ウィーン旧市街、東側の教会探索~ハプスブルク家ゆかりの教会たち~

アウグスティーナ教会

これまで3回にわたってウィーン旧市街の20以上もある教会をエリアに分けてご紹介してきましたが、今回が最終回です。最後は、ハプスブルク家の王宮「ホーフブルク」の近くにある教会をご紹介します。

    今回のエリアは、王宮に近いだけあってハプスブルク家ゆかりの教会も多く、まさに「歴史を作り、見守ってきた」教会たちです。

    目次

    アウグスティーナ教会

    王宮の建物群に組み込まれているアウグスティーナ教会は、ハプスブルク家御用達の教会です。

    アウグスティーナ教会
    <アウグスティーナ教会外観>

    ここで執り行われた有名な結婚式は、「女帝」マリア・テレジアと神聖ローマ皇帝フランツ1世の他、マリー・アントワネットとルイ16世(代理)、マリー・ルイーズとナポレオン(代理)、皇帝フランツ・ヨーゼフと美貌の皇妃エリザベート、皇太子ルドルフとベルギー王女ステファニーなど。まさに数々の歴史の舞台となってきた教会です。

    アウグスティーナ教会
    <アウグスティーナ教会内部>

    アウグスティーナ教会は、初代ハプスブルク家ルドルフ一世の孫のフリードリヒ美王が1327年に作った教会で、一度バロック様式になった後ゴシック化し、内装も時代によって変化しています。皇族御用達の教会として想像するような派手さもあまりなく、白を基調にした落ち着いた荘厳な雰囲気です。

    またこの教会の右奥には「心臓納骨堂」があり、ここにはハプスブルク家代々の心臓が容器に収められて安置されています。ハプスブルク家は、遺体保存の観点から内臓と心臓と体を別々に埋葬していました。棺に入った遺体は後述のカプツィーナ納骨堂に、心臓はこのアウグスティーナ教会に、そして内臓はシュテファン大聖堂の地下にそれぞれ眠っています。

    分割埋葬を拒否したヨーゼフ二世や遺体保存の技術が発達して分割埋葬が不要になった時代の皇帝フランツ・ヨーゼフなどもいる一方、分割埋葬が必要なくなってもあえて分割埋葬を選択する後世のハプスブルク家の人物もいて、本人の意思が尊重された埋葬方法がとられているのが特徴です。

    >>アウグスティーナ教会HPはこちら

    ブルクカペレ(王宮礼拝堂)

    ホーフブルク内にありハプスブルク家の普段の礼拝に使われていたのが、「王宮礼拝堂」です。入り口は見逃してしまいそうに小さいのですが、13世紀に作られロマネスク様式、ゴシック様式、後期バロック様式、新古典様式と様々な様式を経て現在の形になりました。

    ブルクカペレ
    <奥の階段を上がって、十字架のあるアーチをくぐったところがブルクカペレの入り口>

    それほど大きいとは言えない礼拝堂ですが、ここで皇族のために代々ミサを演奏してきたのは、ウィーンフィルとウィーン少年合唱団。現在でも日曜日午前中のミサでは、モーツァルトやシューベルトのミサ曲で世界的にも有名な「天使の歌声」を堪能することができます。

    ブルクカペレ
    <ブルクカペレ内部の様子>

    >>王宮礼拝堂HPはこちら

    カプツィーナ教会

    清貧を教義としたカプツィン修道会付属のカプツィーナ教会は、周りに貴族の豪華な屋敷が立ち並ぶ中、対比して非常にシンプルなつくりになっています。1617年に当時の皇帝マティアスと皇后アンナがこの修道会を招聘して作られました。

    カプツィーナ礼拝堂
    <カプツィーナ礼拝堂外観。向かって右が納骨堂の入り口>

    ここの地下にある納骨堂にハプスブルク家代々の棺が置かれていることが有名で、多くの観光客が訪れます。12人の皇帝、19人の皇后を含む138人の棺と、4つの心臓が安置されています。有名なのはマリア・テレジアとその夫フランツ一世の豪華絢爛な棺と、この2人の息子でありながら非常にシンプルなヨーゼフ二世の棺や美貌の皇妃エリザベートと皇帝フランツ・ヨーゼフ、その息子で心中事件で亡くなった皇太子ルドルフの棺などでしょう。

    教会内部も落ち着いた雰囲気ですが、左手の祭壇は「皇帝の礼拝堂」と呼ばれハプスブルク家の寄進によって華やかな装飾が施されています。最近では、2011年に皇帝フランツ・ヨーゼフの孫にあたるオットー・ハプスブルクの葬式がここで行われ、地下の納骨堂に埋葬されました。

