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コロナ禍、夏のチリから国民的デザート mote con huesillo (モテ・コン・ウエシージョ)を紹介します
南半球は夏真っ盛り。夏になるとどこの街でもメイン広場に登場するのが、チリの国民的デザート・mote con huesillo(モテ・コン・ウエシージョ)の屋台です。 冷たくて甘酸っぱい桃のジュースの中にモテという小麦を茹でたものが入っているかなり素朴なデザート。今回は、このデザートを紹介したいと思います。
目次
チリのガストロノミー
「チリ料理」と聞いて、何かイメージができる日本人はめったにいないと思います。中南米で日本人にとって有名な料理と言えば、やはりメキシコ、次にペルー料理でしょうか...。
残念ながらチリはガストロノミーが発達している国とは言えません。メキシコのマヤ帝国や、ペルーのインカ帝国など大きい帝国が歴史上なかったため、グルメが発達しなかった、と私は思っているのですが、チリ料理は一言でいえば「素朴」。野菜と肉のスープ「カスエラ」や、豆の煮込みになぜかパスタが入っている「ポロトコンリエンダ」などがあります。
お祝い事の時は大抵「アサード」(肉のバーベキュー、炭火焼)で、素材の味を生かしたシンプルな料理が多いです。
海の幸も食べられます。ムール貝やチリアナゴのスープ、カニのグラタン、魚介のチーズ焼きなどが海沿いのレストランには並びますが、食べることが大好きな日本人は「この料理、美味しいけど、超美味しい!って程じゃない」と思うのではないかと思います。「せっかく美味しい食材があるのに、もっと工夫できないのだろうか」。これが私のチリ料理の印象で、10年住んでも変わることはありません。
というのもチリ料理のスピリッツは田舎にあって、それは「とれたての味」。だから工夫しなくても美味しく、工夫する習慣が生まれなかったのかな?と思います。もう一つ、日本と違うのはせっかくきのこや海藻がたくさんあるのに食べる習慣があまりないこと。だから、どのキノコが安全に食べられるという知識もあまり一般的ではないし、海沿いにいっても海藻を使ったメニューはほとんど見たことがないです。
どうしてなんだろう?お世話になった日本人の先生の仮説は、
「人口が少なくて食べるものに困らなかったから、わざわざ採集が面倒なきのこや海藻まで集めて食べる習慣がなかった」です。
私もこの仮説は正しいと思っています。
mote con huesillo (モテ・コン・ウエシージョ) とは
前置きが長くなりましたが、チリのデザートを代表するのがmote con huesillo ( モテ コン ウエシージョ) 。huesilloは、桜桃を干したもので、moteは小麦を粉にしないで脱穀して茹でたものです。
<huesillo:干した桜桃>
日本の皆さんに分かりやすく説明するとしたら、「もものシロップ煮に雑穀が入っている感じ」で、初めて食べた時「美味しいけど、これはなんだ?」と思いました。でも、他の甘すぎてカロリーの高い他のデザートに比べてすごくあっさりしていて「これならヘルシーで罪悪感がない!」。
このデザートが出回るのは9月18日の独立記念日のお祭りがスタートです。首都では春の暖かい日が増えて(※チリの9月は春です)、時には冷たいものが美味しく感じる季節から夏の終わりまでがこのデザートの旬ですが、私が住む南部では9月18日と短い夏の間だけ登場します。
近所のおばちゃんを訪ね、作り方を教えてもらう
近所に住んでいるルぺおばちゃんは、夏の間mote con huesilloを売っているので訪ねてきました。
<訪ねている間にもお客さんが!>
ルぺおばちゃんにmote con huesilloの思い出を聞くと、「今でこそ、huesilloが1人前に1つずつ入っているけど、昔は高級品で全員には当たらなかったのよ」とのこと。というのも、私たちが住む街からhuesilloの産地までは800km以上。交通が発達していなかった当時は輸送にお金がかかったのです。なので、南部にはhuesilloのかわりに現地で獲れるさくらんぼが入ったバージョンがあります。
さて、気になる作り方はこちら。
mote con huesilloの作り方
1. huesilloはきれいに洗って、数時間水に浸しておく(1つのhuesilloにつき1リットルの水)
2. 1を火にかけ、シナモンと砂糖を足して煮る
3. huesilloがやわらかくなったら黒砂糖を入れて味を調える(甘さは好みで。ルぺおばさんは1リットルにつき30g程度の砂糖を入れるそうです)
4. huesilloとはべつにmoteを茹でる(昔は小麦を灰で洗って脱穀していたそうです。今も田舎では伝統的な作り方で作っているという話を聞きました)
5. moteとhuesilloを別々に冷やし、食べるときに一緒に盛る。
作り方も非常にシンプル。日本で作る場合は、huesilloの代わりに干しあんずや桜桃の缶詰、moteの代わりにつぶつぶ系の雑穀、ハト麦やキヌアで代用できると思います。チリではフェリア(市場)でmoteとhuesilloが並んで売られていました。
コロナ禍の夏
基本的に寒くて雨が多いチリ南部ですが、夏は涼しく天気も良いので、火山、湖、トレッキング、温泉など豊かな自然を目当てに首都サンティアゴや北部からたくさんの観光客が押し寄せます。ところが、今年はコロナ禍...。チリ全土で少し感染が落ち着いていたのに、人が集うクリスマスとお正月を終えて、再度感染が爆発してしまいました。私の街でも昨日からロックダウン(段階1)に逆戻り。mote con huesilloの屋台の人たちも商売が成り立たなくて大変です。
観光産業に依存する南部は大打撃。既に外国人観光客は見込めませんから国内需要だけが頼りだったのに...。
チリではコロナの感染状況によって市町村が5段階に区分され、段階3以上の市町村に住む人しか県を超えた移動は認められていません。しかし首都圏は概ね段階2。
そこで政府の出した政策が「段階2以上の市町村に住む人は、夏の間1回に限ってバケーションのための県を超えた移動を認める」というものです。この申請は全てオンラインで行われ、許可されます。あちこちに警察や軍隊・厚生省による検問が設けられるので、申請をしていなくて運悪く検問にひっかかった場合多額の罰金刑が課せられます。
この政策のおかげで、私が住む県にも既に2万人分の申請が行われたということで、観光業に携わる人たちも少し息を吹き返したでしょう。ただし段階1でロックダウン中の市町村には観光客が入れませんから、感染状況が少し落ち着いて段階が上がることをひたすら祈るしかありません。
私もしばらくは外出できないのでルぺおばさんに習ったmote con huesilloを作って家で楽しみたいと思います。
<美しい南部の夏>
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IZUKAWAUSO
- 日本青年海外協力隊員。チリ南部の田舎暮らしも8年半になります。趣味は旅行(特に屋台めぐりと温泉)と料理。地元の週末フリーマーケットでおにぎりと味噌汁売ってます。