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【北海道】暑寒別岳山麓の良質な天然水が命 日本最北端の造り酒屋「国稀」
全国には約1600カ所も造り酒屋があります。地酒を片手に土地の肴を味わうひと時は、旅好きや酒好きにとって至福と言えるでしょう。北海道・増毛町にある「国稀(くにまれ)」は、日本最北端の造り酒屋です。北海道で絶大な人気を誇っており、生産する4,000石の酒の95%が道内で消費されています。「増毛町とともに生きる酒」の魅力に迫りました。
目次
ニシン景気に沸いた増毛の歴史
増毛町は、札幌から約2時間の日本海側沿岸に位置する街です。その歴史は古く、宝永3(1706)年に、松前藩藩士・下国家がマシケ領を知行したと言われています。その後、宝暦元(1751)年に松前の商人、村山伝兵衛が函館奉行所より増毛場所を請負、増毛に出張番屋を設け交易を始めるようになり和人が定着しました。
増毛は古くから豊富な水産資源に恵まれていました。町名の由来は、ニシンが大量に押し寄せると、それを追って海一面にかもめが飛ぶことから、アイヌ語で「かもめの多いところ」を意味する「マシュキニ」又は「マシュケ」が転じたものといわれています。明治期には、交通の要衝として港湾、鉄道の整備が早期に進められました。昭和30年代まで鰊漁で栄え、街を歩くと今もなお繁栄の足跡を伺うことができます。
昭和初期にタイムスリップ
「国稀」は、増毛の繫栄を現在に語り継ぐ造り酒屋です。1882(明治15)年に創業。以来、100年以上も昔ながらの製法を守り、暑寒別岳山麓の良質な天然水に拘った酒造りをしています。初代・本間泰蔵氏は、佐渡ヶ島から明治維新に北海道へ渡り、小樽に渡り呉服店の養子格の番頭として働いたのちに、ニシン景気で湧く増毛に移り住み呉服商を始めました。明治15年には呉服商の他に様々な事業に手を広げます。その中の醸造業が「国稀」の礎となっています。
杉玉の下の暖簾をくぐって中に入ると、そこはまるで昭和初期。初めて訪れた人でも懐かしい感じがすることでしょう。入り口付近は売店になっていて、自慢の清酒はもちろん、酒粕を使ったお菓子やアイスクリーム、国稀のロゴをあしらったTシャツや前掛けなど、さまざまなグッズを販売しています。
銀幕の世界の面影が残る
国稀は、1981年に公開された髙倉健さん主演映画「駅 STATION」の撮影が行われました。この映画は北海道各地を舞台に、様々な人間模様を描いています。国稀の和室は髙倉健さん演じる「英次」の実家として使われました。あれから40年以上経過した今も、スチール写真などが誇らしげに飾られています。
技術、経験、知識に裏付けされた酒造り
売店の奥には、資料館があります。日本酒は、もろみのアルコール発酵(糖をアルコールに変える)と同時に糖化(でんぷんを糖に分解する)する「並行複発酵」によって造られています。この醸造技術は、他のアルコール飲料には見られないもので、高度に訓練された技術、経験、知識が必要とされています。
北海道開拓が始まった明治時代、日本酒は本州から運ばれており、安いものではありませんでした。創業者の泰蔵は、佐渡の知人から酒造りの知識を伝受されていたことから、当地での自家醸造を思い立ったと言われています。それにしても瓶の数がスゴイ!「もしも今、大地震が起きたら...」と思うとゾッとしました。
酒蔵内では、常時10銘柄以上が試飲できます。代表作「国稀」は、熱燗でも冷でもおいしいオールラウンダー。上級酒「上撰國稀」は、淡麗辛口であと味のスッキリした味わいです。「鬼ごろし」は、スッキリした口当たりで香り高い超辛口酒。「北酔」は、オンザロックでも味わえます。自分好みの一杯を見つけてください。
うまさの決め手は暑寒別岳山麓の天然水
「お酒は苦手だけど、国稀のおいしさは体験したい」と言う人は、お酒に使われている天然水を味わってください。多くの日本酒は硬度60前後の軟水なのに対し、暑寒別岳からの伏流水の湧き水は、硬度18~20とまろやか。建物の入り口で水を汲めるので、ペットボトルなどを用意するとよいですよ。
歴史ある街を散策
せっかくなので、街を散策してみましょう。現在、増毛にはクルマで行くことしかできませんが、かつては留萌本線の終着駅である「増毛駅」がありました。「増毛(ぞうもう)」とも読めることから、薄毛で悩む人に大人気。それにあやかった人たちが、入場券を買い求めました。
そのほか増毛には海産物や果物、歴史的建造物など、たくさんの魅力が溢れています。明治・大正・昭和初期に渡って繁栄した街並みに、当時の想いを馳せてください。
国稀酒造
- 住所:増毛郡増毛町稲葉町1丁目17
- 営業時間:9:00~17:00
- 定休日:不定休
- 公式サイト:国稀酒造
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吉田匡和
- 札幌市在住のよろずライターです。美味しい食べ物から温泉、穴場スポットや定番スポットの知られざる楽しみ方など、地元ライターらしい視点でワクワクを紹介します。