映画「夕陽のあと」貫地谷しほりさんインタビュー

養殖鰤(ブリ)生産量日本一の鹿児島県長島町を舞台にした初めての映画「夕陽のあと」。

この映画は「子育て」がテーマで、現実社会に潜む深く難しい問題に正面からぶつかっている作品です。その映画「夕陽のあと」で産みの親・佐藤茜役を演じる貫地谷しほりさんにインタビューする機会をいただきました。作品への思い、撮影中のエピソード、貫地谷さんご本人の好きなことなど、根ほり葉ほり訊いてきましたのでご紹介したいと思います。

目次

脚本を読んで、茜をどのような人物だと思いましたか?また、役作りはどのようにされましたか?

とても辛い役だなと思いました。茜は周りに相談できる人がいなくて、一人で抱え込んでしまい、あのような選択をせざるを得なかった女性です。その背景は恵まれた両親に愛されて育ち、また母親でもない私には到底想像しえないもの。それでも、ニュースを見たり本を読んだりすると、茜のような経験をしている女性がこの社会に実在していることがわかります。その人たちの気持ちを「わからない」と言ってしまうのではなく、なぜ彼女たちがそういう気持ちに至ったのかを考えようとしました。一人の社会人として、茜のような女性たちの声が弾かれてしまうことだけは避けたいと思いました。きっと、この映画を観る大多数の人は、辛い不妊治療を続けてやっと出会った子どもを奪われそうになっているお母さん(五月)の方に感情移入すると思うんです。でも、その裏側でこんな思いをしている女性がいる、ということを伝えられたらと思いました。

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撮影中、大変だったことは何ですか?

撮影中は毎日辛かったです。茜という役に向き合って自分を追い込んでいくのは本当に苦しかった。精神的にきつい撮影の合間、唯一の楽しみは毎日宿舎で自炊してごはんを食べることでしたね(笑)。長島はスーパーで普通に売っているお刺身が抜群に美味しいんです。「へえ~っ、これが本当の意味で"鮮度がいい"ということなのか!」と感動するほど食べたお魚すべてがおいしかったです。

撮影現場で印象に残っていることはありますか?

一人で悩みを抱え込んでいる辛い役ということもあり、実は他の人たちとあまりコミュニケーションを取っていませんでした。完成した映画からはカットされていますが、泣くシーンが結構あって、現場では消耗することが多かったです。ただそんな中でも、技術スタッフの皆さんは私が表現したいニュアンスや意図を汲み取ってくださって、(芝居を)やりやすい環境ではありました。たとえば気持ちがウワッと高ぶるシーンでは、スタッフが透明人間のようになってくれたりして、ありがたかったです。

貫地谷さん自身が好きなシーン(セリフ)は?

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役場の新見秀幸さんに夜居酒屋に呼び出されて意見されるシーンです。茜の「一度失敗を犯した人間にはもうチャンスは与えられないの?」というセリフに私はすごく共感しました。

撮影中、地元のエキストラの人たちのパッションを感じたエピソードは?

ラストの夏祭り、子供たちが太鼓をたたくシーンですね。あのシーンの撮影時は真冬だったんです。気温8度の中、夏の衣装で震える寒さの中、皆さんがんばっていました。永井大さんなんて「失敗した!タンクトップの衣装なんか選ぶんじゃなかった~!(笑)」と言いながら気合いを入れていました。みんなの心がひとつになって作られたシーンです。

物語の鍵を握る少年、豊和(とわ)君の印象はどうでしたか?

「子どもらしい子だな」と思いました。女優をやっていると多くの子役の皆さんと接する機会があるのですが、大人顔負けのしっかりした子が多いんです。そういう面では、豊和くんは子どもらしい子どもでした。彼にとっては初の映画出演だったのでかなり緊張していたのでしょう。初演技の時、セリフがまったく出てこなくなってしまって泣き出しちゃったんです。でも徐々に慣れていって見事に演技されていました。「人って、こうやって未知の領域を乗り越えていくんだ」と学ばせてもらいました。

長島町で印象に残った場所は?

撮影現場と宿舎の往復の毎日であまり長島の町を見て回ることはできませんでしたが、海を見下ろす高台に「道の駅」があるんです。そこの駐車場から見る海がすごくきれいでした。水平線が見えて、海がキラキラ輝いているんです。今でも印象に残っていますね。

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<道の駅 長島 ポテトハウスからの海景>

長島町で思い出に残っている食べ物は?

撮影の合間、小腹が空いた時に乾燥メカブをスナック代わりに食べていました(笑)。食べているうちにメカブが柔らかくなってだんだん粘りが出てくるんです。はまっちゃいました。あとは梅干しですね。塩分強めのしょっぱくて子供の頃食べた懐かしい梅干し。紫蘇の葉も入ってるあれです。この二つでエネルギーをチャージしていました。

ところで、旅は好きですか?どんなスタイルの旅が好きですか?

旅は大好きです。
"ひとり旅"はしませんね。旅の楽しさや喜びを誰かと分かち合いたいから。必ずお友達とかと出かけます。旅の目的はほぼ食べ物です(笑)美味しい物食べたいっていう。それが旅に出かける一番の理由です。

今まで旅した中でよかった場所は?

