【オランダ】古都で鑑賞する「ユトレヒト古楽祭」

オランダの古都ユトレヒトでは毎年「ユトレヒト古楽祭」が開催されています。旧市街にある中世のドム教会や郊外のデ・ハール城など、数々の歴史的建造物でコンサートが催され、中世、ルネサンス、バロック音楽のレパートリーが、当時の楽器で演奏されます。

目次

中世の教会やお城が舞台

Marieke Wijntjes
<Photo: Marieke Wijntjes>

ユトレヒト古楽祭 (Festival Oude Muziek Utrecht) は、中世の面影が色濃く残るユトレヒトで、1982年から開催されている音楽祭です。古楽祭としては世界最大規模を誇り、毎年8月末の10日間にわたり、150以上のコンサートやシンポジウム、レクチャー、展覧会などが催されます。

コンサート会場として使用されるのは、2014年にリニューアルオープンしたコンサートホールTivoliVredenburg、13世紀に建てられたオランダ初のゴシック様式の大聖堂であるドム教会 (Domkerk)、ユトレヒト市庁舎、ユトレヒト音楽学校、鉄道博物館、アンティーク書店など、市内の28箇所です。さらに、ユトレヒト郊外にあるデ・ハール城 (Kasteel de Haar) など、ユニークな会場も含まれています。

ユトレヒト 会場
<1. ドム教会 (photo: Marieke Wijntjes)/ 2. デ・ハール城/ 3. TivoliVredenburg (photo: Festival Oude Muziek Utrecht)>

2024年のテーマは「セビリア」

ユトレヒト古楽祭には毎年異なるテーマが設定されており、そのテーマに沿って演奏のレパートリーや使用される楽器が選ばれます。そのため、毎年さまざまな彩りの音楽祭を楽しむことができます。

ユトレヒト セビリア
<Photo: Festival Oude Muziek Utrecht>

2024年のテーマは「セビリア」です。スペイン南部のセビリアでは、8世紀以降、キリスト教徒、ユダヤ教徒、イスラーム教徒が共に暮らしていました。しかし、1492年にカトリック教国がグラナダを陥落させると、ユダヤ人やイスラーム教徒は国外追放されてしまいました。スペインが南米に進出した大航海時代には、征服者の音楽と現地の民族音楽が融合して混合バロック音楽が生まれました。

2024年のユトレヒト古楽祭では、ルネサンス期のスペインの作曲家クリストバル・デ・モラレス (c.1500-1553) 、フランシスコ・デ・ペニャローサ (1470-1528)、セビリア出身のカトリック司祭であり作曲家でもあったフランシスコ・ゲレーロ (1528-1599) の音楽を中心に、多くのポリフォニー(多声音楽)が演奏されます。また、スペインと南米の混合バロックにもスポットが当てられます。

「古楽」とはどんな音楽?

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西洋の「古楽」は、クラシック音楽よりも古い時代の「中世音楽」、「ルネサンス音楽」、「バロック音楽」を指します。

500~1400年頃の「中世音楽」は西洋音楽の原点と言われ、独自の音楽理論に基づいており、荘厳な響きを持つグレゴリオ聖歌が有名です。1400~1600年頃の「ルネサンス音楽」では、イタリアの作曲家ジョヴァンニ・ダ・パレストリーナ (1525-1594) の宗教曲をはじめ、絢爛豪華な音楽が作られました。

1600~1750年頃の「バロック音楽」では、楽器が発達して難しいフレーズも演奏できるようになり、様々な装飾を施した旋律が生まれました。ヨハン・ゼバスティアン・バッハ (1685-1750) の『管弦楽組曲第3番ニ長調 BWV1068』の第2曲「エール」は、「G線上のアリア」として編曲され、優美な旋律の音楽として有名です。

Festival Oude Muziek Utrecht
Photo: Festival Oude Muziek Utrecht>

西洋音楽はその後、18世紀中頃から古典派、ロマン派、そして現代音楽へと発展し、演奏される楽器も移り変わりました。チェンバロはピアノに、ドゥルシアンはファゴットに、トラヴェルソはフルートに置き換えられ、素朴な音色を奏でていた古楽器は姿を消していきました。

古楽が再び脚光を浴びたのは、19世紀後半の古楽復興運動の時期です。古楽の研究が進められ、20世紀には古楽を演奏するための器楽アンサンブルや合唱団が登場しました。1933年にはスイスのバーゼルに、古楽奏法に特化した学校であるスコラ・カントルム・バジリエンシスが設立されています。

楽器製作者たちは古楽器を復元し、演奏家たちは試行錯誤を重ねながら当時の響きを再現しました。こうして1970年代の終わりまでには古楽復興の礎が築かれ、現在では古楽が西洋音楽の主流のひとつとして定着しています。

