映画「夕陽のあと」越川道夫監督インタビュー

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(©2019長島大陸映画実行委員会)

鹿児島県長島町初めての映画となる「夕陽のあと」。産みの親と育ての親、子育てがテーマのこの作品のメガホンをとったのが越川道夫監督です。深く重いテーマに正面から向き合った本作への思いを聞きました。

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目次

越川道夫監督のプロフィール

1965年静岡県生まれ。助監督・劇場勤務、演劇活動、配給会社シネマ・キャッツ勤務を経て、1997年に映画製作・配給会社スローラーナーを設立。話題作の宣伝・配給・プロデュースを手掛ける。2015年、エミール・ゾラの「テレーズ・ラカン」を現代日本に舞台を翻案した「アレノ」で劇場用長編映画監督デビュー。2017年には作家・島尾敏雄と島尾ミホの出会いを描いた「海辺の生と死」、居場所をなくした少女と少年のロードムービー「月子」、佐伯一麦の小説を原作とした「二十六夜待ち」の3本の映画が立て続けに公開された。また本作に先駆け、監督・脚本・撮影・編集を手がけた「愛の小さな歴史」が2019年10月19日に公開。(映画試写会配布資料より引用)

監督の生まれた町と長島町に同じ匂いを感じた理由は?

「越川監督はこの企画を受けて長島に訪れた時、ご自身が生まれた静岡県浜松市の懐かしい人と人とのつながりが、長島の人たちの中に生き続けていると感じたと仰っています。監督が子どもの頃の浜松のお話を聞かせてください。」

僕の家は駅近くの商店街にある洋品店でした。家には両親、祖父母、叔父、叔母、番頭さん、郡部から花嫁修業に来ている娘さんという大家族で暮らしていました。両親は仕事で忙しくあまり構ってくれませんでしたが、親以外の大人、ご近所さんやお店のお客さんたちが僕の面倒をよくみてくれました。当時店には自動ドアは無く、出入り自由でした。僕は町の人たちに育ててもらったように思います。その後バブル期を経て、商店街はすっかり様変わりしてしまいました。当時からあるお店は今1~2軒位しか残ってないんじゃないかな、チェーン店ばかりになってしまいました。商店街は今も同じ場所に在りますが、僕にとっての懐かしい商店街はもう無いのです。

長島に行ってみればわかりますが、知らない島の人がよく声を掛けてくるんです。五月役の山田真歩さんが言っていましたね。「長島では人の心に鍵がかかっていない」と。そんなところが僕の育った頃の浜松の町と似ているなと感じました。

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2週間の撮影中、大変だったことは何ですか?

これまで映画を何本も撮っていますが、大変じゃなかったことなど一度もありません(笑)すべてが大変です。楽しいか楽しくないかとは別の話ですが。。。

撮影も後半になってくると食事が喉を通らなくなってくるんです。ロケ弁ってどうしても揚げ物が多くなるんです。長島のお弁当はとても美味しかったんですが、さすがに揚げ物はキツくなります。食事の時には、漁師さん等地元の方々から差し入れを頂いて、弁当と一緒に卓に並びました。エビ、鯖、鰤などの刺身や鯛茶漬けなど。そういった生のものは体が受け入れたんです。そのおかげで撮影を乗り切ることができました。ありがたかったですね。

越川監督がこの作品の中で好きなシーンは何ですか?

  • 育ての親である五月が東京に行く朝の(豊和とのやりとり)シーン
  • 風呂あがりの豊和が五月に「お母さん、僕お母さんのお腹の中にいた時のこと覚えてるよ」と言うシーン。
  • 五月が豊和の学校の連絡帳を見ているシーン。

そういった、なんでもない些細なシーンが好きですね。

そう思う背景にはやはり震災があります。震災を通して普通の生活をすることがどんなに大変なことか、尊いかが分かります。例えば朝、新聞が届く、ごはんが炊ける、そんなあたりまえのことがちょっとしたことで失われることがある。人間はそういった普通の生活をどんな時も続けていくことで自分を狂わすことなく生きていけるように思うんです。だからそういう普通の、日常的な些細なことを描きたいと思っています。

長島のエキストラの人たちの熱い思いを感じたという瞬間はありましたか?

僕は地方の方々と映画を作ることが多いのですが、皆さん楽しみにされているんですよね、映画が出来ることを。僕はそんな彼らの思いに応えたいと思っています。今回の長島の人たちに関して言えば彼らはひと一倍楽しそうにしていました。長島大陸市場食堂でのシーンなんて本当に楽しそうでしたよ。僕はそれが嬉しかったですね。

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また長島は"笑うのが好きな人たち"が多いな、と感じました。長島もこれまでいろいろな苦労があってそれを乗り越えて今があるのだと思いますが、きっと彼らはその苦労を明るく乗り越えて来たんだろうな、と思います。

今回、映画初出演の豊和君の撮影中の様子はいかがでしたか?

