初心者のための灯台入門~灯台マニアの不動まゆうさんインタビュー~

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「海に囲まれた日本に生まれて、灯台の良さを知らないのはもったいなさ過ぎる!」

そんなメッセージを投げかけてくれたのは、灯台マニアで、フリーペーパー『灯台どうだい?』の発行人である不動まゆうさん。

日本には数多くの灯台があり、旅行に行った際に何気なく目にする機会も多いでしょう。しかしその灯台に、近づいてみたことはありますか? 実際に光を出しているところを見たことはありますか? どんなレンズが使われているか確かめてみたことはありますか?

今回は不動まゆうさんに、灯台初心者が知っておきたい灯台のあれこれについて聞いてみました。

目次

<1. 灯台って何? 不動さんが灯台を好きになったきっかけは?

<2. 初心者は「参観灯台」から攻めてみよう!

<3. 灯台に行ったら何をする?

<4. 灯台とツーショット写真を撮ろう!

<5. 周辺の観光も灯台にからめてみると・・・

<6. 日本に生まれて灯台の良さを知らないのはもったいない!

<7. さまざまなアクティビティを提供する灯台が日本に誕生するかも?

1. 灯台って何? 不動さんが灯台を好きになったきっかけは?

― まず、そもそも灯台とは何かについて教えていただけますか。

不動さん「灯台は航路標識と言われるものの一種で、船のための目標物です。陸上の道路のような道を示す白線が全くない海の上で、船が位置を確認して正しい航路を見つけるためのものです。

海上には暗礁もあり、船がぶつかってしまうと大変なことになってしまいます。そういった場所を知らせるために立っている灯台(灯標)もあります」

― 日本で、特に灯台が多い地域というのはありますか?

不動さん「日本で一番灯台が多いのは長崎県です。たくさんの島がありますからね。他にも、飛び出た岬、港がある地域には灯台が建てられます。とくに貿易港の航路上には大型で歴史的な灯台があることが多いです。海外から日本を目指す船のために、光を遠くまで届けることができる大きなレンズを持った灯台が建てられました。

例えば和歌山県の潮岬と紀伊大島のあたり。本州の最南端なだけあって、明治期に列強国が、日本を目指すために必要性を感じたのでしょう。潮岬灯台(しおのみさきとうだい)、樫野埼灯台(かしのさきとうだい)という、歴史的な灯台が2基もあります。

潮岬灯台
<潮岬灯台/出典元:写真AC

樫野埼灯台
<樫野埼灯台/出典元:写真AC

日本でこうした西洋式の灯台が建てられるようになったのは明治からです。開港した横浜、長崎、神戸、函館、新潟へ導くための灯台がまず建てられました。主に太平洋側からです。その後、日本海側にも灯台が建てられるようになり、日本全国、ぐるっと灯台に囲まれるようになりました」

― 不動さんが、そんな灯台を好きになったきっかけというのは何だったのでしょう。

不動さん「29歳のとき、色々と辛いことがあり落ち込んだことがありました。そんなとき海に行って、灯台(灯標)を見つけたんです。あんな海の真ん中で、真っ暗な中で、そんな場所でひとりポツンと立って、命を守るためにずっと光り続けている。そんな風に灯台を擬人化して感じると、その存在のすごさに救われる思いがしました。こんな光があるのなら、私も安心してこれからもがんばっていけるなと。そこから灯台は、私の生きがいのようになって、灯台について歴史を調べたり、灯台守をしていた人を紹介してもらって話を伺ったり、全国の灯台を巡ったりするようになりました」

2. 初心者は「参観灯台」から攻めてみよう!

― 灯台初心者の方におすすめできるような灯台はありますか?

不動さん「現在日本には、16基の参観灯台があります。灯台にのぼって見学できるので『のぼれる灯台』とも呼ばれています。灯台のバルコニーからは美しい海の絶景を味わえますし、資料の展示も行われているので、灯台について学ぶこともできます。参観寄付金として300円支払うのですが、他の灯台にくらべてアクセスもいいので、おすすめです」

― その16基の参観灯台の中でも、特におすすめの灯台はありますか?

