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鹿児島県長島町の映画「夕陽のあと」を観た感想
(©2019長島大陸映画実行委員会)
養殖ブリ生産量日本一の鹿児島県長島町を舞台にした初めての映画「夕陽のあと」の試写を観ました。
心がざわめき、揺さぶられる映画でしたのでレポートしたいと思います。
目次
映画「夕陽のあと」のあらすじ
豊かな自然に囲まれた鹿児島県長島町。1年前に島にやってきた茜は、食堂でテキパキとはたらきながら、地域のこどもたちの成長を見守り続けている。一方、夫とともに島の名産物であるブリの養殖業を営む五月は、赤ん坊の頃から育ててきた7歳の里子・豊和(とわ)との特別養子縁組申請を控え、"本当の母親"になれる期待に胸を膨らませていた。そんな中、行方不明だった豊和の生みの親の所在が判明し、その背後に東京のネットカフェで起きた乳児置き去り事件が浮かびあがる・・・。
7年前に何があったのか?"生みの親"と"育ての親"がそれぞれ体験する、子どもと離れる辛さと、お母さんと呼ばれる歓び。彼女たちはそれらを分かち合うことはできるのか?そして、島の子としてすくすくと育った豊和の未来はー。家族のあり方が多様化する時代に、改めて親子の絆を問いかける骨太なヒューマンドラマが完成した。(試写会配布資料より引用)
映画「夕陽のあと」を観た感想(一部ネタバレ含みます)
胸にずっしりと迫ってくる映画でした。テーマは重く、安易なハッピーエンドではかたをつけられない骨太の映画です。
「親子の絆」「子育て」をテーマに「人々のつながりが薄れ、孤独化の進む時代」の中で、深い闇に落ち、生きることの意味を見いだせないままもがく人々。
それなりに満たされた生活をしている人間には想像もつかない苛烈な状況を目にして、私の心はざわめきました。
この簡単には解決できそうにない深い問題に対し、もしかしたら私たちができるかもしれないことを、長島という"町"と"人"の姿を通じて映画「夕陽のあと」は問いかけてきます。
一般的に小説などを映画化する時、尺にストーリーを収めることに一生懸命でやたらと展開が速く、そのしわ寄せで内容が薄く見えてしまう残念な映画が多い中、この映画はオリジナルでじっくり足下を見つめて丁寧に作られています。
これみよがしの演出も煽り立てる効果音もなく、とても誠実に作られているように感じました。それだけに、テーマがよりずっしりと観る者に迫ってきます。
映画を観終った後、深い感慨と少々の疲労感、そして未来への道しるべの光を感じながら試写室を出ました。
映画「夕陽のあと」で心に残ったシーン
次の2つのシーンが私の心に強烈に刻まれました。
ひとつめは、育ての親である五月(山田真歩)が"茜(貫地谷しほり)が豊和(松原豊和(とわ))の生みの親である"ことを知った後、二人が対峙するシーン。家の戸を閉め出された茜が外から豊和の勉強部屋を覗き見る時の表情がたまりません。自分の知らない豊和が過ごしてきた7年間を見せつけられた時の母親の気持ちは他人には到底想像もつかない悲しさと切なさにうちのめされたことでしょう。
ふたつめは茜がネットカフェで豊和と一緒にいるシーン、そして更生中の茜が縫製工場のトイレで、お乳を便器に流す時の後ろ姿。
思わず目を背けてしまいたくなるほど悲惨で孤独で救いようのない場面でした。
巷では子どもを虐待したり、パチンコをやっている間、車の中に子どもを置き去りにしたりする母親をメディアが徹底的にバッシングします。そしてそのメディアを観た私たちも「なんという親だ!」と憤ったりしています。傍から見ればわが子を置き去りにした母親の方がどうみても悪い、善悪基準で言えばその通りです。しかしその母親は本当にそれ以外の道を選べなかったのか、そういう極限状態に人間が追いつめられた時、どういう道を選べるというのか、道徳の教科書のような理想論を掲げ、それでも夢と希望を持ってもっとがんばれ!と私たちは言えるだろうか。
