ポーランドの「負の世界遺産」ホロコーストが行われたアウシュヴィッツ強制収容所を訪れ平和とは何かを考えてみよう

ポーランド第2の都市クラクフから西へ約54km。地方都市オシフェンチウム(ドイツ語名「アウシュヴィッツ」)にある第二次世界大戦中にナチスドイツが作った強制収容所で、わずか数年の間に100万人を超えるユダヤ人が虐殺されました。

ナチスによるホロコースト(大量虐殺)は『シンドラーのリスト』など多くの映画の題材にもなり、知っている方も多いでしょう。しかし実際にその場に立ってみると、遠い歴史の話がリアルに感じ、"なぜ?"と自問自答することになります。

オシフェンチウムには、アウシュヴィッツとビルケナウの2つの強制収容所があり、現在はともに博物館として公開されています。また、「人類が二度と過ちを繰り返さないように」と、1979年に「アウシュヴィッツ・ビルケナウ強制絶滅収容所」としてユネスコの世界遺産に登録されました。

ガイドツアーでは、その2つの博物館を回りますが、今回はアウシュヴィッツ博物館の方を紹介したいと思います。

目次

のどかな農村地帯に建てられた恐ろしい施設

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<アウシュヴィッツ収容所の入口。写真では見えにくいが上にスローガンが>

ポーランド南部ののどかな田園地帯を走るクラクフからのバスは、アウシュヴィッツ博物館の前に止まります。

チケットを持っていない人はチケット売り場へ、持っている人は入場時間が指定されているので、その時間の少し前に入場口へ行けばいいでしょう。

朝夕など時間帯によっては、個人でも回ることができます。ただしメインの時間帯は、基本的に博物館の中はガイドツアーで回ります。日本語ツアーもありますが、私は予約が取れなかったので英語ツアーにしました。

入り口でガイド説明用のヘッドホンを借り、グループごとにガイドの案内でかつての収容所の中に入っていきます。

収容所の入り口には「働けば自由になる」というスローガンが掲げてありますが、中で待っているのは「死」だけでした。

150万人のうち、生き残ったのはたったの5万人

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<博物館になっている各棟をガイドツアーで回る。>

この収容所が使われていたのは1940〜1945年の間。

ナチスがドイツで政権を握ると、ユダヤ人だけでなく、ロマ(ジプシー)、精神障がい者、身体障がい者、同性愛者などへの迫害も始まり、各地の収容所にそれらの人々が送られることになります。ナチスはドイツ人を生物学的にも優秀なアーリア民族とし、ユダヤ人らは遺伝的に劣る「劣等民族」として淘汰されるべきと真剣に考えていました。

恐ろしいことです。

戦争が始まると収容所の目的は、隔離ではなく「絶滅」になりました。

そしてドイツの占領地域が広がると、ヨーロッパ各地からユダヤ人やロマの人々、戦争捕虜などがこのアウシュヴィッツに送られてきます。アウシュヴィッツ収容所には最大で2万人、近くのビルケナウ収容所には最大で9万人が収容されていました。

このホロコーストは、あまりにも残虐な行いのため当時は完全に秘密にされ、起きてることはドイツ国民でさえも知りませんでした。証拠隠滅が行われたため記録はほとんど残っていないのですが、両収容所に収容されたユダヤ人の数は現在ではおよそ110〜150万人とされています。そのうち生き延びたものはわずか5万人程度。あとの人々は、すべて焼却されてしまったのです。

訴えかける、犠牲者たちが残した"もの"とは

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< 展示されたおびただしい犠牲者たちの靴>

私が訪れた日は真夏日で、日中の気温は30度を超えていたでしょう。

煉瓦造りの収容棟が並ぶ中、最初に4号棟に入り、ガイドによる収容所の歴史の説明を聞きました。強制収容所は当初はドイツをはじめ欧州各地にありましたが、収容の目的が「絶滅」に変わると、効率よくユダヤ人を殺害できる絶滅収容所に集められるようになります。

ここにはガス室の様子がわかるジオラマや、大量に使用されたチクロンBの空き缶などが展示されていました。「チクロンB」は、大虐殺が行われたガス室で使われたガスです。これはもともと殺虫剤として開発されたものですが、それを人間にかけて殺していたかと思うとゾッとします。

次の5号棟では、大量のメガネ、靴、カバン、生活用具から義足、義手までが展示されおり、その訴えるものの重さに、気分は一気に沈みます。建物内の暑さもありますが、ガイドツアー参加者の女性がここで一人具合が悪くなり、外で休むことになりました。

人々が暮らした部屋と「死の壁」

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<10号棟と11号棟の間にある、多くの人たちが銃殺された「死の壁」>

夏の観光シーズンということもあり、展示室ではいくつかのグループが常に見学しており、部屋に入るのに順番待ちということもよくありました。

6号棟では、収容された人々の顔写真がたくさん飾ってありました。7号棟では、3段ベッドが置かれた狭い部屋やトイレなど、ここに収容されていた人々の部屋が再現されています。ガイドの説明が続くうちに、みな気分が滅入っていきます。