不動さん「1等レンズといわれる一番大きなレンズが入っている犬吠埼灯台(いぬぼうさきとうだい/千葉県銚子市)をおすすめします。煉瓦造りの灯台です。とてもハンサムな灯台で絵になりますし、資料展示館にも貴重なレンズが展示されています。灯台のすぐ近くに食事やお土産を買うことができる施設もあるので、総合的に楽しめます。

犬吠埼灯台のレンズ
<犬吠埼灯台/画像提供:不動まゆうさん>※この写真は「レンズ磨き体験」というイベント時に撮影したもの。通常はこの場所には入れません。

それに、角島灯台(つのしまとうだい/山口県下関市)ですね。灯台は石造り、御影石の風合いがなんとも美しいです。レンズも建築当時のものがそのまま使われていて貴重です。犬吠埼と角島はどちらも国の重要文化財でもあります。

角島灯台
<角島灯台/画像提供:不動まゆうさん>

レンズの迫力で言うと、「のぼれる灯台」ではないのですが、室戸岬灯台(むろとざきとうだい/高知県室戸市)をぜひ見てほしいです。同じ1等レンズでも、単閃光レンズといって、目玉の親父みたいに形がまん丸なのが特徴です。それに灯台の光を浴びることができる立地なのが魅力的です。ご来光ならぬ灯台光もかなりパワーがありますよ」

室戸岬灯台のレンズ
<室戸岬灯台のレンズ/画像提供:不動まゆうさん>

3. 灯台に行ったら何をする?

― 灯台に行ったら、どんなところに注目してみるといいでしょうか?

不動さん「日本の灯台には、初点プレートが掲げられているという特徴があります。プレートには初めて点灯した日のことが、例えば『明治9年3月1日初点』といった具合に書いてあるんです。そうすると、『この灯台は150年近くも前に建てられたものなんだな』というのがわかります。

明治初期の灯台は、外国からきた技術者が建てていました。そういった場合、英語でも併記されています。そうすると『お雇い外国人による設計なんだなあ』とわかります。こんな風に、初点プレートを見れば歴史が感じられます。

角島灯台の初点プレート
<角島灯台の初点プレート/画像提供:不動まゆうさん>

あとは素材に注目するのも面白いですよ。明治最晩年から大正になると、鉄筋コンクリート作りになっていきますが、明治時代は木、煉瓦、石、鉄、無筋コンクリートで築造されていました。灯台は建てられる場所の条件に合わせて建築材料が選定されるので、なぜこの素材で建てたのだろうと考えていくと、面白い発見があったりします。

例えば、静岡県の掛塚灯台(かけづかとうだい)は、もともと砂浜に建てられていた灯台だったので、下半分は無筋コンクリート(鉄筋の入っていないコンクリート)造りで、上半分は鉄造というハーフアンドハーフの変わった造りです。なぜ2種類の素材をつかって建てたかというと、下の部分はさびないように無筋コンクリート、でも全部無筋コンクリート造りにすると重くて、地盤の弱い砂地に建てるには不安だから、上は鉄で軽くしたということのようなんです。設計した方の想いを汲みとれたように感じて、ますます灯台への愛が深まっていきます。

灯台って、景色を見るだけでも十分楽しいですけど、こんな風に能動的に調べたり勉強したりしたほうが私にとっては楽しくて、醍醐味が味わえるんですよね。知的好奇心をくすぐってくれる存在です」

4. 灯台とツーショット写真を撮ろう!

― 灯台に行ったら、灯台を背景に写真を撮りたくなると思うのですが、どんな風に撮るのがおすすめですか?

不動さん「灯台の前でジャンプしたり、灯台とキスやハグしているみたいなアングルで撮ったり、色々なパターンを試しています。

夜、点灯している時間も撮影しますが、なかなか難しいです。プロのカメラマンさんには灯台が好きな方もいらっしゃるので、灯台の撮り方のアドバイスをいただくこともあります」

不動さんと灯台のツーショット
<不動さんと灯台のツーショット/画像提供:不動まゆうさん>

5. 周辺の観光も灯台にからめてみると・・・

― 不動さんは灯台を見に行った際、灯台以外の観光も楽しまれていますか?

