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ヴェネトの冬はこんな野菜を楽しむ。トレヴィーゾ産「ラディッキオ・タルディーヴォ種」
イタリアの食は野菜一つをとっても魅力的。
イタリア北部のヴェネト州では、冬に「ラディッキオ」と呼ばれるチコリーの仲間である野菜が出回ります。その一つである「タルディーヴォ種」の見た目や味はとってもユニーク。その生産方法にも秘密があります。今回は、そんなラディッキオの魅力をご紹介するとともに、美味しくいただくポイントもご紹介します。
地域ごとにさまざまな文化を持つ、イタリアの食
各地にそれぞれ独特の食文化を持つのが、イタリアの食の面白さです。私の住むヴェネト州も然り。寒い冬、この土地ならではの食材があります。それが、トレヴィーゾ産ラディッキオ(ラディッキオ・ディ・トレヴィーゾ)です。
見た目も味わいも個性的な野菜ですが、その生産方法も非常に独特。地元では冬には欠かせない、自然の恵みの賜物です。
ラディッキオってどんな野菜?
「ラディッキオ」とは、ヴェネト州の州都ヴェネツィアから内陸側北西に位置するトレヴィーゾ県を中心に栽培されている、冬野菜の代表です。まずはその見た目。これが非常に変わっています。縦方向に、先端が細くなるように中心に向かって閉じたその形は、まるで筆のようです。
そして、色も独特。芯から葉先の中心部は真っ白、そしてそれと対比するかのような鮮やかな真紅色は、細く長い葉の周辺を覆います。白と真紅の、目にも鮮やかな野菜なのです。
これが、トレヴィーゾ産ラディッキオ。タルディーヴォ種という品種です。
そして、その味は......イタリア語では"クロッカンテ"と表現される、カリッとした独特の食感と甘み、味わいの奥深くにどことなく感じる苦みが交差した、非常に個性的なものです。この苦みは、原生をチコリーに持つラディッキオならでは。
ラディッキオ・タルディーヴォ種の栽培・生産方法は驚くべきもの
非常に独特な容姿を持つラディッキオ・タルディーヴォ種ですが、畑での栽培から出荷に至るまでの工程も特殊です。
7月末の暑い時期に畑に苗植えされたものは、11月中旬以降、2月初旬頃に収穫期を迎えます。この時期の畑では、一株一株、根にこびりついた泥を払いながらの肉体労働を伴います。
収穫を迎えるラディッキオ・タルディーヴォ種の畑
畑では力強く育ちます
まずは作業場に持ち帰り、一株ずつ大きな外葉と根に付いた泥をさらに落として、カゴに詰め替えます。そして、日光を遮断した場所にある流水のプールに2週間から20日間ほど浸します。こうすることで、葉の白い部分はより白く、鮮やかな真紅はより深くなり、しっかりと水を吸い上げることによって独特の食感が生まれるのです。
じっくりとプールに浸したあと、ようやく出荷作業に入ります。水浸しのため、外葉はドロドロの状態に。これを丁寧に剥いでいくと、その中心には鮮やかな中心部が現れます。
出荷できるのは、この部分のみ。外葉をすべて除いたものは、根の部分をナイフできれいに掃除し、洗って出荷体制に整えます。つまり、可食部としては畑で生育している状態の40%弱ほどといえます。
出荷前の作業。一枚一枚丁寧に外葉を剥くと、中から鮮やかな色の可食部が......。
原産地呼称保証(I.G.P)が適用されるには、生産方式に従うことが必要
トレヴィーゾ産ラディッキオには、イタリア国内でもこの地域でしか収穫できないことを証明する「原産地呼称保証(I.G.P.)」が適用されます。これには、栽培地域、苗植えから収穫までの畑の管理、収穫後の出荷までの工程、出荷の際の梱包についてなど、さまざまな行程で細かい基準が設けられています。
原産地呼称保証のマークを添付するために、生産者はそれらの基準に従うことが義務付けられています。
「I.G.P.」という産地呼称認定マークは大切なブランドの証。各箱にはロット番号が記載されます
消費者は、いわゆるこの"ブランド"に品質の保証を求めてくるため、非常に厳しい管理がなされているのです。もちろん、地域内にはこの品質保証を取得していない生産者もあります。
