「親日」として知られるトルコでぼったくりバーに連れていかれた末路

<TOP画像:大聖堂→モスク→博物館、そして現在は再びモスクとして使われているアヤソフィア>

「すみません、写真撮ってもらえませんか?」事の発端はアヤソフィアの写真を撮りにいった時だった。声をかけてきたのはトルコ人の青年。写真を撮ってあげて、青年と少し言葉を交わし別れた。

観光地ではよくあることだ。アヤソフィアの写真を撮り終えたころ、再び青年に会った。彼から、この後に暇なら一緒に飲みに行かないかと誘われた。

わたしはトルコの食べたいものリストのサバサンドをまだ食べていなかったので、それを理由に断わろうと思った。

すると青年はサバサンドの美味しい店を知ってるから、まずそこに行こうと提案してきた。わたしは彼について行くことにした。これが有名詐欺の入口とは知らずに......。

目次

行きつけのバー

<ガラタ橋、高架下には洒落た飲食店が並ぶ>
<ガラタ橋、高架下には洒落た飲食店が並ぶ>

青年はマリクと名乗った。ガラタ橋の下に並ぶ洒落た店で、サバサンドを買って食べながら歩く。サバサンドを食べたいのはわたしだけで、マリクは他の店に行きたがっていたからだ。

行きつけのバーがあるらしい。長期で旅を続けていて予算が限られているわたしは、滅多に外でお酒を飲むことがない。

バーと聞いて、そんな高価な店に行けるだろうかと思ったが、無理そうなら断ればいいかととりあえずついて行く。

ガラタ橋を渡ると街の雰囲気が一辺する。煌びやかなネオンと飲食店の数々、人の数も倍増していた。イスタンブールは都会だった。

今日この街に到着したばかりのわたしは、まだこの辺りは歩いておらず、どんどん自分の宿から遠ざかることに不安を覚えていた。

ナンパ

中央のダンスホール ミラーボール

路面から階上へと続く階段。どんな店かは分からないが、自分の予算では入れなそうなところだと思った。

しかし、このとき店に入る気になったのは、もうすぐ旅が終わることとマリクという青年を信頼できると感じたから。

店内はバーというよりクラブやディスコに近い。薄暗い店内に他に客はいるのかないのか、まず目に入ったのは中央のダンスホール。

ミラーボールとスポットライトが揺れる中、女の子二人がだるそうに踊っていた。わたしとマリクはその近くの席に座った。のっけからマリクはダンスホールの女の子たちをナンパしたがった。どういうわけか滅茶苦茶乗り気だ。

わたしはお金がかかる遊びはなるべくしたくなかったので断った。それでも、マリクは踊りに行くだけでいいからとしきりにわたしを誘う。

踊れないから嫌だと言っても、彼はダンスホールにわたしを連れていきたがった。しょうがない、付き合ってやるかと、わたしはしぶしぶ立ち上がった。

男とは

ダンスホールで踊ることもなく、女の子二人をマリクが自分たちの席に連れて帰った。席に着くなり彼は女の子にお酒をすすめた。そしてわたしにはもう片方の女の子の相手をするように促してきた。

とても嫌だったが、男とは見栄を張りたがる生きもので、渋々一杯だけ奢ることになった。女の子たちはロシアから来ていると言ったが、わたしの隣にいる子はまったく愛想がなく、ナンパというより、キャバクラでしょうがなく接客されている感じになっている。

マリクは楽しそうだ。マリクの隣の女の子がボトルを空けてもう一本頼み、わたしの側の女の子も許可なく二本目を注文した。

彼女たちは小瓶のスパークリングワインのようなものを飲んでいた。ほとんど水の勢いでグラスは空いていく。わたしはお会計が心配で生きた心地がしなかった。

三本目を注文したところで、さすがにわたしはマリクにちょっと話があると言い、彼を連れ出した。店のエントランスの外で、自分には彼女たちの分まで払えはしないが大丈夫なのかと確認した。彼が大丈夫だと言うので、もう一杯だけを条件に席に戻る。

悪夢の始まり

パスポート お金

伝票を見ても見慣れない通貨単位、トルコリラが幾らなのか分からなかった。日本円に変換すると、わたしの心臓は早鐘を打ち始めた。

お会計は日本円にして約36万円。......やられた......ぼったくりバーだ。マリクの方を見ると同じように緊張している。

わたしはどうするか頭をフル回転させたが、とりあえず、持っていないを貫こうと思った。妥当な金額じゃないから払う必要はないとマリクにも言う。

女の子はグルだ。あれだけガンガン飲んでいた中身はアルコールじゃないに違いない。マリクは弱気だった。払いたくなくても払わなければならないと言う。

わたしが黒服に、こんな高額は持ってないから払えないと言うと、わたしたちはエントランスの外へ連れ出された。わたしは移動しながらバレないように腰に巻いたセーフティポーチを下着の中に隠した。

