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第1フェーズ終了!レンブラントの『夜警』修復プロジェクト
アムステルダム国立美術館で行われている『夜警』修復プロジェクトの第1フェーズが完了しました。完成前に塗りつぶされたモチーフや、レンブラントによる先駆的な顔料の使い方など最先端技術を駆使したスキャンで明らかになった調査結果をご紹介します。
目次
史上最大の「夜警作戦」
レンブラント・ファン・レイン (1606-1669) の最高傑作といわれる『夜警』の修復プロジェクトは、2018年10月15日に発表されました。第1フェーズでは科学的な分析調査が実施され、第2フェーズで調査結果に基いた修復が行われます。「夜警作戦 (Operatie Nachtwacht)」と銘打たれた史上最大の修復プロジェクトには、300万ユーロ(約3億8千万円)が投じられています。
2019年7月8日にスタートした第1フェーズの調査には、最先端のスキャニング装置が導入されました。全てのスキャンは2020年末までに無事完了し、分析結果は逐次、アムステルダム国立美術館によって公表されています。
44.8ギガピクセルの超高解像度画像を公開
「夜警作戦」の第1フェーズでは、8,400枚を超える『夜警』の超高解像度写真が撮影されました。縦3.8メートル、横4.54メートルの巨大な『夜警』を528のセクションに分けて撮影し、ニューラルネットワーク(超解像度画像処理技術)で合成した超高解像度画像が、2020年5月12日よりアムステルダム国立美術館のHPで公開されています。
44.8ギガピクセルの超高解像度画像についてアムステルダム国立美術館館長のタコ・ディビッツ氏は、「夜警作戦のリサーチチームは、最先端の技術を駆使して可能性の限界を押し上げている」とし、「研究者や修復師が資料として役立てるだけではなく、美術愛好家がレンブラントの傑作をオンラインで詳細に鑑賞できる」と述べています。
<画面中央に立つコック隊長の襟のレース>
『夜警』の超高解像度画像では、衣服の装飾や縫い目、人物のほのかな頬の赤らみ、まつ毛まで見えるほどズームできます。レンブラントの筆さばきや、かすかに混じる顔料、絵具の表面の細かいひび割れなど、実際に絵画の前に立って見るよりも詳細まで鑑賞できます。
完成前に塗りつぶされたモチーフ
第1フェーズではさらに、顔料の化学元素を特定したり、絵画の下層に残された修正の跡を明らかにするために、蛍光X線分析装置 (Macro-XRF) やX線粉体回折装置 (Macro-XRPD)、イメージング分光法 (RIS) といった最先端技術を用いたスキャンも行われました。『夜警』を56のセクションに分けて実施された蛍光X線分析装置によるスキャンでは、1970年代のX線調査では見つからなかった修正の跡が発見されました
市民隊の一人、ちょうどコック隊長の左上に位置する隊員がかぶっているヘルメットの上に、もともとは黄色の羽飾りが描かれていたのです。他の隊員たちのヘルメットや帽子には羽飾りが描かれているものもありますが、レンブラントは全体のバランスを考えて、この隊員の羽飾りを消したのでしょうか。完成作品では黒く塗りつぶされ、羽飾りの跡を確かめることはできません。
<左:ヘルメットの羽飾りが消された隊員/ 右:ファン・ライテンブルフ副隊長>
顔料の分析では、レンブラントが有毒なヒ素を含む顔料を使っていたことが判明しました。当時のオランダでヒ素を含む顔料は、花や果物など静物画にのみ用いられていました。ところがレンブラントは『夜警』という集団肖像画の中で、ファン・ライテンブルフ副隊長のガウンの描写に、ヒ素を含む顔料を使用していたのです。ヒ素を含む顔料の特定は、レンブラントの先駆的な顔料の使用法を証拠づける貴重な発見となりました。
こちらのページでは写真とともに調査結果の詳細が紹介されています。
白いもやの正体は?
成分分析の調査では、約200マイクロメートルの絵具が微量サンプルとして採取されました。この調査の主眼は、『夜警』の右下に描かれた犬の周辺をはじめ画面のあちらこちらにある、もやがかかったような部分の状態を調べることです。白ばんだ画面は絵具の化学反応によるものなのか、それとも後世に加えられた層なのか、そうれあればオリジナルの絵具にどれほど浸透しているのかなど、今後の処置を決定するための綿密な調査が行われます。
1975年9月14日に起きた『夜警』の切り裂き事件を、白いもやの原因とする節もあります。精神科に通院歴のある男がカンヴァスを12箇所も切り裂き、『夜警』はその後4年をかけて修復されたのですが、そのダメージが白いもやになってしまったと考えられているのです。今回の「夜警作戦」で白いもやの正体が判明し、可能な限りオリジナルの『夜警』が蘇るよう調査結果が待たれるところです。
「夜警作戦」の経過はHPで随時更新中
「夜警作戦」」は第2フェーズを迎え、現在は劣化した保護用のニスを除去し新しいニスをかける作業が行われています。
コロナ禍のソーシャルディスタンス規制で作業部屋で同時に作業をできるのは、互いに1.5mの距離を確保した2人の修復師のみとされています。このため約1年とされていた「夜警作戦」の期限は大幅に延期されてしまいましたが、おそらく数年内には英知と技術を結集した世紀の修復が完成するはずです。
私もオランダに来て20年以上親しんできた『夜警』の晴れやかな姿に再会するのが楽しみでなりません。
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Kayo Temel
- オランダ在住。アムステルダムの美術アカデミーで絵画を学び、イラストレーターとして活動中。20年の在蘭経験を活かして、オランダを満喫するためのローカルな情報をお届けします。