実在の悲しいラブストーリーと世界遺産の町・テルエル|スペイン

前回前々回とアラゴン州の州都サラゴサの話を書きましたが、スペイン北東部にあるアラゴン州は日本ではあまり知られていないものの、世界遺産や趣ある小さな村、美しい自然などを抱く魅力あふれる州です。

今回はアラゴン州の南にある悲しい恋の物語と世界遺産の町テルエルをご紹介します。

目次

800年前の結ばれないラブストーリー

テルエルはテルエル県の県都でありながら人口およそ37000人と小さな町です。サラゴサとバレンシアを結ぶ鉄道路線の真ん中あたりに位置するため、アクセスは悪くありません。

テルエル観光の2大スポットといえば、『テルエルの恋人たちの霊廟』と世界遺産の建造物。まずは、前者からお話ししましょう。

<テルエルの町の中心はバルなどが立ち並び賑やかなトリーコ広場>
<テルエルの町の中心はバルなどが立ち並び賑やかなトリーコ広場>

時を遡り13世紀。今から約800年前のことです。テルエルにはフアン・ディエゴとイサベルという恋人同士がいました。裕福なイサベルの親は、長男ではないため財産のないフアン・ディエゴとの結婚を許してくれません。

フアン・ディエゴは「5年間で富を手に戻るから待っていてほしい」とイサベルに告げ、町を去ります。イサベルは親のすすめる縁談を断り続け待ちますが、フアン・ディエゴからは音沙汰がないまま5年が過ぎ、とうとう家柄のいい男性と結婚することに。

イサベルの結婚式の直後、イスラム教徒軍との戦いで功績をあげ財を成したフアン・ディエゴが戻ってきます。

フアン・ディエゴはイサベル夫婦の寝室に忍び込み、最後に一度だけとキスを求めますが、既に結婚した身であるイサベルは応えることができません。すると悲しみに暮れたフアン・ディエゴはその場で息絶えてしまったのです。

伝説ではなく実話だった悲恋

翌日サン・ペドロ教会で葬儀が営まれました。イサベルは棺にすがり冷たくなった元恋人の唇にキスをすると、そのままそこで息を引き取ってしまいます。(画家のアントニオ・ムニョス・デグラインが19世紀にこのシーンを描いた絵が、プラド美術館に展示されています)

イサベルの夫から2人の話を聞いた人々は、2人を一緒に埋葬することにしました。

テルエルの恋人たちの霊廟(Mausoleo de los Amantes de Teruel)

<テルエル駅正面のムデハル様式大階段を登ると、突きあたりには2人の悲しい最後のシーンのレリーフがあります(この記事最初の写真がそのアップです)>
<テルエル駅正面のムデハル様式大階段を登ると、突きあたりには2人の悲しい最後のシーンのレリーフがあります(この記事最初の写真がそのアップです)>

それから300年以上経った1555年。なんとサン・ペドロ教会の礼拝室の下から2体のミイラと2人の出来事を綴った14世紀の古文書が見つかり、語りつがれていた悲恋物語が事実だったことがわかったのです。

この話はスペイン版ロミオとジュリエットと言われますが、あちらは創作、こちらは実話。時期的に、シェイクスピアはこのテルエルの恋人たちの話を耳にしていたのかもしれない、という意見もあるそうです(ロミオとジュリエットの初演は1595年頃)。

<手を繋いでいるように見えて実際は触れ合っていない2人の像。下にはミイラが安置されています>
<手を繋いでいるように見えて実際は触れ合っていない2人の像。下にはミイラが安置されています>

2人のミイラは展示されていた時代もあったそうですが、今は霊廟に並んで眠っています。800年もの間寄り添っているとはいえ、前世で結ばれなかった2人を思うと切ないですね。

テルエルの恋人たちの霊廟(Mausoleo de los Amantes de Teruel)

      • 所在地:Calle Matías Abad 3, Teruel
      • 開廟時間:10:00~14:00、16:00~20:00
      • 閉廟日:1月1日、12月25日、バキージャ・デ・アンヘル祭り期間中は土~月曜
      • 料金:10ユーロ(霊廟とサン・ペドロ教会、塔、通路の見学を含む)
        公式サイト:テルエルの恋人たちの霊廟 

※1月5日、12月24日・31日、バキージャ・デル・アンヘル祭り(Vaquilla del Ángel)期間中は金曜14:00迄。詳細は公式サイトにて要確認。

お祭りにもなった2人の物語

30年ほど前からは、毎年2月に『イサベルの結婚式(Las Bodas de Isabel de Segura)』というお祭りが開かれるようになりました。イサベルの結婚式から亡くなった2人が埋葬されるところまでを再現し、それに合わせてパレードや中世市場などのプログラムが催されます。