実は今朝、ドジをやらかして余分な金額をATMから下ろしてしまっていて、こんな日に限って小金持ちだった。もちろん請求されている金額には遠く及ばないが、知られたくない事実だった。

黒服にお金を持っていない旨を再度説明するが、その場でボディチェックを受け、わたしのセーフティポーチはあっさりと見つかってしまった。セーフティポーチもこういう場面では役に立たないらしい。エントランスから今度は店の奥へと連れていかれた。

伝家の宝刀

わたしたちが連れていかれたのは店のバックヤード。そこに黒のスーツ姿の男が現れた。マリクがわたしに言う。

相手は怖い連中だから絶対に払わなくてはならない。だから半分は自分が払うと。冗談じゃないとわたしは思った。半分でも18万だ。わたしは黒スーツに、こんな金額は払えない、金額が妥当じゃない、一杯しか飲んでいないのにおかしい......と自分の言い分を伝えた。

どうやってこの状況を打破できるか分からないが、とにかく払いたくない。しかし、わたしの言い分など通るはずもなく、セーフティポーチまで没収された。

怖くないかと言えば怖いに決まってる。いったい自分はどうなってしまうのかと不安でしょうがない。セーフティポーチを渡す際に抜き取った100ドル札を握る右手が、小さく震えていた。

このまますべてを失うことだけは絶対に嫌だった。しばらく押し問答が続いた。わたしが何を言おうが、相手は払ってもらわなくては困るの一点張り。違法なことをしているのはこの店だと言い切れる。

一か八か、わたしは伝家の宝刀を抜いてみることにした。「じゃあ、警察に行く!」これは絶対に効くと思った。これが効かなかったら打つ手なし。しかし黒スーツは、好きにしろと強気な態度だった。完全に読みを外したが、もうわたしにはこれしかない。

いったん自分の貴重品は諦めて警察を呼び、解決する。ところが、いざ部屋から出ようとすると黒スーツに突き飛ばされた。「暴力? 警察行くけど?」

わたしはもう一度伝家の宝刀を振りかざした。やはり行かれては都合が悪いのだ。行けと言うくせに行かせてくれない。

人生で一番怒った日

余程一生懸命だったのが可笑しかったのだろう。わたしの右手のぐちゃぐちゃになった100ドル札が見つかったとき、黒スーツに馬鹿にされたように笑われた。

このとき、わたしは見逃さなかった。黒スーツがマリクの方を見てニヤつき、マリクもまたニヤついたのを。わたしはすぐさまマリクに問いただした。

「マリク、何で今笑ったの?」彼は否定したが、わたしはようやくそこで気が付いた。マリクも共謀者だ。自分の馬鹿さ加減に呆れる。そこからしばらくマリクの姿が見えなくなった。

どこに行ったのかと思いきや、黒服と一緒に戻ってくると、半分払ったことになっていた。黒服が現金を見せてくる。よくある手法だった。

マリク、わたしはもう全部分かってるんだよ......。黒スーツがセーフティポーチの中の現金を数え、足りない分はATMでキャッシングしてもらうと言った、そのときだ。

わたしはキレた。自分でも何が引き金になってこんなに怒ることができるのか分からなかったが、とにかく怒った。人生で一番怒った。ひょっとしたら銃が出てくるかも知れない、それはちょっと頭をよぎったが怒りの方が勝っていた。

「18万の金額の大きさがお前に分かるか。トルコの物価は日本より安いだろう。お金を貯めるのにどれだけ苦労したと思ってるんだ」ともうよく分からないことを大声でがなり立てていた。

黒スーツがわたしに落ち着けと言う。周りの客に迷惑だと。周りの客......今まで気付かなかったが、確かに他にもアジア人が席に座らされているのが見える。

気が弱い人は無理矢理キャッシングさせられるのだろう。そう思うと自分の行為は正当だと思えた。

決してこれが解決法ではないが、これを機に値下げ交渉が始まり、わたしは3,000円が妥当だと言ったが、それならすべて没収すると黒スーツに脅されて、仕方なく100ドルで手を打つことになった。

祭りの後

turkey05.jpg
<安全に見えても犯罪の影はあらゆるところに潜んでいる>

店の階段を下るとき、外にいたマリクに言われた。「最悪だよ、友達だと思ってたのに、何てことをしてくれたんだ」わたしはまだマリクが演技を続けていることに唖然とした。

興奮冷めやらぬ帰り道、達成感と虚脱感から無性に煙草が吸いたくなったが、すべてマリクと一緒に吸ってしまったことに気が付いて、道路に立っているトルコ人から煙草を一本恵んでもらおうと声をかけた。しかし、ただ煙たがられただけだった。

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Rio

カメラ片手に世界中を旅する写真家×旅人。 毎年1月から4月の雨季、ボリビアのウユニに滞在、天空のウェディングフォトを撮影。 ウユニ塩湖でウェディングフォトの他、おひとり様からグループフォト、家族写真まで撮っています。

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