【特別天然記念物】齢1200年の色香の秘密、牛島の藤

牛島の藤

「日本には四季がある」とよく言われます。もちろん世界の国々にも季節はありますが、やれ花見だ、月見だ、紅葉狩りだと、1年を通して老若男女がこぞって自然を愛で歩く風習があるのは、日本の大きな特徴でしょう。花だけとってみても、桜以外に梅や水仙、牡丹、花しょうぶ、つつじ、紫陽花、萩など昔から観賞の対象になってきたものが日本には多くあります。

さて、今日はそういう花のひとつ、藤の名所をご紹介しましょう。

目次

唯一の特別天然記念物

牛島の藤
<牛島の藤 cKanmuri Yuki>

今日ご案内するのは、埼玉県春日部市の「牛島の藤」です。藤の名所は全国に点在していますし、天然記念物に指定されている藤もいくつかあります。けれども、特別天然記念物(天然記念物のうち、特に学術上の価値が高く、重要とみなされるもの)の指定を受けているのは、ここ牛島の藤だけです。

牛島 藤の根本
<藤の根元 cKanmuri Yuki>

牛島の藤は、樹齢1200年以上とも言われており、明治時代には、花房が3mもあったそうです。文化庁の国指定文化財データベースにも、「根元の周囲約10m、幹は基部から多数分岐して枝条よく蔓延し、成長旺盛。(中略)開花時の壮観は比類なく、既知のフジのうち最大のものである」と記述されています。

700平方メートルの藤棚

牛島の藤がある「藤花園」は、約2haの庭園で、見事な藤棚のほかに、アヤメやツツジ、樹齢500余年の老松などの手入れも行き届いています。庭園のそこここに大小色違いの藤が植わっていますが、何と言っても圧巻なのは、庭の中心を大きく占める藤棚です。たった三本の古木が、視界からはみ出るほど大きな藤棚の花を咲かせているのですから驚きです。

牛島の藤
<牛島の藤cKanmuri Yuki>

庭園に入ると、右手と左手にそれぞれ大きな藤棚があり、そのうち、右手の藤棚の中心には樹齢800年の藤の幹が、左手の藤棚には、樹齢1200年の藤と600年の藤の蔓が広がっています。藤棚からは、甘い匂いとともに淡紫の長い花房がいくつも垂れ、美しい花影を作ります。

牛島の藤
<藤棚 cKanmuri Yuki>

目立つことではありませんが、この藤棚の見事さは、藤棚自体の素材にも支えられています。というのも、藤花園では藤棚にコンクリート製の擬木を用いず、すべて天然木で作っているのです。「微妙な高さの調節ができ、樹に無理がかからない」(春日部市公式サイトより引用)と、園主もそのこだわりを説明します。

活力の源は酒粕?!

牛島の藤の由来にはいくつかの言い伝えがあります。ひとつには、「長い病気で苦しむ娘を良くするには、藤を寺に納めるのが良いと旅僧に教えられ、藤を寺の境内に移し植えたところ病気が治った」というもの。もうひとつには、元真言宗蓮花院の境内であったこの園に、1200余年前、弘法大師がお手植されたのがこの藤だというもの。いずれにしても、藤花園が明治7年に廃寺となった蓮花院の境内であったことは確かなようです。

ルピナス
<藤の花を下から迎えるように咲くルピナス cKanmuri Yuki>

360度藤の花に囲まれて藤棚の下を歩くのは、最高の気分です。面白いことに、これだけの花を咲かせる活力の源のひとつは「酒粕」だとか。というのは、毎年、埼玉にルーツを持つ酒造会社、世界鷹小山家グループから酒粕の寄贈を受け、これを寒肥として施しているのです。そう思って見ると、上品な藤の香りや佇まいにもほんのり色香を感じるような気がします。

臥龍を思わせる幹

春日部市サイトによれば、詩人の三好達治は牛島の藤をことのほか愛し、「牛島古藤花」という詩を詠みました。また、幸田露伴の娘・幸田文は、「おどろおどろしいながらも強大な生命力を感じさせる根回りの対比に強く驚いた」ことを随筆「藤」に記しています(春日部市サイトより引用)。

実際、優雅な花房と対照的に、藤棚の中ほどにある幹は、いくつもに分かれ、まるで龍が横たわっているかのように見えます。

牛島の藤
<臥龍を思わせる幹 cKanmuri Yuki>

来園の際には、庭園の一隅に設けられた築山に上ることも、どうぞお忘れなく。少し高めの視点から見る藤棚にはまた格別な風情があります。

築山からの眺め
<築山からの眺め cKanmuri Yuki>

藤花園

  • 公式サイト:藤花園
  • 開園日:毎年藤の花の時期のみ開園。2023年は4月15日(土)~5月5日(金)
  • 開園時間:8:00~17:00
  • 入園料:大人1,000円、子ども(4歳以上~小学生)500円。団体割引あり
  • 最寄り駅:東武野田線「藤の牛島」駅から徒歩10分

7種の藤を愛でる春日部藤まつり

藤は春日部市の花でもあり、春日部駅西口から南西に延びるメインストリートには1979年以来藤が植樹されてきています。今では、ふじ通りと呼ばれるこの道路の両側の歩道に沿って、約1.1kmの藤棚が配置されています。

毎年藤の季節には、ここをメイン会場として藤まつりが開催されます。今年2023年は42回目の催しとなり、各団体のパレードや踊りや太鼓、模擬店などが通りに出現する予定です。

春日部藤まつりの様子
<春日部藤まつりの様子/写真:春日部市コミュニティ推進協議会事務局提供>

春日部藤まつり

  • 会場:春日部駅西口 ふじ通り(郵便局交差点~地方庁舎前交差点までの約1km)
  • 開催日時:令和5年4月23日(日)10:30~16:00 ※雨天時29日(土・祝)、再延期なし
  • Googleマップ:

紅色の藤 アカカピタン
<最も濃い紅色の藤、アカカピタンcKanmuri Yuki>

ちなみに、ふじ通りに植栽されている藤は、7種218本。春日部駅からたどると、ムラサキカピタン(紫花美短)、シロナガフジ(白長藤)、ムラサキナガフジ(紫長藤)、シロカピタン(白花美短)、コクリュウフジ(黒龍藤)、クチベニフジ(口紅藤)、アカカピタン(赤花美短)の順に植えられていますので、ぜひ見比べてみてください。

桐と桜

さて、ここからは少しおまけの話です。

隣接する岩槻区のお雛様を紹介する記事で書いたように、春日部市にも昔は桐の木が多く自生していたようで、桐工芸品は今も同市の特産品のひとつです。そのため春日部市の木は「桐」。桐の花もまた淡い紫ですが、藤とは違い上に向かって咲きます。牛島周辺では、牛島公園に見られるそうですので、興味のある方はぜひどうぞ。

また、春日部市を流れる古利根川の両岸は桜の名所としても知られます。桜の時期に訪れる方は、ぜひ古利根川まで足をお延ばしください。春日部駅の東口をまっすぐ徒歩5分で下のような眺めに出会えます。

古利根川沿いの桜並木
<古利根川沿いの桜並木 cOkuboNobukO>

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冠ゆき

山田流箏曲名取。1994年より海外在住。多様な文化に囲まれることで培った視点を生かして、フランスと世界のあれこれを日本に紹介中。

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