レンブラントの『夜警』にまつわる10のトリビア【前編】

オランダの画家、巨匠レンブラント・ファン・レインによる『夜警』は、オランダ黄金時代の絵画を代表する作品です。火縄銃手組合による市民隊がまさに出動する瞬間を、巧みな明暗法と構図で躍動的に描きあげました。

この記事では、『夜警』にまつわる10のトリビアの内5つをご紹介します。

目次

1. 『夜警』に描かれているのは昼の情景

レンブラント・ファン・レイン(Rembrandt van Rijn) が1642年に完成させたこの集団肖像画には、もともと題名がありませんでした。時代を経てニスが黒ずみ絵画全体が暗くなったため、夜の情景だと誤解され『夜警 (De Nachtwacht) 』と呼ばれるようになったのです。

『夜警』という題名の初出は1797年の資料です。修復作業によりニスが取り除かれ、お昼の明るさを取り戻して以降もなお、『夜警』の愛称で親しまれてます。

アムステルダム国立美術館が使用する正式名称は『フランス・バニング・コック隊長とウィレム・ファン・ライテンブルフ副隊長の市民隊 (De compagnie van kapitein Frans Banning Cocq en luitenant Willem van Ruytenburgh)』です。

2. レンブラントが制作にかけた期間は不明

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<『夜警』と同時期に描かれたレンブラントの自画像>

市民隊の集団肖像画は、隊員の一人が逝去したことを機にレンブラントに依頼されました。そのため、依頼時期が「1640年12月よりも前」ということは明らかなのですが、実際にレンブラントが肖像画を描き始めた時期については記録が残されていません。

『夜警』が完成した1642年から計算して、おそらく制作期間は「少なくとも1年、あるいはそれより少し長い期間」とされているようです。縦3.63メートル、横4.37メートルもの巨大な作品を、1年余りで仕上げてしまうレンブラントの圧倒的な技量が示されています。

3. ナイフで切り裂かれた跡が残っている

『夜警』はこれまでに3度、観客によって傷つけられています。最初は1911年1月13日、船会社から解雇された男が腹いせに、刃物で『夜警』に襲いかかりました。表面の厚いニスに守られ、絵画は深刻な破損を免れています。近年では1990年4月6日、精神病患者によってスプレー状の酸が吹きかけられました。酸はニス層に浸透しましたが、修復によって『夜警』は元の姿を取り戻しています。

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最も深刻な被害は、1975年9月14日に起きた切り裂き事件によるものです。精神科に通院歴のある元教師が、「神の導きによって」カンヴァスを12箇所切り裂きました。『夜警は』4年の歳月をかけて修復されましたが、現在でも近くでよく見ると襲撃の跡が残っているのが分かります。

4. 第二次世界大戦中は壕の中に隠されていた

1939年9月3日、イギリスとフランスがドイツに宣戦布告し第二次世界大戦が勃発しました。ドイツ軍による略奪や爆撃を恐れ、アムステルダム国立美術館は『夜警』をはじめ3万点の収蔵品を避難させることになりました。

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当初は海岸沿いの壕の中に隠されていた『夜警』ですが、1942年にドイツ軍が「大西洋の壁」の建築を始めると、マーストリヒトのシント・ピーテルスベルグの壕に移動されました。丘陵の壕の中で5年間、額から外された『夜警』のカンヴァスは、巻物のように丸めて保管されていました。

5. 集団肖像画の不文律が破られた

17世紀のオランダでは集団肖像画が隆盛し、レンブラントは肖像画家として富と名声を極めていました。にもかかわらず、『夜警』の出来栄えには多くの隊員が不満をもらしたといいます。全ての人物を平等に描くという慣習に反して、隊員の描かれ方に差があったためです。後ろの方に配置され顔がぼやけていたり、他の隊員の腕で顔が隠れていたり、さらには発注者ではない人物や子供、犬までもが描かれていました。

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『夜警』とともに市民隊の本部に飾られていた、ニコラース・エリアス・ピッケノイ(画像左上)、ヤーコプ・バッカー(右上)、バルトロメウス・ファン・デル・ヘルストによる集団肖像画と比べてみても、『夜警』の異質さは一目瞭然です。レンブラントは、記念写真のように描く集団肖像画の因習を打ち破り、芸術性を追求しました。

キアロスクーロ(明暗法)によって主要人物を浮かび上がらせ、後ろにいくほど人物の描写は曖昧になります。全ての人物が正面を向いて整列している構図も崩し、登場人物は各々の仕草で異なる方向を向いています。武器や旗などの斜めのラインも巧みに使い、劇場のような奥行きを表現しました。

レンブラントの弟子、サミュユル・フアン・ホーフストラーテンは『夜警』について、「動きにすばらしく勢いがあり、とても力強いので、並べて飾られた絵がトランプのカードのように見える」と述べています(当時のホールの様子がCGで再現されています)。レンブラントは世界で初めて、集団肖像画に躍動感と物語を与えたのです。

後編に続きます。

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Kayo Temel

オランダ在住。アムステルダムの美術アカデミーで絵画を学び、イラストレーターとして活動中。20年の在蘭経験を活かして、オランダを満喫するためのローカルな情報をお届けします。

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