【京都府美山町】厨房「ゆるり」の梅棹さんが、ジビエ料理を始めた理由

京都府南丹市美山町(なんたんし みやまちょう)に、ジビエ料理を供する茅葺きの家レストラン「ゆるり」があります。

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これが厨房ゆるりです。この町でも、3つの指に入るほど大きな茅葺き屋根の建物で、今から約150年前に建てられたものだそうです。

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厨房ゆるりの周りの風景は、ジビエのイメージそのままに、山あいの農村の趣きが満ち溢れています。

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麻の素朴な風合いの大きなのれんが、客人を迎えます。

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ここ「ゆるり」の若きご主人、梅棹さんご夫妻です。

2020年11月、京都府中部の山深い美山町で、ジビエ料理を提供している「ゆるり」さんでジビエ料理を食べてきました。

ジビエ料理と聞いて私が持っていたイメージが、根底からひっくり返った、その実態と梅棹さんが目指す姿を伺ってきましたので、お伝えしたいと思います。

目次

なぜ、梅棹さんは、ジビエ料理のお店を始めようと思ったのか?

もともと梅棹家はこの町に住んでいたわけではありませんでした。今から38年前、梅棹さんのお父さんが、陶芸をやるために家族でこの美山町に移住されました。そして20年前、梅棹さんのお母さんがレストランを始め、8年前に息子さんが代替わりしました。

美山町は、獣害(猪、鹿など)に悩まされていました。近年、野生動物が里に下りてきて、日本中に獣害が広がっています。獣害は農家にとっても死活問題です。せっかく丹精込めて作った農作物が、獣害を受けると売り物にならなくなり、収入が減ります。そして獣害を受けると、耕作意欲の減退を引き起こします。不作農が増え、農家が減少していく、更に獣害が増える、という悪いスパイラルにはまってしまいます。さらに地域が限界集落化する危険性もあります。「地域を守るため、みんなが事業を続けていくためにも、獣害をくい止めなければならない」梅棹さんは仲間とともに有限責任事業組合「一網打尽」を設立されました。ゆるりの隣には、「一網打尽」の解体場があります。

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私たちが到着した時、ちょうど、猪が届いていました(閲覧注意!)

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猪を山の水に漬けて冷ましている最中でした。そうしないと猪の体温で肉が劣化してしまうのだそうです。

ジビエ料理を出すといっても、話はそう簡単ではありません。

猟銃を持っていれば誰でも野生動物を撃ち殺していいということはないのです。そもそも野生動物は、原則捕獲禁止なのだそうです。生態系の保護のためです。捕獲が許可されているのは、狩猟免許試験に合格し、免許を受け、毎年狩猟者登録をした者に限られます。つまり生態系や野生動物のことを理解した人であることが必要なのです。自治体の鳥獣被害対策として次の3つが挙げられています。

  • 個体数管理:多くなり過ぎたら捕獲し、減ってきたら捕獲量を減らす(または止める)ことより個体数を調整する
  • 被害防除:耕作地へ防護柵の設置など
  • 生息環境管理:農地、周辺の管理。野生動物が寄り付かないよう、餌になりそうなもの(農作物くずなど)を放置しないなど

その他、政策として取り組まれていることが次のことです。

  • 被害、生息状況の調査:実際、野生動物がどのくらいいるかを正確に測定するのは困難
  • 狩猟者の確保:狩猟を専門職としている人は少なく趣味の範疇であるため、狩猟者は年々減少している
  • 捕獲野生動物の処理、利活用

この中の「捕獲野生動物の利活用」のひとつが「ジビエ料理の提供」なのです。

現実には、ジビエ料理として提供されているのは、捕獲全体の1~10%に過ぎません。野生動物は何を食べているかわからないし、どんな菌を持っているかわかりませんから、捕獲後の処理も安易には行えません。狩猟者が野生動物の腹を撃ってしまうと、弾が破裂して、血が身体全体に回り、食用には適さなくなったりするのだそうです。捕獲しても簡単に食べられるというわけにはいかないのです。

梅棹さんのところで解体する猪、鹿は1年間に約300~350頭だそうです。

「ジビエ料理は臭い」って本当?

よく「獣肉は臭い」といわれたりします。これについて、梅棹さんは言います。

「子供のころ、近所のおじさんが獲ってきた獣肉を食べて「臭くて美味しくなかった」という思い出を持っている人はけっこういると思うんです。ただ、私が3年以上解体してきた実感では、獣肉が美味しくなかった理由は、ひとつには肉が古くなっていること、もうひとつは捌き方がよくなかったということではないかと思います。誤った膀胱の処理をしてしまうと臭みが全体に回ってしまうんです。今は、流通も冷蔵技術も進化しているので、真空パックすれば、1年位は鮮度が保てますよ」

鹿肉の特徴は?

「脂が少なくさっぱりしています。クセはありませんが、火の通し方が難しいです。火を通し過ぎてしまうと鹿肉は美味しくありません。鹿肉を食べるのに良い時期は、夏です。冬には雪で鹿が草を食べられないので痩せていくからです」(梅棹さん)

猪肉の特徴は?