    カプツィーナ教会
    <正面がカプツィーナ教会主祭壇。左に「皇帝の祭壇」がある>

    >>カプツィーナ教会のHPはこちら

    ミヒャエル教会

    ウィーン王宮のミヒャエル広場に面した、尖塔が美しい教会です。

    ミヒャエル教会
    <ミヒャエル教会ファサードと、観光馬車フィアカー>

    この教会は王宮のすぐそばですが、ハプスブルク家ではなく貴族や富豪と深い関係にありました。建造は、バーベンベルク家のレオポルト6世の時代(13世紀)。ロマネスク様式で建てられましたが、16世紀にバロック、18世紀に新古典様式に改装されています。

    ミヒャエル教会
    <ミヒャエル教会主祭壇は、バロック様式>

    シュテファン大聖堂の墓地に次いで重要な墓地があったこともあり、16世紀に墓地が閉鎖されてから18世紀まで、地下の納骨堂に貴族や富豪が4,000人も埋葬されてました。

    また、モーツァルトの死後、追悼ミサが行われたのもこの教会です。モーツァルトのオペラ「魔笛」の劇団長でパパゲーノ役を演じたエマヌエル・シカネーダーが主催した追悼ミサでは、モーツァルトの死後5日目に、まだ未完成だったレクイエムが初めて演奏されました。

    また、ここにはウィーン最大のパイプオルガンがあり、この隣の建物に住んでいた、17歳のハイドンが演奏したとも言われています。

    >>ミヒャエル教会HPはこちら

    ミノリッテン教会

    尖塔ではなく、ずんぐりした塔が目印のこの教会。ホーフブルクからは少し離れますが、大きく迫力のある教会です。

    ミノリッテン教会
    <ミノリッテン教会外観>

    13世紀、バーベンベルク家のレオポルト6世がミノリッテン修道会(コンベンツアル修道会)をオーストリアに招聘(しょうへい)して修道院を作りました。東オーストリア最初のゴシック教会でしたが、14世紀ごろ増築しオーストリアでは珍しいフランスの大聖堂風教会です。

    塔は元々は尖塔でしたが、第一次と第二次ウィーン包囲でトルコ軍に破壊されたため、現在の形になっています。1782年、ヨーゼフ二世による宗教政策で修道会が別の教会に移転し、それ以来この教会はイタリア人コミュニティが利用しています。

    ミノリッテン教会
    <ミノリッテン教会主祭壇>

    内部に入ってみると、巨大な「最後の晩餐」のモザイク画が目に入ります。これは、元々ナポレオンが作らせたものでしたが、その義父に当たるオーストリア皇帝フランツ一世が購入しこの教会に置かれることになりました。

    最後の晩餐
    <「最後の晩餐」のモザイク画>

    >>ミノリッテン教会HPはこちら

    ルター派シュタット教会と改革派シュタット教会

    ウィーン旧市街には数少ないプロテスタントの教会が、オークションハウス「ドロテウム」の向かいに2つ並んで建っています。白い堂々としたファサードがルター派教会(左)で黄色い尖塔が改革派教会です。

    ルター派シュタット教会と改革派シュタット教会
    <ルター派シュタット教会と改革派シュタット教会>

    啓蒙君主として名高いヨーゼフ二世が1782年に出した寛容令で、初めてウィーンではプロテスタント信仰が許可されました。それまでカトリックの修道院だった土地を、この2つの宗派が買い取った形になりますが、当初は外から見て教会とわからないような作りになっていました。1891年になって初めて教会に尖塔を付けることが許されたため、ファサードが作り替えられ塔が建てられました。

    ルター派教会の方では、画家のエゴン・シーレが結婚式を挙げたほか、作曲家のブラームスのお葬式もここで執り行われました。あまり知られていない教会ですが、意外にプロテスタントの著名人とは関わりが深いことに驚きます。

    >>シュタット教会HPはこちら

    まとめ

    今回は、ウィーン旧市街の中でも王宮周辺にある7つの教会をご紹介しました。ほかの地区に比べてハプスブルク家所縁の教会が多く、ドナウ川の水運関連の教会が多かった北側や修道会や騎士団教会が多い南や東側の教会とはまた違った雰囲気を味わっていただけましたでしょうか。

    これで、4回にわたってお届けした「ウィーン旧市街教会探索」は最終回となります。目立たない教会にもエピソードや物語があり、ウィーン旧市街に20以上もひしめく教会たちが、それぞれの役割を持って棲み分けられていたことがよくわかります。ふと目に留まった名も知れない教会を訪ねると、また新しい発見があるかもしれませんね。

    ウィーン旧市街教会巡りシリーズ

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    ひょろ

    オーストリア、ウィーン在住。10年以上暮らしてもまだ新しい発見の連続のウィーンの魅力を、記事執筆、現地調査、ネットショップなどを通じてお届けしています。国際機関勤務を経て、バイリンガル育児の傍ら、ミュージカル観劇が趣味。

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