果たしてこの映画はこの難問をどのように結論づけることができるのだろうか。。。そう心配するほど現代の問題を深くえぐりだし、突きつけられたシーンでした。
鹿児島県長島という町
この映画には鹿児島県長島町の風景があちこちに登場します。
例えば・・・
元気のない茜を五月が連れていった"ぼーっとするのにいい場所"。そこにしゃがんで夕陽を眺めている茜の背中。
(©2019長島大陸映画実行委員会)
(©2019長島大陸映画実行委員会)
漁船に乗って帰ってくる男たちを港で迎える奥さん達が語らう情景。
(©2019長島大陸映画実行委員会)
子どもたちの夏祭り、太鼓の練習風景
(©2019長島大陸映画実行委員会)
(©2019長島大陸映画実行委員会)
町役場の喧噪(とってもリアル(笑))
(©2019長島大陸映画実行委員会)
自転車が似合う長島町の坂道
(©2019長島大陸映画実行委員会)
こういった風景が、スクリーンに明るい息吹きを吹き込んで観ている私たちは救われます。そしてこの長島のような町の文化風土が、解決が難しい問題解決へのヒントになるかもしれないという可能性を映画「夕陽のあと」は暗示します。
映画の後半で豊和が茜にかける言葉、これがとってもいいんです。この言葉で初めて茜の頬に赤みがさします。このシーンはぜひ劇場でご覧ください。
育ての親である五月役の山田真歩さんがこうコメントしています。
「長島は島全体がまるでひとつの家族のようでした。私が道ですれ違うおばあちゃんに会釈するとニコニコと両手を大きく広げて抱きしめられました。この島の人たちの心には鍵がかかっていないと思いました。」
映画「夕陽のあと」を観ると「日本にまだこんな場所があったんだ」と感じると思います。
昔の日本のように町全体がひとつの家族のようなつながりを持った世界。
私も、あの長島大陸市場食堂へ飛びこんでごはんを食べてみたいと思いました。
私も、あの坂道を自転車で駆けぬけてみたいと思いました。
私も、茜が佇んだあの場所で夕陽を眺めてみたいと思いました。
最後に
越川監督がコメントしています。「私たち大人が子どもにできることとは何なのでしょう」と。
子育てに関わる多くの方々、日本の将来に漠然と不安を感じている方々にぜひ観てもらいたい映画です。
映画「夕陽のあと」
2019年11月8日(金)より新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー!
監督:越川道夫(『海辺の生と死』)
出演:貫地谷しほり / 山田真歩 / 永井大 / 川口覚 / 松原豊和 / 木内みどり
脚本:嶋田うれ葉
音楽:宇波拓
企画・原案:舩橋淳
プロデューサー:橋本佳子
長島町プロデュース:小楠雄士
撮影監督:戸田義久
同時録音:森英司
音響:菊池信之
編集:菊井貴繁
助監督:近藤有希
製作:長島大陸映画実行委員会制作:ドキュメンタリージャパン配給:コピアポア・フィルム
2019年|日本|133分|カラー|ビスタサイズ|5.1ch
(©2019長島大陸映画実行委員会)
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シンジーノ
- 3人娘の父で、最近は山歩きにハマっているシンジーノです。私は「お客さまが”笑顔”で買いに来られる商品」を扱う仕事がしたいと思い、旅行会社に入って二十数年。今はその経験を元にできるだけ多くの人に旅の魅力を伝えたいと“たびこふれ”の編集局にいます。旅はカタチには残りませんが、生涯忘れられない宝物を心の中に残してくれます。このブログを通じて、人生を豊かに彩るパワーを秘めた旅の素晴らしさをお伝えしていきたいと思います。