「猪肉は、豚肉の調理法とほぼ同じで大丈夫です。豚より脂は少なめです。しゃぶしゃぶでも美味しく食べられますよ」「『猪を獲るなら正月に獲れ』と猟師の間で言われています。その頃は雄の猪はさかりがついて、けんかをよくするため、筋力が蓄えられているからだそうです」(梅棹さん)

「美山町にいる猪は、となり町の猪肉とは違います。捌いた時、すぐわかります。隣町は杉林が多いですが、美山は雑木林で餌が豊富です。また、山の傾斜がきついので良く走っているのでしょう。筋肉が違います」(梅棹さん)

さあ、それではお待たせしました。実食したジビエ料理をどどーんとご紹介しましょう。

実際に食べたジビエ料理の内容

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こちらが、今回いただいたジビエ料理です。(ランチ3,300円)

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こちらがお品書きです。

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まずひとつめは「一網打尽の鹿のお肉」。

ローストビーフのようです。赤身で脂が少なく、とてもさっぱりしています。低温でじっくり火を通しているのでジューシーさが損なわれていません。柔らかく、かつ歯ごたえもあります。オードブルにぴったりです。

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続いて「猪ロースのサラダ仕立て」。

カブがシャキシャキです。下に焼いた猪肉がありますが、脂っこくないのでサラダドレッシングにも合います。

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3品めは「猪つくね」。

これは驚きました。粗挽き肉で食感がごろごろしていてワイルドですが、臭みはなく、肉感が素晴らしいです。

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中身はこうなっています。「肉を食べている」というしっかりした食べ応えがありました。赤ワインとも合うでしょう。

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4品め「美山卵の茶碗むし。秋の茸とともに」。

この茶碗蒸しは濃厚でした。コクがある。これひとつでメインになるくらいの存在感がありました。

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5品めは「囲炉裏で焼いたぽろたんと厚揚げ」。

「ぽろたん」とは栗のことです。厚揚げともども炭火の香ばしさが際立って、山里の料理という感じでした。ちなみに店名の「ゆるり」とはこの土地の方言で「いろり」という意味だそうです。

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6品めは、「ふろふき大根の自家製みそ和え」。

見た通り、おそらく想像した期待通りの味です。

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7品めは「匠京地どりお出汁のぼたん鍋」。

地鶏の出汁の中に猪肉と野菜を入れて食べます。

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ぼたん鍋というと臭みを消すためにも味噌味が常識なのかな、と思っていましたが、なんと今回は塩味。鶏と猪の出汁が濃厚に出て臭みもまったく感じない、上質のお鍋でした。

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お品書きでは「美山米の白ごはん」でしたが、梅棹さんのふとした気持ちで、きのこ入りごはんにしたそうです。塩味抑えめですが、きのこの味がじんわりしみ込んだ美味しいお米でした。

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こちらが「香の物」です。

生姜が効いていて、滋味豊かなごはんのお供で、これだけでもごはん3杯食べられそうでした(笑)。

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デザートは「美山牛乳のアイスクリームと湯葉やさんのおからを使ったブラウニーケーキ」。

アイスクリームはコクがあり、ミルキーでなめらかな舌触りのアイスクリーム。適切な表現が浮かばないのが私の悲しいところ(笑)ですが、この翌日、今回同行した方が「昨日のお昼に食べた「ゆるり」のアイスクリーム、美味しかったわねえ~」と言っていたのが印象に残っています。翌日の夜に思い出すほど美味しかったアイス、といえば伝わるでしょうか。。。ブラウニーケーキもおからが入っていると言われなければ気がつかないほど、正に洋風のブラウニーケーキでした。

ジビエ料理を通じて梅棹さんが実現したいこと

「レストランに行くと、牛肉、豚肉、鶏肉の中からチョイスできたりするじゃないですか。僕はその選択肢に猪肉や鹿肉が普通に入っている、そんな世の中になったらいいな、自分もその一助になれたらいいな、と思っています」(梅棹さん)

古民家民宿も始めました

ゆるりは、食事の提供だけだったのが、最近、古民家民宿も始められました。泊まれるのは一組だけなので、実質一棟貸しです。贅沢な時間を過ごすことができそうです。建物も、周りの風景も、日本昔話そのものの世界で、ここで夜や朝を迎えることができたら一生の思い出ができますね。ちなみに冬はやはり寒いそうですが、夏はついこの前までエアコン無しでもふとん被らないと寝られないほど涼しかったそうです。

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時代劇のワンシーンに出てきそうな雰囲気が漂っていました。

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まとめ

「日本中で猪や鹿の獣害が起きているのなら、ばんばん捕らえて、食用にすればいいのに・・・」そんな素人考えしか持っていなかった自分が恥ずかしくなりました。また猪や鹿は他の肉に比べて下等であるかのような考え方も間違っていました。人間は獣害といいますが、彼ら(猪、鹿)には人間のじゃまをしているつもりはまったくないのです。生きるためにやっている。私たち人間も生態系の一部です。そのバランスを保ちながら、社会全体を調整していくことの大切さを今回教えてもらいました。

猪肉、鹿肉、美味しかったですよ。「臭い、堅い獣肉」のイメージは吹き飛んでしまいました。若き人たちの次の時代に向けての挑戦に触れて、私もできることで応援したいと思いました。

厨房「ゆるり」の情報

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シンジーノ

3人娘の父で、最近は山歩きにハマっているシンジーノです。私は「お客さまが”笑顔”で買いに来られる商品」を扱う仕事がしたいと思い、旅行会社に入って二十数年。今はその経験を元にできるだけ多くの人に旅の魅力を伝えたいと“たびこふれ”の編集局にいます。旅はカタチには残りませんが、生涯忘れられない宝物を心の中に残してくれます。このブログを通じて、人生を豊かに彩るパワーを秘めた旅の素晴らしさをお伝えしていきたいと思います。

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