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アムステルダム国立美術館で史上最大のフェルメール展開催
2023年2月から6月にかけて、オランダのアムステルダム国立美術館で史上最大のフェルメール展が開催されます。『真珠の耳飾の少女』や『地理学者』、『天秤を持つ女性』、『レースメーカー』など、珠玉の作品の数々が一堂に会します。
目次
28作品が勢ぞろいする世紀の展覧会
<『デルフト眺望』1660-61年, マウリッツハイス美術館/ Photo: Mauritshuis, The Hague>
ヨハネス・フェルメール (1632 - 1675) は、17世紀オランダ黄金時代を代表する画家です。その作品には穏やかな光が満ち、今なお世界中の鑑賞者を魅了しています。
オランダ南部のデルフトにアトリエを構え、科学や光学に関心を寄せながら、時にカメラ・オブスクラという投影像を見る装置を用いつつ、独自の描写技法を築きあげました。
寡作の画家フェルメールが43年の生涯の間で遺した作品は、わずか35点ほど。私はこれまで1枚でも多くの作品を鑑賞しようと、アムステルダム、デン・ハーグ、パリ、ウィーン、フランクフルト、ベルリンの美術館を巡ってきました。
アムステルダム国立美術館が「史上最大の」フェルメール展の開催を発表した際、その展示作品数は、1996年のマウリッツハイス美術館で展示された22点を超えると予想されていましたが、2022年11月1日に公表された作品リストはなんと28点にのぼりました。私と同様に、多くのフェルメールファンが歓喜したことと思います。
以来、展示作品のリストを眺めては、アムステルダム国立美術館に華々しく並ぶ絵画を想像して胸を高鳴らせています。
『真珠の耳飾の少女』もやってくる
<『真珠の耳飾りの少女』1664-67年, マウリッツハイス美術館/ Photo: Mauritshuis, The Hague>
史上最大のフェルメール展は、アムステルダム国立美術館と、デン・ハーグにあるマウリッツハイス美術館のコラボレーションによって実現しました。フェルメールの28点の作品は、世界7カ国12都市、14の美術館からアムステルダムに集結します。
アムステルダム国立美術館には4点、マウリッツ美術館には3点のフェルメール作品が所蔵されていますが、マウリッツ美術館は今回の展覧会のために、3作品全てを貸し出すことになっています。
私にとって『真珠の耳飾の少女』、『デルフト眺望』、『ダイアナとニンフたち』を、マウリッツ美術館の外で鑑賞するのは初めてのことで、アムステルダム国立美術館のどの部屋にどう飾られるのか、その展示方法も楽しみです。
※『真珠の耳飾の少女』の貸し出し期間は2023年3月末までとなっており、その後はマウリッツハイス美術館に戻りますのでお気をつけください。
フェルメール作品の贅沢な比較鑑賞
<『天秤を持つ女』1662-64年, ワシントン・ナショナル・ギャラリー>
『天秤を持つ女』には、宝石箱を前にして天秤を持つ女性が描かれています。背景の壁には「最後の審判」の絵画がかけられており、現世の財宝よりも天界の宝物を重んじるべき、という宗教的意味がこめられています。
薄明かりに浮かびあがる女性は清らかに微笑み、「胎児の魂を量る聖母マリア」だと唱える美術史家もいます。
この作品に私は以前から、アムステルダム国立美術館に所蔵されているフェルメール作品『青衣の女』との共通点を感じていました。
静謐な雰囲気や、穏やかな空気のなかに感じられる一筋の緊張感には、神々しさがただよっています。2作品を間近で比較するのが今からとても楽しみです。
宝石箱からあふれる金細工や真珠のネックレス、儚げな天秤、女性の細い指先に輝く光の粒を、この目で感じられるのも嬉しくてなりません。
<『地理学者』1669年, シュテーデル美術館/ Photo: Städel Museum, Frankfurt am Main>
『地理学者』は、かつてルーブル美術館で『天文学者』を見て以来、いつかは鑑賞したいと思っていた作品です。
両作品に描かれたモデルは同一人物だと考えられ、日本の着物のようなローブや、地球儀と天球儀などのモチーフからも、『地理学者』と『天文学者』が一対の作品として描かれたことが窺えます。
ルーブル美術館の『天文学者』を目にした時は、部屋にただよう塵が光を反射し、古い本やカーテンのにおいさえ伝わってくるような写実性に心を奪われました。
同じくルーヴル美術館では『レースを編む女』の可憐な仕草にも恋をして、今回の展覧会での再会を待ち焦がれています。
ちなみに18世紀のアムステルダムには、プリンセン運河沿いの高級邸宅で『地理学者』と『天文学者』、『レースを編む女』を同時に飾って愛でていた所有者がいたそうで、なんとも羨ましい限りです。
6通のラブレター
<左:『恋文』1669-70年, アムステルダム国立美術館/ 右:『手紙を書く婦人と召使い』1670年, アイルランド国立美術館, Photo: National Gallery of Ireland>