ですが、「土地ならではの継続してきた食文化を、正しく後世に伝える」という意味にもつながる、重要な格付けであると私は認識しています。
生産地が変われば品種も変わるラディッキオの魅力
実は、ヴェネト州内にはラディッキオの生産地がいくつかあります。面白いことに、それぞれが異なる外見を持ち、味の特徴も少しずつ異なります。
代表的なのは、ここまで書き綴ってきた、「トレヴィーゾ産ラディッキオ・タルディーヴォ種(ラディッキオ・ディ・トレヴィーゾ・タルヴィーヴォ)」です。"タルディーヴォ種"というのは、"晩生種"という意味を持ちますが、これに反して"早生種"も存在します。"早生種"は"プレコーチェ種"と呼ばれます。
市場の店先に並ぶ、ラディッキオ・タルディーヴォ種
形が少し異なる、ラディッキオ・プレコーチェ種。本来のチコリに近い形状ですが、葉の色は真紅です。
産地が変わると形も変わる。カステルフランコ産ヴァリエガート(変形)種。レタスのような薄い葉の色に、赤い斑点が見られます。
また、トレヴィーゾの近隣にある「カステルフランコ」という町が原産とされる変形種は「カステルフランコ産ラディッキオ・ヴァリエガート種」と呼ばれ、色や見た目も全く異なります。
このほかにもヴェローナ産、キオッジャ(ヴェネツィア県の海岸の町)産などがあり、近年新たな品種がさらに加わるなど、ヴェネト州の冬のメルカート(市場)は非常に彩り美しく賑やかです。
ちなみにラディッキオは、別名として「フィオーリ・ディ・インヴェルノ(冬の花)」と呼ばれるほど。まさしく、冬の景観に花のような色彩を与える野菜といえます。
※編集部注:ラディッキオは複数の種類があり少しややこしいのですが、以下のように大きく分かれます。この訳注では、これまでご紹介したものを中心にリスト化いたしました。イタリアのメルカートに行かれる際の参考となれば幸いです。
- チコリー(元の野菜でキク科、イタリア語ではチコーリア)
- ラディッキオ(チコリーが変種したものの総称、フランス語ではトレビス)
- ラディッキオ・ディ・トレヴィーゾ・タルヴィーヴォ(今回メインに取り上げている、筆状の晩生種)
- ラディッキオ・ディ・トレヴィーゾ・プレコーチェ(本来のチコリーの形に近い早生種)
- ラディッキオ・ヴァリエガート・ディ・カステルフランコ(カステルフランコ産、半結球品種)
- ラディッキオ・ロッソ・キオッジャ(今回ご紹介していない品種で赤キャベツのように結球、ラディッキオの中では最もメジャー)
私の住むパドヴァの街の市場の露店の店先。季節により顔ぶれが変わります。
ラディッキオを美味しく食べるポイントをご紹介!
ラディッキオの魅力は、生でも加熱しても美味しくいただける点です。それぞれの方法で、美味しく食べるポイントをご紹介しましょう。
生で食べる
生ではそのままサラダにして、美味しいオリーヴオイルと塩があれば間違いありません。バルサミコ酢やオレンジなどの柑橘類にもよく合います。
写真でご紹介しているのはラディッキオをザクザクと切って、オイルと塩、そして少しの酢で和えたサラダ。シンプルで野菜の味がストレートにわかります。
焼いて食べる
縦方向に何等分かに切り分け、それをグリルするのもシンプルで美味しい食べ方。少し焼き目をつけるようにして、しっとりとしたところにオイルをかけていただきます。肉料理などの付け合わせに。甘みが増し、また違う美味しさが味わえます。
フライやリゾットの具材にする
フライの衣をつけていただくのも非常に美味。特に根とそこに近い部分を衣にくぐらせて油で揚げる。揚げたてに塩を振れば、極上の美味しさ。
とはいえ、ラディッキオ料理のなかで最も親しまれているのは、ラディッキオのリゾットかもしれません。野菜の持つ独特の色合いを生かし、紫色に仕上がるリゾットは、たっぷりとおろしたグラナ・パダーノとバターで仕上げます。
この季節には欠かせない、冬ならではの街の名物料理です。
写真・執筆:Aki Shirahama
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