しかし仕方がないのです。実際に起きたことなのですから。

収容所の端の方には「死の壁」と名付けられた壁があり、その前に花が添えられていました。 "政治犯"とされた数千人の人々がこの壁の前で、見せしめのために銃殺されたのです。

大量殺人が行われていたガス室と焼却所

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<実際に使われたガス室は証拠隠滅のために破壊されたので、これは復元されたもの>

最後に、私たちが案内されるのは、焼却炉とガス室です。

外から見ると盛り上がった土の上に煙突が出ているだけですが、この下で大量殺戮(さつりく)が行われていたのです。中に入るとコンクリートむき出しの広い部屋がありますが、ここは上からチクロンBを撒いて人々を殺していた場所でした。

隣には1日340人を焼却していたという焼却炉があります。火葬場に行ったことがある方ならわかると思いますが、人は現代の火力でもそう簡単には灰になりません。死体をガス室から運び、焼却していたのも同じユダヤ人たちでした。ナチスは残酷にも、同じ運命をたどることになるユダヤ人に汚れ仕事をさせていたのです。虐殺は秘密だったので、"仕事"をさせているユダヤ人たちも定期的に"入れ替え"られていました。

同じ過ちを許さないためにも見るべき「負の遺産」

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<焼却室の入口。陰鬱な内部と外の青い空が対照的>

外に出ると、盛夏の暑い日差しが強く差してきました。中に入る前と世界は変わっていません。おそらく当時もこの収容所の外では、住民たちが中で何が起こっているか知らずに暮らしていたのでしょう。

ガイドの説明を聞きながら展示物を見て回ると、確かに気は滅入りますが、ここには心霊スポットのような怖さはまるでありません。多くの人々が殺されたにもかかわらず、おどろおどろしい感じがしないのです。しかしむしろそのドライさがこのホロコーストの怖さかもしません。

人間を人間として扱わない、人間性の喪失がこのようなことを引き起こしたのです。今、私たちが生きている現代社会も、いつまた同じことが起きるかわかりません。そんなことを深く考えさせ、いまの自分への戒めにもなるのが、この「負の遺産」なのです。

アウシュヴィッツへのアクセスとチケットの買い方は?

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<アウシュヴィッツ博物館の入場口。セキュリティチェックがあり、大きな荷物は持ち込めない>

アウシュヴィッツへの基点となる都市は、ポーランド第2の都市クラクフです。クラクフへは首都ワルシャワのほか、ヨーロッパの諸都市から航空便が出ています。クラクフ市内にはアウシュヴィッツ行きの日帰りツアー(英語あり)を催行している旅行会社が数多くあります。言葉が不安なら、日本語ガイド付きのツアーを催行している会社もあるので利用してみるといいでしょう。

個人で行く場合は、クラクフ鉄道駅に隣接したバスターミナルから、1時間に1〜2便程度バスが出ています。所要約1時間半。オンシーズンには満席のこともあるので、時間よりも早めに行くことをお勧めします。バスはアウシュヴィッツ博物館の前に止まりますが、終点ではないので気をつけてください。

ツアーでは、アウシュヴィッツ博物館を見学した後、無料のシャトルバスで2kmほど離れたビルケナウ博物館へ向かいます。30分ほど説明があった後、現地解散になります。後は自由にビルケナウ収容所の中を歩き、またシャトルバスでアウシュヴィッツまで戻ることになります。ビルケナウ博物館については、別の機会にご紹介したいと思います。

基本情報

アウシュヴィッツ博物館

  • 施設名:Auschwitz-Birkenau Memorial and Museum
  • 公式HP:http://auschwitz.org/en/
  • 電話:+420 326 551 049
  • 開館時間:12月7:30~14:00、1・11月7:30~15:00、2月7:30~16:00、3・10月7:30~17:00、4・5・9月7:30~18:00、6〜8月7:30~19:00。ただし1〜3・11月10:00~13:00、4〜10月10:00~16:00、12月10:00~12:00はガイドツアーでのみ入場可なので注意。ガイドツアーの催行時間はHPを参照のこと。英語ツアーの場合、冬期は1日数回だが、4〜10月は15〜60分おきにある。予約が望ましい。身元確認のため、要パスポート持参。
  • 定休日:1月1日、12月25日、聖日曜日
  • 入場料:無料だが、ガイドツアーは有料。各ツアー定員があるので、あらかじめWEB予約が望ましい。アウシュヴィッツとビルケナウの両方を回る3時間半の英語ツアーの場合、1人60ズウォティ。日本語公認ガイドによるツアーは予約のみで、料金は当日の参加人数による。
    申込は日本人ガイド中谷さんまでメールで問い合わせnakatani@wp.pl


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前原利行

東京出身で、現在は神奈川在住。今までに訪問した国はアジア、アメリカ、ヨーロッパ、アフリカなど90か国以上。現在は海外旅行や映画、音楽、アートに関する、ライター及び編集者として活動中です。一番多く訪れているのはインドで、仕事も含めて20回以上。プライベートではロックミュージックや映画、そして世界史好きなので、欧米旅行も多く、映画のロケ地や音楽フェス、ロックの聖地、世界史の場所など、テーマを持った旅をしています。

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