美しい古楽器たち

Festival Oude Muziek Utrecht
<Photo: Festival Oude Muziek Utrecht>

ルネサンスやバロック音楽の古楽器は、その音色はもちろんのこと、美しい造形にも心を奪われます。

洋ナシ型のフォルムを持ち、精巧な透かし彫りが施されたリュートや、植物文様や風景画が描かれたチェンバロ、古代の角笛を模したコルネット、堂々としたサイズながらも儚げな雰囲気のテオルボなど、これらの楽器はまさに芸術作品です。

古楽
<17世紀以降、イタリアのカラヴァッジョやオランダのレンブラント、スペインのベラスケスといったバロック期の画家たちは、静物画や肖像画の中に古楽器を描きました。フェルメールの絵画にも、ヴァージナルやシタール、バロック・トランペット、ヴィオラ・ダ・ガンバなどの古楽器が登場します。(上写真)>

古楽に触れることで、画中に流れる音楽に想いを巡らせる楽しみが生まれ、美術鑑賞がより深いものになります。

  1. ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジオ 『リュート弾き』 1596年頃, ウィルデンスタイン・コレクション, ニューヨーク
  2. レンブラント・ファン・レイン 『ミュージカルカンパニー』 1626年, アムステルダム国立美術館
  3. ディエゴ・ベラスケス 『3人の音楽家』 1618年, 絵画館, ベルリン
  4. ヨハネス・フェルメール 『音楽の稽古』 1662-1665年頃, キング・ギャラリー, ロンドン
  5. ヨハネス・フェルメール 『恋文』 (部分) 1669-1670年頃, アムステルダム国立美術館
  6. ヨハネス・フェルメール 『絵画芸術』(部分) 1666-1668年頃, 美術史美術館, ウィーン

古楽コンサートの楽しみ方

古楽コンサート

ユトレヒト古楽祭の公式サイトには、コンサートの会場やプログラム、声楽家、演奏家、演奏楽器などの詳細が掲載されています。さらに、演奏の試聴もできるので、どのような音楽が楽しめるのかのイメージを膨らませることができます。

中世、ルネサンス、バロック音楽の違いを聴き比べてみたり、興味のある古楽器の音色に耳を傾けたり、歴史的な教会での演奏を楽しんだりと、さまざまな楽しみ方ができます。

チケットを購入するには、「Order」をクリックして希望する枚数を選び、クレジットカードで支払い手続きを行ってください。eチケットの手数料は2ユーロ、郵送チケットの手数料は4.5ユーロです。

ユトレヒト古楽祭の期間中には、若手音楽家や音大生による無料のコンサートも毎日開催され、気軽に古楽の演奏を楽しむことができます。

Castello Consort
<2024年の古楽コンサートツアーで公演するアンサンブルCastello Consort>

2024年8月28日からの3日間は、オランダで最も歴史ある「国際ファン・ヴァッセナー・コンクール (Het Internationaal Van Wassenaer Concours)」が開催されます。2024年のコンクールのテーマは「バロック音楽」で、古楽アンサンブルの審査は一般公開されます。

ユトレヒト古楽祭が終わると、10月から翌年5月かけて、オランダ各地を巡る古楽コンサートツアーが開催されます。コンサートツアーのパンフレットはこちら (pdf) からダウンロードできます。

オンラインで鑑賞できるEMTV

オンラインで鑑賞できるEMTV

ユトレヒト古楽祭に足を運べない方、オンラインでコンサートを鑑賞したい方には、古楽テレビ (Early Music Television) をお勧めします。月額7.99ユーロ、または年間90ユーロで、ユトレヒト古楽祭やコンサートツアー中に収録されたコンサート、レクチャー、ドキュメンタリーなどに無制限でアクセスできます。

定期購読を申し込まずに、コンサートを個別に購入することもできます。各コンサートのページには、演奏会場や演奏者、プログラムなどが掲載されており、購入前にトレーラーを視聴できるものもあります。

一期一会のコンサート体験

Marieke Wijntjes
<Photo: Marieke Wijntjes>

私は大学時代にコントラバス奏者の知人から古楽を勧められ、初めてその音楽を聴きました。それまで耳にしたことのない神聖な歌声や、透明で軽やかな古楽器のハーモニーに感動し、幸福感に満たされたのを今でも鮮明に覚えています。

ユトレヒト古楽祭は、多彩な古楽の演奏を楽しめる貴重な機会です。中世の教会やお城など、素晴らしい舞台で繰り広げられる音楽の世界をぜひ体験してみてください

ユトレヒト古楽祭 Festival Oude Muziek Utrecht

  • 所在地:Vredenburgkade 11, 3511 WB Utrecht
  • アクセス:ユトレヒト中央駅より徒歩10分
  • 会期:2024年8月23日~9月1日
  • 公式サイト:Festival Oude Muziek Utrecht
  • メイン会場:TivoliVredenburg

※イベントや施設の詳細など掲載内容は2024年7月時点のものです。

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Kayo Temel

オランダ在住。アムステルダムの美術アカデミーで絵画を学び、イラストレーターとして活動中。20年の在蘭経験を活かして、オランダを満喫するためのローカルな情報をお届けします。

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