神戸市御影(みかげ)をめぐる発見:その2

白鶴美術館

「神戸市御影(みかげ)をめぐる発見:その1」では、神功皇后と御影の起源、また後醍醐天皇と御影郷との関わりスポットなどを紹介しました。今回は、同区域にある登録有形文化財建築物のうち、互いの関わりが深い3件を紹介します。

目次

東洋美術の宝庫、白鶴美術館

白鶴美術館
<白鶴美術館の重厚な正門 ©Kanmuri Yuki>

「その1」で紹介した白鶴酒造の第七代嘉納治兵衛は、優れた実業家であるとともに、若いころから古美術に造詣深く、東洋の美術工芸品を多く蒐集した人物でした。「世界的価値のあるコレクションを私蔵するのではなく、ひとりでも多くの方の目に触れてほしい」という氏の願いから1934年(昭和9年)開館に至ったのが白鶴美術館です。いまでは国宝や重要文化財を含む約1,450点を所蔵しています。(白鶴美術館公式サイトより引用)

事務棟
<石段の向こうに見える事務棟 ©Kanmuri Yuki>

場所は阪急御影駅から閑静な住宅街を北東に約15分上ったところ。JR住吉駅や阪神御影駅からはバスも出ています。館名が刻まれた巨石の立つ正門から緩やかな石段を上ると見えてくる事務棟も、その後ろに中庭をはさんで建つ本館も、威風堂々という形容がふさわしい様相。同館の設計は竹中工務店の小林三造らが担当しました。

八角燈篭
<本館と中庭に立つ八角燈篭 ©Kanmuri Yuki>

中庭に立つ青銅製燈篭は、東大寺大仏殿前にある国宝の八角燈籠から直接型を取り製作したもので、同館設立当初からこの場に据えられています。見学の際は、展示品だけでなく、庭、建築、内装を含め、その場の雰囲気をぜひ味わってみてください。天井画や照明器具、釘隠に潜む同館の象徴「鶴」を探すのもお忘れなく。

白鶴美術館 渡り廊下
<事務棟と本館をつなぐ渡り廊下。鶴をあしらった照明に注目©Kanmuri Yuki>

1995年には、開館60周年を記念して、敷地南側に新館が開設されました。こちらは、白鶴酒造十代目であった嘉納秀郎氏の中東絨毯コレクションを主な所蔵品としています。

白鶴美術館

  • 開館日:年に2回春季と秋季の展示時期のみ
  • 開館時間:10:00~16:30(入館は16:00まで)
  • 展示時期の休館日:月曜日
  • 入館料:本館のみ開館時は大人600円(学割、シニア割あり)、本館・新館開館時は大人800円(学割、シニア割あり)
  • 公式サイト:白鶴美術館

同館は春季と秋季の展示期間以外は休館していますのでご注意ください。次の開館は、2022年秋季展示の期間、9月23日~12月11日となります。テーマは「揺ら美」。「水や雲、風に揺れる表現など、揺らぎのある曲線の美しさをテーマに」所蔵品を紹介する予定です。(白鶴美術館談)

白鶴と関わりの深い御影公会堂

御影公会堂
<石屋川沿いの御影公会堂 ©Kanmuri Yuki>

上述の第七代嘉納治兵衛は、地域の教育・文化活動にも貢献しました。例えば石屋川沿いに一際目を引く御影公会堂は、同氏の寄付なくしては建設されえなかったものです。約24万円とされる総工費の大半は、「社会事業のために」と「白鶴家の隠居嘉納治兵衛翁がポンと町へ投げ出した」20万円と、「愛郷の念深き治兵衛翁と令息の当主純氏が(中略)申し出た」追加寄付によるものだったと、1933年(昭和8年)6月の白鶴酒造社内報は記しています。(はくつる第77号より現代仮名遣いに変更して部分引用)