フェルメールの作品には多くの手紙が登場します。今回の展覧会では、手紙を書き、受け取り、読む女性の姿を描いた6作品を鑑賞できます。
『恋文』と『手紙を書く婦人と召使い』は、ほぼ同時期に描かれた作品で、女主人と召使いの表情や視線、服装やアクセサリー、空間を内外に分かつタペストリ、床のタイルなどのモチーフを比較できます。
実はこの2作品は災難の面でも共通するものがあります。『恋文』は1971年に東パキスタン難民義援金を要求する窃盗犯により、『手紙を書く婦人と召使』は1974年にIRAの武装メンバー、さらに1986年には別の窃盗犯による盗難に遭っています。
その後『恋文』は深刻なダメージを負った状態で、『手紙を書く婦人と召使』はアイルランド警察のおとり捜査によって発見されました。
つい先日、10月27日には『真珠の耳飾りの少女』をターゲットにイギリスの活動家がトマトソースをかぶったり、作品のガラスに体を接着させようとしたりする事件が起きました。
作品は無事でしたが、実行犯の暴挙をニュースで見ながら作品が傷ついてしまうのではないかと気が気ではありませんでした。何の罪もない美術作品がプロパガンダのために利用されるのは胸が痛みます。
<左:『窓辺で手紙を読む女』1657-58年, ドレスデン・アルテマイスター絵画館, Photo: Wolfgang Kreische/ 右:『青衣の女』1662-64年, アムステルダム国立美術館>
『窓辺で手紙を読む女』と『青衣の女』には、手紙を読む女性が真横から描かれています。
『窓辺で手紙を読む女』は2021年に背景のキューピットの絵が見えるように修復されたことで話題になりました。ベッドの上の果物が不倫関係を象徴するなどの解釈もありますが、キューピットの存在が明らかになったことで女性の読んでいる手紙は想いを寄せる男性からの恋文だと見なされるようになりました。
『青衣の女』の背景にはネーデルラントの地図が掛けられていることから、女性は旅行中の夫からの手紙を読んでいると考えられています。一方で、テーブルの上の真珠が自惚れの象徴であることから、恋人からの手紙を読んでいるという解釈もあります。
ただ今回はこうした象徴の解釈をさておき、この2作品をまっさらな感性で受け止めてみたいと思います。『青衣の女』は『窓辺で手紙を読む女』が完成してから約5年の時を経て制作されており、その間にフェルメールの絵画において洗練されたもの、または失われたものを感じ取ることができればと思います。
デフルトでもフェルメールの展覧会を開催<
アムステルダム国立美術館でフェルメールの特別展が開催されるのは、意外にも開館以来初のことだそうです。しかも希少なフェルメール作品が世界中から28点も結集するのは、フェルメールファンにとって千載一遇の機会です。
フェルメールの故郷デルフトでは、アムステルダム国立美術館のフェルメール展と並行して「フェルメールのデルフト展」が開催される予定です。街の中心にあるデルフト・プリンセンホフ博物館で、フェルメールが生きた時代のデルフトの陶器やカーペット、資料とともに、同時代の画家の作品が展示されます。
2つの展覧会の開催期間中に、日本の友人がオランダを訪れる予定なので、アムステルダムやデルフトで一緒にフェルメールを堪能しようと思います。ひとつ春の楽しみが増えました。2月から6月にオランダにいらっしゃる方は、ぜひフェルメール展をお見逃しなく!
フェルメール展:アムステルダム国立美術館
- 所在地:Museumstraat 1, 1071 XX Amsterdam
- 開館時間:9:00-17:00
- 会期:2023年2月10日 - 6月4日
- 料金:大人30ユーロ, 18歳以下無料
※30ユーロには常設展の料金(20ユーロ)も含まれます - 公式サイト:https://www.rijksmuseum.nl/ja/visit
入場にはオンラインでの日時指定予約が必要です。
フェルメールのデルフト展 Het Delft van Vermeer
- 所在地:Sint Agathaplein 1, 2611 HR Delft
- 開館時間:火-日 11:00-17:00
- 休館日:月曜日
- アクセス:デルフト駅よりトラム1, 19番で2分Prinsenhof下車徒歩2分, またはデルフト駅より徒歩8分
- 会期:2023年2月10日-6月4日
- 料金:大人13.5ユーロ, 18歳以下4ユーロ, 3歳以下無料
- 公式サイト:デルフト・プリンセスホフ博物館
※施設の詳細やアクセス方法など掲載内容は2022年12月現在のものです。
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Kayo Temel
- オランダ在住。アムステルダムの美術アカデミーで絵画を学び、イラストレーターとして活動中。20年の在蘭経験を活かして、オランダを満喫するためのローカルな情報をお届けします。