持ってくるのは「クリストキント」、直訳すると「子供のキリスト」とされています。飼い葉桶(かいばおけ)に入った赤ちゃんと姿で描かれることが多いですが、クリスマスマーケット等では白い天使のような格好であらわされることもあります。
<飼い葉桶で産まれたばかりの赤ちゃんのキリストの姿>
<天使の姿のクリストキント>
この「クリストキント」は、16-17世紀、オーストリアが一時的にプロテスタントであった時代に導入された、比較的新しい習慣です。元々プレゼントを運んでくる別の聖人がいたのですが、聖人信仰を否定するプロテスタントの方針で、「子供のキリストがプレゼントを運んでくる」という設定になりました。
靴下にプレゼントを入れるのはサンタクロースではなく「ニコロ」
オーストリアでは、クリストキントよりもっと古くから定着していた「ニコロ」のお祭りを大きく祝います。ニコロは聖ニコラウスの愛称で、12月6日に子供達にプレゼントを配ってくれる聖人です。
<聖ニコラウスはこのように、十字架模様のとんがり帽子に、杖を持った司教の姿で登場>
聖ニコラウスは、現在のトルコ出身の司教で、人に隠れて善行をした有名なエピソードが2つあります。
1つ目は、貧しい3人の娘を救った話です。お金がないために身売りをしなければならない商人の娘を助けるため、こっそり窓から金の玉を投げ込むと、窓際に吊ってあった靴下に入りました。1人目の娘に続いて、2人目の娘も金の玉が投げ込まれたことによって救われたため、父親が見張っていると、3人目の娘の時にやっと、投げ込んでいる人物がニコラウスであったことがわかったというお話です。
また、悪い肉屋に殺され、樽に入れられてしまった3人の子供達を生き返らせ、教育を支援したというお話も残されています。
この2つのエピソードから、聖ニコラウスは靴下に贈り物をする、子供の守護聖人として親しまれています。亡くなった日12月6日は、聖ニコラウスが子供達に贈り物を持ってくる日とされています。
<いたるところで見かけるチョコのセット。左が聖ニコラウス。後ろにあるのはアドベントの時期の風物詩、アドベントクランツ>
ただし、ニコロが持ってくるのはおもちゃなどのプレゼントではありません。ニコロの袋に入っているのは、お菓子やナッツ、オレンジなどのクリスマスを象徴する食べ物。素朴な麻袋に入れ、この袋を子供の靴か靴下の中入れ、扉の外に置いておきます。それを子供が見つけて喜ぶ、というのが伝統的な習慣です。
<12月6日に用意されるのは、素朴な麻袋に入ったナッツ、オレンジ、ニコロのチョコ>
ニコロの暗黒面「クランプス」
また、ニコロは悪魔のような外見をした「クランプス」を連れてやってきます。ニコロは子供の一年間の行動が書かれた金色の本を携えていて、いい子にはお菓子をくれますが、悪い子はクランプスにムチで叩かれてしまいます。昔から子供達は「いい子にしていたらニコロがお菓子をくれるよ。悪い子にしていたらクランプスに叩かれるよ」と言われて育ちますので、教育的な側面も担っていたのですね。
<クランプスは山羊と鬼を混ぜたような外見で、木の枝のムチを持ってる>
<クランプスのチョコ>
この時期にはスーパーにはニコロとクランプスの形のチョコが並び、子供たちにはおなじみのキャラクターです。もし見かけたら、珍しいお土産にいかがでしょうか?
ニコロとクランプスはセットで売られていますが、ニコロのほうが数が多いのは、人気を示していますね。
サンタクロースの起源
このニコロの習慣は、クリスマスの朝に大きな靴下にプレゼントを入れてくれるという、サンタクロースに似てませんか?それに、ニコロの見た目もサンタクロースとなんとなく似ています。ニコロは体型が細めで、聖人のとんがり帽子をかぶっているところが違いますね。
実はこの聖ニコラウス、サンタクロースの起源なんです。聖ニコラウスはドイツ語圏ではHeiliger Nikolausと呼ばれますが、オランダではシンタクラースと呼ばれています。オランダ人がアメリカに移住した時に、このシンタクラースを持ち込み、伝統として定着させた名残が、その名前に残っています。
しかしサンタクロースの外見は、アメリカで独自に作られたもの。なんとコカ・コーラ社の宣伝ポスターのために、あの太った赤い服と帽子のおじさんが1931年に新たにデザインされ、既存の「サンタクロース」という名前をつけたんです。そのデザインの背後には、聖ニコラウスについて綴った詩が参考にされたため、服装に似通ったところがあります。
それが日本をはじめ世界中に広がり、既にニコロとクリストキントがいるオーストリアにもつい最近逆輸入されました。そのため、オーストリア人にとってサンタクロースは、ハロウィンと並んで「アメリカから来た新しい文化」なんです。
まとめ
オーストリア人に親しみ深い、サンタクロースの元祖「ニコロ」。日本人やアメリカ人のサンタクロースのイメージに似ているところもあり、伝統や習慣が、人とともに移動して変わっていく様子が興味深いですね。
12月中盤に差し掛かると、ニコロの仕事は終わり、クリストキントがプレゼントを配る時期になります。生木のクリスマスツリーが飾られ、華やかに輝くこの季節。いよいよクリスマス本番が近づいてきます。
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ひょろ
- オーストリア、ウィーン在住。10年以上暮らしてもまだ新しい発見の連続のウィーンの魅力を、記事執筆、現地調査、ネットショップなどを通じてお届けしています。国際機関勤務を経て、バイリンガル育児の傍ら、ミュージカル観劇が趣味。