不動さん「その土地のお魚とか、大好きなお酒とかも楽しみますよ。灯台と一緒に、地元の文化も一緒に知りたいと思うので、郷土館や歴史的文化財にも時間があったら行くようにしています。その土地の名産品をみると、昔灯台守もこういうのを食べていたのかなと想像したりします。

これは聞いた話なんですが、静岡県の御前崎は干し芋発祥の地と言われているそうです。私も御前埼灯台(おまえさきとうだい)に行ったときに干し芋をいただいたんですけど、干し芋と灯台、全く別のものですが、実は関係性があって面白いんです。

どういうことかというと、御前崎は海の難所で、難破する船がすごく多かった。昔、薩摩からの御用船で、中にサツマイモを乗せた船も、江戸に向かっているときにやっぱり難破してしまったそうです。

御前崎灯台
<御前崎灯台/画像提供:不動まゆうさん

その船の人たちを、現在御前崎である地域の人が助けてあげたらしいんです。そのお礼にと栽培方法を教えてもらったことから、その地域でサツマイモ栽培が始まりました。その後、栗林庄蔵という人が1824年に干し芋の作り方を思い付いて・・・という歴史があります。

一方、こんな難破船が出ないようにと御前埼灯台は1874年に完成し、海の安全を守るようになりました。

海と、土地と、そこに灯台が建てられた理由などが、こうやってリンクしていくのです」

6. 日本に生まれて灯台の良さを知らないのはもったいない!

― 未来の灯台ファンに向けて、何かメッセージはありますか?

不動さん「海に囲まれた日本に生まれて、灯台の良さを知らないのはもったいなさ過ぎます。日本が近代化したのも、灯台があればこそ。物を言わず、光を放つ灯台ですが、長い歴史を背負った存在です。言葉や写真で説明するだけでは理解できない部分もあると思うので、ぜひ実際の灯台を見に行ってほしいです。

ただ、中には行くのが大変な場所もあります。無人島に建つ灯台には、定期船がないので船をチャーターしなくてはならないことも。

また、車で近くまでいける場所ばかりではなく、山や崖を乗り越えることもあります。点灯を眺めていてすっかり暗くなって帰り道が怖かったこともあります。灯台にいくときは、懐中電灯持参でトレッキングや山登りに行く程度の装備で行ってほしいですね。つまり歩きやすく滑りにくい靴で、長袖長ズボンで肌を出さない方がいいです。私、昔ブヨに20ヶ所刺されて大変なことになったので・・・。携帯も充電して、遭難したときにもすぐ助けが呼べるようにしましょう。夏は熱中症が危ないし、それに熊やイノシシにまで気を付けないといけません。一人ではなく助け合えるように数人で、安全対策をして灯台を訪れてほしいです」

― 不動さんも、まだ見たことのない灯台があったりするのでしょうか?

不動さん「そりゃありますよ。世界中にあるんですから! 一生かけても見切れないと思いますが、世界中の灯台を旅するのが夢です」

― それでも、ここだけは見てみたい灯台というのはありますか?

不動さん「灯台を見にアイスランドに行こうと計画していたんですけど、コロナで延期になっています。オーロラと灯台を一緒に見たいなと。

世界で最初の灯台として知られる、エジプトにあるアレクサンドリアの大灯台の跡地や、現存最古の灯台とも言われている、スペインにあるヘラクレスの塔にも行きたいです。

まだ世界には会いに行っていない灯台がたくさんあるので、海外旅行がもっとできるようになったら、ぜひ行きたいですね」

ヘラクレスの塔
<ヘラクレスの塔/出典元:写真AC

7. さまざまなアクティビティを提供する灯台が日本に誕生するかも?

― 見に行く以外でも、灯台との関わりで何か展望のようなものはありますか。

不動さん「海外に行くと、灯台守が住んでいた官舎が、ホテルになっていたりレストランになっていたり、結婚式で使えるようなイベントスペースになっていたりと、地元の人たちによってすごく活用されています。

そんな中、日本でも「航路標識協力団体制度」が創設されました。民間団体でも要件を満たしていれば海上保安庁からの指定を受け、灯台の維持管理等の活動を自発的に行うことができるようになったんです。その活動の中には、灯台の普及および啓発を目的に、灯台でのイベントやワークショップの企画、運営も含まれます。そのため今後、灯台の魅力を味わえる企画が各地で出てくると思いますよ!」

― それは非常に楽しみですね。

不動さん「私もそうした活動の一助となれるようがんばります! この数年でみなさんの灯台への認識がガラリと変わるかもしれません」

― そのようになりましたら、「たびこふれ」でもまた紹介させてください。お忙しい中、ありがとうございました。

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