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お仕事で訪れたイタリアのナポリがお気に入りです。地元の民家でイタリアの家庭料理をごちそうになったんですよ。ナポリでは食べたもの全部が美味しかったですね。その時は時間がなくてカプリ島のあの「青の洞窟」まで行けなかったので、いつか行きたいです。

長島はどんな町でしたか?

とにかく夜の星空がきれいだったのが印象的でした。いわゆる派手な観光地などはありませんが、自然に包まれた豊かな場所だと感じました。東京では至るところにコンビニがあります。長島にもコンビニはありますが、数が少なくて宿舎からは不便な場所にあった為、買い物はもっぱら地元のスーパーだったのですが、それが私の住む東京とは違ってとても新鮮でしたね。食べ物の味つけもシンプルで気に入りました。

この作品への参加を通してどのような発見がありましたか?

茜のような人も含めて、どうすればいろんな人が社会で一緒に気持ちよく生きていけるか、ということをより考えるようになりました。完璧に寄り添うことはできなくても、考えることはできます。また、考えること自体、役者の仕事とも言えます。映画を観てくださる方たちにとっても、この映画が考えるきっかけになれば嬉しいですね。エンタテインメントではありますが、観終わって「実は茜は身近にいるかもしれない」と思うことが、社会を変える一歩になるはずなので、映画やドラマにはそうやって人を動かすパワーがあります。私自身、いろんな作品からいつもパワーをもらっています。

貫地谷さんが作品に取組む時に指針にしていることはありますか?

お芝居は嘘の世界ですが、嘘に感じられたらダメで、本当の気持ちが乗っていないと面白くない。演じる側が、どれだけバカになれるかにかかっているように思います。自分のことでもないのに、感情移入したり泣いたりするのって、バカにならないとできないことだと思うんです。どこまで自分の身を投げ出せるか、と言いかえてもいいかもしれません。そして、撮影の最中は身を投げ出しているから、こうしよう、ああしようと思ってもできないんですね。終わってから「もうちょっとこう演じればよかった」と客観的に思うことはあっても、現場ではできない。自分が普段生活の中で身につけてきたものしか出てこない。30代になって、お芝居と普段の生活や考え方はつながっているとますます実感しています。最近日常生活で「ん?」と疑問に思うことがあると、冷静に原因を考えるようにしているのですが、そうすると人にやさしくなれるし、人生は何でもありだなと思えます。20代の頃なら台本を読んで「ありえない」「こんなことする人いないでしょ」と思っていたことも、「人ってこうなるのか」と想像できるようになって、引き出しが増えるってこういうことなのかと思ったりします。その分、迷うことも増えるんですけどね。

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インタビュー後の感想

貫地谷さんはとても気さくな方でいろいろなお話を聞かせていただきました。産みの親である佐藤茜はほとんど笑顔を見せない重い役どころで、唯一豊和が後半のシーンで茜に語り掛けた時にふっと頬に赤味が差し、本来の貫地谷さんらしいちょっとお茶目な柔らかい表情を見せてくれます。他の役者さんたちが長島町に溶け込んでいく中、敢えて長島町や地元の人々と距離を置き、役作りに徹していた貫地谷さん。そこにプロとしての姿勢を感じました。それにしても貫地谷さんがこれほど食べることがお好きだとは。。。ますます親しみを感じました。こないだなんかお米を2合炊いてひとりで食べちゃったそうです(笑)。思わずテレビドラマ「女くどき飯」を思いだしました。「あれは演技じゃなかったのかぁ(笑)」。ご結婚も発表されて公私ともに充実している貫地谷さん、これからも私たちの心を揺さぶって欲しいです。

スタイリスト:番場 直美

ヘアーメイク:北 一騎

映画「夕陽のあと」

2019年11月8日(金)より新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー!

監督:越川道夫(『海辺の生と死』)

出演:貫地谷しほり / 山田真歩 / 永井大 / 川口覚 / 松原豊和 / 木内みどり

脚本:嶋田うれ葉
音楽:宇波拓
企画・原案:舩橋淳
プロデューサー:橋本佳子
長島町プロデュース:小楠雄士
撮影監督:戸田義久
同時録音:森英司
音響:菊池信之
編集:菊井貴繁
助監督:近藤有希

製作:長島大陸映画実行委員会
制作:ドキュメンタリージャパン
配給:コピアポア・フィルム

2019年|日本|133分|カラー|ビスタサイズ|5.1ch

>>>長島町ってどんなところ?

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シンジーノ

3人娘の父で、最近は山歩きにハマっているシンジーノです。私は「お客さまが”笑顔”で買いに来られる商品」を扱う仕事がしたいと思い、旅行会社に入って二十数年。今はその経験を元にできるだけ多くの人に旅の魅力を伝えたいと“たびこふれ”の編集局にいます。旅はカタチには残りませんが、生涯忘れられない宝物を心の中に残してくれます。このブログを通じて、人生を豊かに彩るパワーを秘めた旅の素晴らしさをお伝えしていきたいと思います。

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