その後、富を手に入れるためテルエルを発つフアン・ディエゴをメインにした『ディエゴの出立(La Partida de Diego)』も毎秋(9月か10月)開催されるようになりました。お祭りに合わせてテルエルを訪ねるのもいいですね。

世界遺産に登録されているムデハル様式の建築物

さて、ついつい叶わなかったラブストーリーの話が長くなってしまいましたが、テルエルにはユネスコの世界遺産があります。『アラゴンのムデハル様式の建築物』に登録された10の建造物のうちの4つです。

テルエル大聖堂(Catedral de Santa María de Mediavilla de Teruel)

<エキゾチックな塔が特徴のテルエル大聖堂>
<エキゾチックな塔が特徴のテルエル大聖堂>

ムデハル様式というのは、イスラム文化とキリスト教文化が融合したスペインにしかない建築様式のことです。当初ロマネスク様式だったものの、後陣は14世紀にゴシック・ムデハル様式に改築されました。塔と屋根、ドーム部分が世界遺産となっています。

木造天井の絵や彩色がすばらしいので、オペラグラスがあるといいかも。

テルエル大聖堂(Catedral de Santa María de Mediavilla de Teruel)

      • 所在地:Plaza de la Catedral 3, Teruel
      • 入場料:6ユーロ
      • 公式サイト:テルエル大聖堂

サン・ペドロ教会(Iglesia de San Pedro)

    <外側からは想像がつかない豪華な教会内部>
    <外側からは想像がつかない豪華な教会内部>

    『恋人たちの霊廟』に隣接するフアン・ディエゴとイサベルが埋葬されていた教会で、ロマネスク様式とムデハル様式が融合した建築物です。

    もっとも古いのは塔で13世紀の建築だとのこと。教会と塔にムデハル様式の装飾が見られる一方で、教会内部は細かな彩色が施されていて必見の美しさです

    サン・ペドロ教会(Iglesia de San Pedro)

        • 所在地:Calle Hartzembusch 7, Teruel
        • 入場料:10ユーロ(塔・通路の見学含)
        • 公式サイト:サン・ペドロ教会 

    エル・サルバドル教会の塔(Torre mudéjar de El Salvador)

      <夜のエル・サルバドールの塔。上部に見えるアーチのところまで登ることができます>
      <夜のエル・サルバドールの塔。上部に見えるアーチのところまで登ることができます>

      14世紀建築の塔で4層に分かれており、内部を見学することができます。1層から3層まではちょっとした博物館になっていて、最上階からはテルエルのパノラマが広がります。塔の下が道路になっていて通り抜けられるつくりなので、町並みにマッチした素敵な建造物です。

      エル・サルバドル教会の塔(Torre mudéjar de El Salvador)

      サン・マルティン教会の塔(Torre Mudéjar de San Martín)

        <装飾が美しく保存状態がよいサン・マルティンの塔>
        <装飾が美しく保存状態がよいサン・マルティンの塔>

        教会は12世紀末に建てられ、17世紀に改築されたもので、塔は14世紀初めに建築されたとのこと。ロマネスク様式とムデハル様式が融合したテルエルでもっとも美しい塔だと言われていますが、残念ながら中には入れません。

        サン・マルティン教会の塔(Torre Mudéjar de San Martín)

        テルエルのほかの見どころとアクセス

        テルエルは小さな町なので歩いてどこにでも行け1日でも楽しめますが、できれば1泊してのんびり観光することをおすすめします。

        <入場無料で意外と穴場のテルエル博物館>
        <入場無料で意外と穴場のテルエル博物館>

        <2層のアーチになった16世紀の水道橋>
        <2層のアーチになった16世紀の水道橋>

        ほかの見どころとしては、テルエル博物館、城壁、16世紀の水道橋などがあります。博物館は入場無料で常設展のほかに企画展もあり意外と楽しめ、上階のバルコニーからの眺めもいいので時間があればぜひ行ってみてください。

        テルエルへのアクセスですが、バレンシアとサラゴサからは鉄道やバスで約2時間~2時間半、マドリードからはバスで4時間~4時間半の距離です。

        もし車で移動されるなら、テルエル県にはアルバラシン、ルビエロス・デ・モラ、カンタビエハ、バルデロブレスなどなど昔の面影を残す美しい村が点在しているので足を延ばすのもいいですね。

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        田川敬子(Keiko Tagawa)

        1996年スペインにひとめぼれ。以後何度も渡西し、2002年春に夢がかなってスペインで日系企業に就職。その後現地企業を経て、現在はオリーブオイルソムリエ/テイスターやライターとして活動中。

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