【兵庫】日本酒造りの仕事に必須だったのは「歌うこと」!驚きの「酒造り唄」の内容とは?

皆さんは日本酒、お好きですか?近年はジャパニーズカルチャーとして、海外でも注目を浴びている日本酒。昔から身近にあるお酒として飲んだことはあっても、その味の裏にある歴史の物語を知っている人はそう多くはないかも知れません。先日、興味深い日本酒イベントがあったのですが、そこで驚きのものたちに出会いました。

目次

酒造りの仕事に必須だったのは「歌うこと」!

日本一の酒どころと呼ばれる兵庫県の「灘五郷」。そこは国内でも、類まれな素晴らしい酒造環境に恵まれた土地です。昔から日本酒づくりが盛んなのですが、長い歴史の中でお酒というものを通して様々なものが生まれてきました。まず、お酒をつくる時に生まれた「唄」があります。演歌でも民謡でもない「酒造り唄」、それはお酒をつくる職人さんたちが「唄いながら日本酒をつくる」という、現在では想像もつかないようなことでした。

極寒期に手造りで行われていた厳しく辛い酒造りの作業、その中で職人さんたちの心を癒して士気を高める役割を持っていたという酒造り唄。手技としての技術だけでなく、形のない「唄」というものが酒造りにとって重要だったのには、どういった背景があったのか気になりますよね。

イベント

機械化が進んだ今ではもう唄いながらの作業はしていないそうなのですが、伝統文化として唄を残そうという動きがあるようで、この日のイベントでは各酒造会社の有志が集まり唄うという、日本酒の歴史上初めてという試みが行われていました。これはとても貴重なことかも知れませんよ。そんな「酒造り唄」の内容をいただいた資料の中から短くまとめてご紹介しますね。

驚きの「酒造り唄」の内容とは?

酒造り唄の内容はとてもバラエティー豊かです。秋になると職人(杜氏、蔵人)たちが兵庫県丹波地方から灘へとやって来て蔵入りします。そこでまず酒造りの諸道具を洗うところから始まるのですが、吉野杉で作った30石入りの大桶を横に倒して洗うような時に「秋洗い唄」を唄います。それが酒蔵から聞こえてくるといよいよ酒造りの季節の到来。

「もと摺り唄」は酵母を育てる「もと」をすり潰す時に唄われ、めでたい祝い唄として今でも唄われたりしている大切な唄です。夜中の間も続くかき混ぜ作業時の「もと掻き唄」は、辛い作業に耐え眠気を覚ましながら唄います。発酵調整のための櫂入れが終わって仕舞う前の「仕舞唄」は、1日の作業を終える時の嬉しく楽しいものだったとか。

イベント

そうやって、職人達がお酒を作りながらその時々の感情を込めて唄っていたそうです。他にも、何節唄えば仕上がるという時計代わりにもなり、蔵人の調子を合わせるためにも役立っていたという「酒造り唄」の数々。

「風呂上がり唄」は、全員がお風呂から上がって、夕食や晩酌を済ませて風呂から上がり、ほろ酔い機嫌でその日に仕込んだ醪に櫂入れ作業をする時の唄。灘の酒蔵は数多く隣接していて、いつも同じくらいの時刻になると各蔵から競うように風呂上がり唄が明かりの点いた窓から漏れ聞こえ、醪発酵の香りとともに何ともいえぬ情緒があったのだそうですよ。

唄の資料に書かれたそんな説明を読むだけで、当時の酒造りの様子が頭に浮かんできてほっこりしますね。春までの約半年間を酒蔵で寝泊りしながらの酒造り。そういった唄の存在から酒造りの背景にある人々の生活の気配を感じとり、過去の物語を知ることで、日本酒を飲む時の味わいも更に深みのあるものに感じられるような気がしました。

時空を超えて旅立つ船

時空を超えて旅立つ船

この日、過去を再現して行われた最も大きなプロジェクトがあります。昔は、日本酒を江戸に届けるために帆船を使って運んでいたそうなんですが、その歴史を再現しようと一艘の船が日本酒の樽酒を乗せて、江戸(東京)まで旅立つこととなったのです。もちろん昔と同じように帆を張って、風の力のみで向かいます。時空を超えて江戸まで旅をする日本酒、どこかロマンを感じさせる旅立ちですね。