豊和はね・・・いいですよ。僕は撮影中一度も心配しませんでしたね。子どもは大人が思った以上に柔軟なんですよ。大人が子どもを支配下に置こうとしてはダメなんです。「ああやって、こうしてこうやるんだ」なんて細かく指示しているから逆にできなくさせてしまうんです。

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例えばこんなことがありました。「豊和さぁ、次のシーンだけど少し間をとって遅れてしゃべってくれないかなぁ」豊和はちょっと考えていましたが「わかりました、・・・10秒くらいですか?」「そうだね、それくらいかな」「OKです」こういうことがわかるんですよ。こんなこともありました。「豊和、おばあちゃんが洗いものしてるだろ、その後ろであそこの庭石からさぁ、カッコよく飛び降りてくんないかな」っていうとちゃんとやる。撮影後スタッフが言いました「今の、いいシーンでしたね」。そういうことが子どもはできるんですよ。ただチューニングは必要です。時間がかかることもあります。大人は子どもを自分たちに合わせようとしちゃいけない。それでうまくいかないと「だから子どもは出来ないんだ」なんて判断する。違うんです。撮影がうまくいかないのは大人が子どもにチューニングできていないのが原因なんです。子どものせいではありません。僕は今回豊和には全く心配してませんでした。

撮影中曇天が続いて、きれいな夕陽のシーンがなかなか撮れなかったところ、奇跡的に撮れたそうですね。

9日間で3回夕陽を撮らなければいけませんでした。夕陽はこの作品の重要な部分ですから撮れなければえらいことです。かなり難しい状況でしたが、撮ることができました。もちろんCGも使ってません(笑)

僕は長島が(良い夕陽を)撮らせてくれたんじゃないかなって思うんですよ。自分がこう撮りたいと思ってもそう簡単に撮れるもんじゃないんですよ。そういう意味では今回僕らは長島のために何かができたかな、って思ってます。 

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(©2019長島大陸映画実行委員会)

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(©2019長島大陸映画実行委員会)

秀幸役の川口覚さんと五月役の山田真歩さんの役作りが凄いと聞きました。お二人への印象をお聞かせください。

川口さんはお忍びで撮影の前にひとりで長島に入り、自分で漁協の組合長に電話をかけ組合長の自宅に泊めてもらうよう頼みました。山田さんも自分から民家に泊り実際の漁に参加しました。

僕は映画を撮る時、その町の子どもを撮りたいと思っているんです。この町はどのくらいの近さのところに海があり、山があり、風が吹いてきて、そういう場所で育つとどういう"心"が育っていくのか。川口さんと山田さんの役は長島で育った人の役です。島で育った人になっていなければダメなんです。何もしゃべらなくてもその島の人になっていなければ。彼らは「自分は島の人間になれているだろうか」と不安で一杯なんです。怖くてしかたがない。だから自分にできることは全部やる。これくらいでいいだろうとは思わない。決して高を括っていない。その姿勢がいいんです。

映画のタイトルが「夕陽のあと」である意味をどう捉えていますか?

産みの親と育ての親、どっちが本当の親なのか?という物話や映画はこれまでにもたくさんありましたが答えが出ないものだと思います。しかし、一度起こってしまったことは取り返しがつかないのだから、そういう状態を"どう引き受けてどう生きていくか"、ということが大切なんだと思いました。

「子どもの人生は誰のもの?」と問われたらほとんどの人が「子どものものだ」と答えるでしょう。でも実際には私有化してしまう人(大人)が多い。それはもちろん愛情ゆえなのですが、とても難しい。僕だってそうです。でも、取材した鹿児島の児童相談所の方は「子供の事は、子供自身が決める」ということをいつも念頭に置いているとおっしゃっていました。これはとても大切な事だと思います。

「夕陽のあと」とは「凪(なぎ)」の時間です。この時間は逢魔時(おうまがどき)とも言われ、異界と現実、あちらとこちらが混ざりあった静かな時間です。白黒つけることばかりが良いことではなく、どちらの親も豊和を愛している、そして豊和はこれからも生きていく。対立するのではなく、図らずも豊和を愛することになった二人の女性が、これからの豊和の人生を祝福できるのか。その思いは、カメラを回している僕たちも一緒です。「夕陽のあと」はそれを象徴しているように思います。

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(©2019長島大陸映画実行委員会)

取材後の感想

監督さんなので、ちょっと気難しい方かと思っていましたが、越川監督はとても気さくな方でたっぷりお話ししてくださいました。インタビューの予定時間をオーバーしてしまい、まだまだお聞きしたいこともあったのに時間切れとなってしまいました。。。監督自身が好きなシーンが私の予想外の場面だったので驚きましたが、"なんでもない些細なシーン"を大切に撮っているからこそリアルで嘘くさくない、説得力のある作品が出来るのだと思います。越川監督はいつも「その町の子どもを撮りたい」と仰っていますが、その意味もよくわかりました。

「映画を作っていて大変なことは?」というバカな質問に「大変でないことを探す方が難しいほど、映画作りは大変なことだらけ」だと。それでも映画を作り続けている理由は、「・・・でも楽しいか楽しくないかというのとは別の話なんですけどね。」に表れています。越川監督の話す目には力があり、願いと希望が宿っていたように映りました。

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映画「夕陽のあと」

2019年11月8日(金)より新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー!

監督:越川道夫(『海辺の生と死』)

出演:貫地谷しほり / 山田真歩 / 永井大 / 川口覚 / 松原豊和 / 木内みどり

脚本:嶋田うれ葉
音楽:宇波拓
企画・原案:舩橋淳
プロデューサー:橋本佳子
長島町プロデュース:小楠雄士
撮影監督:戸田義久
同時録音:森英司
音響:菊池信之
編集:菊井貴繁
助監督:近藤有希

製作:長島大陸映画実行委員会

制作:ドキュメンタリージャパン

配給:コピアポア・フィルム

2019年|日本|133分|カラー|ビスタサイズ|5.1ch

>>>長島町ってどんなところ?

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映画「夕陽のあと」公式サイトはこちら

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シンジーノ

3人娘の父で、最近は山歩きにハマっているシンジーノです。私は「お客さまが”笑顔”で買いに来られる商品」を扱う仕事がしたいと思い、旅行会社に入って二十数年。今はその経験を元にできるだけ多くの人に旅の魅力を伝えたいと“たびこふれ”の編集局にいます。旅はカタチには残りませんが、生涯忘れられない宝物を心の中に残してくれます。このブログを通じて、人生を豊かに彩るパワーを秘めた旅の素晴らしさをお伝えしていきたいと思います。

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