地下の資料室とレストランもおすすめ

踊り場
<御影公会堂階段踊り場 ©Kanmuri Yuki>

1933年落成の同公会堂設計は兵庫県出身の建築家、清水栄二。大理石とガラスを多用したつくりで、阪神間モダニズムの好例でもあります。空襲や阪神・淡路大震災で、それぞれ大きな被害を受けましたが、そのたびに改修され復活してきました。時代によって、演芸会場、結婚式場、避難所と、地域民の役に立ち、また愛されてきた建物です。

御影公会堂
<国道2号からみた御影公会堂 ©Kanmuri Yuki>

現在は貸しホール、貸会議室として用いられていますが、利用者がいない時は見学も可能です。地下には、レトロな雰囲気の食堂と、「御影郷土資料室」「嘉納治五郎記念コーナー」が設けられています。そう、日本の柔道家として知られる嘉納治五郎は、酒造の嘉納家と血縁関係にあるのです。

御影公会堂

  • 見学無料
  • 開館時間:9:00~21:00(御影郷土資料室と嘉納治五郎記念コーナーは17:00まで)
  • 休館日:火曜日・年末年始
  • 公式サイト:御影公会堂

タイムスリップした気分になる甲南漬資料館

甲南漬資料館
<甲南漬資料館 ©Kanmuri Yuki>

御影公会堂から南西に10分ちょっと歩いた場所にも、清水栄二設計の建築物が残っています。甲南漬二代目社長高嶋平介の依頼で1930年(昭和5年)建てられ、1970年(昭和45年)まで住居として使用されたものです。第二次世界大戦の戦災は免れたものの、阪神・淡路大震災では鉄筋部分以外が壊れ、現在残るのは洋館のみとなっています。外から想像するのと違い、中は意外にどこか懐かしい和洋折衷な内装で、タイムスリップしたような気分になります。

一階廊下
<1階廊下部分 ©Kanmuri Yuki>

現在、1階は甲南漬資料館として無料公開され、2階は地元のカルチャー教室に利用されています。資料館には、御影郷・魚崎郷の紹介、奈良漬の起こりと歴史、作り方の説明などが展示されています。甲南漬というのは一般に奈良漬と呼ばれるものと同じで、塩漬けした野菜を何度も酒粕に漬けて作るものです。

甲南漬資料館
<住居利用されていたころの面影の残る部屋 ©Kanmuri Yuki>

灘五郷という土地の利を生かし、もとは酒粕の仲介業を営んでいた高嶋家でしたが、1871年(明治3年)に初代高嶋平介が焼酎製造を開始し、やがて、みりんや奈良漬の製造にも取り組むようになります。「甲南漬」の商標を登録したのは昭和に入ってからですが、そういうわけで既に創業150年の歴史を持つ会社なのです。

甲南漬資料館

  • 開館時間:10:00~17:00
  • 休館日:12/29~1/5
  • 入館料:無料
  • 公式サイト:甲南漬資料館

食前酒に飲んでみたいみりん「柳かげ」

柳かげ
<左が資料館、正面に甲南漬本店 ©Kanmuri Yuki>

資料館の廊下の先からは、日本庭園を経由して甲南漬け本店に出ます。こちらには、甲南漬のほか、灘の地酒、神戸・兵庫の名産品が揃っていますが、個人的に何より試してほしいのは、「みりん」です。みりんは調味料として用いられることが多いですが、元来は飲みものとして作られたものでした。実際、みりんに薬草をプラスしたものが、お屠蘇や養命酒と呼ばれるものです。

甲南漬本店で販売している「白菱柳かげ」は、飲みやすくしたみりんのことです。江戸時代、みりんを焼酎と半々に混ぜた冷たい飲み物を関西で「柳蔭」と呼んだことからこの名がつけられました。飲んでみたところ、ポルトワインやスーズのような甘いリキュールを思わせる味で、個人的にぜひフランスで食前酒として振舞ってみたいと感じました。

神戸・御影をめぐる発見のいろいろ、みなさんも見つけにいきませんか?

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冠ゆき

山田流箏曲名取。1994年より海外在住。多様な文化に囲まれることで培った視点を生かして、フランスと世界のあれこれを日本に紹介中。

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