当時、江戸に運ばれる良い酒として選ばれたものは「江戸へと下る」という意味で「くだり酒」と呼ばれ、残念ながらそれに選ばれなかった酒は下れなかったとして「くだらない」という「つまらない、出来の悪い」といった意味の言葉の語源になったと言います。歴史の再現、現代版「樽廻船」は神戸のイベント会場を出発したのち、数日後に東京へと到着して無事迎え入れられたそうですよ。船で揺られることで杉樽の香り高くなった日本酒、ぜひ飲んでみたいものです。

樽廻船
<東京へ向けて出発した現代版の樽廻船。素晴らしい門出を祝う>

まるで芸術作品のような仕上がりです

樽廻船で運ばれたお酒は、大きな樽に入ったものでした。よくお祝い事などの鏡開きで木槌で叩き割るのを見かけるかと思いますが、あの樽です。外側に巻いてあるものを菰巻(こもまき)と言うのですが、それを巻く専門の職人さんが実演しているのも見られました。若い職人さんでしたが11年目という凄腕、その技の正確さとスピードには驚くばかり。まるで芸術作品が作られたかのように美しく仕上がっていましたよ。

他にも、剣菱酒造の職人さんによる「暖気樽づくり」の実演もあったのですが、天然素材を使って感覚の技でスルスルと仕上げていく様子も素晴らしく、これらの職人技は決して無くしてはいけない財産だと思いました。何でも機械で作れるようになった時代ですが、人の感覚を使って作るものには気配があるというか、ものに吹き込まれる何かがあるように感じます。酒造り唄にしてもできれば忘れ去られたくない、どこかに残っていて欲しい風景のように思いました。

菰樽
<あっという間に仕上げられた菰樽。菰巻きをする職人は荷師(にし)と呼ばれる>

日本酒に関わる人たちが大切にしていること

このイベントは関係者の人々にとっても、かなり意味深いものだったようで「歴史的背景や何故ここ(灘五郷)でお酒づくりが盛んになったのかという意味を伝えたい。お酒全体の歴史や文化を知ってもらえたら嬉しい。江戸時代のくだり酒を体感できる、我々としても楽しみなイベントです」とおっしゃっていました。この日参加したのは16もの酒造会社、売られていた日本酒は全70種にものぼり、日本酒文化を発信する一大イベントとなっていました。

イベント
<この日は、酒樽を運ぶ馬も登場。樽廻船の頃の様子を細かに再現していた>

歴史ある灘五郷、そこに行くと様々な酒造所の酒蔵を探訪することができ、試飲や新酒を買えたり、古くからの酒蔵内の見学もできたりとタイムスリップ感も満載です。職人たちが酒樽を作り上げる様子を見たり、近年は15程の酒造スポットを巡るスタンプラリーや酒蔵探訪ツアーなどの色んな取り組みも盛んに行われていて、日本酒文化を伝えたいという想いがしっかりと伝わってきます。

動画で「酒造り唄」「菰巻き」「暖気樽作り」をどうぞ

2022年、日本遺産にも選ばれた灘五郷。この先は文化庁や関係団体と連携し、ユネスコの無形文化遺産登録を目指して「日本酒、焼酎、泡盛」等の伝統的酒造りの技術の保護、継承をしていけたらという関係者の挨拶もありました。世界にまで大きく羽ばたいていく日本酒、誇りを持って応援したい日本の文化です。まずは観光としても楽しめる灘五郷へ、遊びに行ってみてはいかがでしょうか。

>>イベント当日の様子(動画)はこちら

>>灘五郷酒造組合公式サイトはこちら

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Hinata J.Yoshioka

フォト&ライター。国内を転々と旅した後、沖縄にたどり着き12年を過ごす。現在は神戸を中心に活動中。ハワイ好きでフラ歴もあり、ロミロミマッサージのセラピストとしての一面も持つ。好きなことは料理・物作り・音楽・読書・写真・旅などあらゆることに興味はつきない。世界を船でぐるり2周した物語もWebで掲載中!!

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