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上海の歴史ある洋館を訪ねてみよう
目次
古くて新しい観光スポット 洋館を訪れよう
上海市内では街中に歴史ある建築が多くあります。気付かず通り過ぎてしまう小さな通りの中にひっそりと築100年を越える洋館がたたずんでいることもあります。
ヒトやモノの移ろいが激しい上海。街並みも例外ではなく、数年経てば驚くような変化を遂げています。そんな激しい変化の中を生き残った歴史ある洋館。その洋館一つ一つには幾多のドラマがあります。
筆者は上海の古い建築や街並みが好きで、機会を見つけては足を運んでいます。これまでは洋館を優秀歴史建築として保護するものの、修復して内部を公開している洋館の数は限られていましたが、近年上海では、洋館を修復し一般公開するケースが増えてきています。今回はそんな古くて新しい観光スポット、内部が公開されている上海の洋館を2つご紹介します。どちらも建築保護の観点から見学は予約制。1つは期間限定でしか見れない貴重な建物です。
かつての中国一の富豪の邸宅「栄宅」
最初にご紹介するのは、上海市内エリアの南京路にある「栄宅」。
まさに白亜の豪邸といった趣。民国時代の豪商、栄宗敬氏の邸宅です。同氏は民国時代の中国で紡績と小麦粉の事業で財をなし、最盛期には21の会社を経営する中国一の富豪にまで上り詰めました。
そんな彼の邸宅「栄宅」は1918年築。栄宅は栄氏の自宅の他、社交の場としても使われました。戦火の影響により1938年に栄氏は邸宅を出、香港で逝去しました。主亡き後の邸宅のその後は政府系機関や企業が長きに渡り使用していました。
2000年代に入り、栄宅は上海市の歴史優秀建築に指定されものの、歴史の風雪を経た劣化は逃れられず、また修復にも膨大なお金がかかる為、完全な修復は行われていませんでした。2011年、高級イタリアブランドのプラダが、イタリアの歴史建築修復の大家を上海に呼び修復プロジェクトに着手、イタリアの修復チームも修復にあたりました。実はプラダはこれまでもミラノやヴェニスの修復プロジェクトに参画しており、このような修復プロジェクトのノウハウを持っていたそうです。
修復は栄宅完成当時の様子を出来る限り再現させるというこだわりを持って進められ、2017年に修復が完了。昨秋に修復が終了しての初の2か月間の一般公開は大きな話題となりました。それ以降はプラダが主催するファッションショーや美術展示のイベントに合わせ一般公開をしています。現在栄宅は「PRADA栄宅」という呼称でも呼ばれています。
修復から1年経った今でも栄宅の注目度は健在。上の写真からもわかるように、平日午前にも関わらず入口には見学者の長蛇の列ができていました。今回筆者も初めて足を踏み入れました(2018年11月訪問)。
こちらはリビングの一角。前面がテラスに面する作り。天井の文様や窓上部のステンドグラスに目を奪われます。社交の場として使われていたため、一階はもっぱら客人をもてなすスペースでした。
リビング横のサンルーム窓に施されたステンドグラス。こちらは多くの部分が建築時のままの状態を保っていて、少し修復作業を加えたのみだそうです。
リビング前面のテラス。写真左手側には広大な庭が広がっています。荘厳な作りの階段を上がって2階へ。こちらは栄氏家族のプライベートスペースです。
息子家族の寝室。2階は他に栄夫人の寝室も見れます。栄夫人の寝室の床の見事な細工や壁の装飾は必見です。
バルコニーからの眺め。正面に見える建物も洋館風ですね。
2階から3階部を見上げたところ。趣向を尽くした邸宅をじっくり見学し、後ろ髪を引かれる思いで後にしました。
施設データ
PRADA栄宅
住所:上海市静安区陕西北路186号
アクセス:地下鉄12号線「南京西路駅」12号出口徒歩9分
見学可能期間:2018年11月10日~2019年1月20日
日時:火~木、日曜 10~17時/金、土曜 10~18時
備考:公開はイベントに合わせての完全予約制。今回訪問した際の美術展覧会「劉野『寓言叙事』」と併せての観覧料は60元(990円)。今後も公開あり。
孤高の洋館主人の物語「宝慶路3号」
旧フランス租界エリア。その中でも宝慶路と呼ばれる道路沿いのエリアは、上海の中でも指折りの高級住宅地です。宝慶路3号とは住所表記。その住所にたたずむ邸宅はかつて上海で大きな話題となりました。現在「上海オーケストラ博物館」となっている建物がその話題の現場です。上海の人は愛着を込めてその建物を住所の「宝慶路3号」と呼んでいます。宝慶路3号は現在無料で一般公開されているものの、建物保護の為、見学者は1日80名限定。オープン後数か月に渡り予約が取りずらいと評判でした。今ではオープン時の熱も冷めて予約は取りやすくなっています。
さっそく入ってみましょう。
道路に面した門にはガードマンがおり、予約がないと入れてくれません。予約があることを告げて中に入ります。
館内入口に入ってからは上海市オーケストラ楽団ゆかりの展示が続きます。
こちらは中国で初となる演奏用スタインウェイのピアノ。1921年購入。
かつての楽団レコード音源の演奏を聞くことができます。※こちらで聞く音はLPの音を再デジタル録音したものです。
邸宅を利用した博物館の為、そこかしこに昔の面影を感じます。
ステンドグラス。
1階テラス。床と窓枠の造形が素晴らしいです。
2階バルコニーからの眺め。これほどの広大な庭がある邸宅が上海市内に現存しているのは奇跡とすら感じます。
庭から邸宅の全景を望みます。上の写真左手の離れには、この邸宅の修復と邸宅の主の来歴についての展示があります。
右が修復前、左が修復後です。
こちらが邸宅の主、周宗良氏です。顔料や染料の貿易事業が大当たりし、「顔料大王」と呼ばれ、中国10大富豪の一人となったこともありました。この邸宅は1925年築。元々の所有者はドイツ人でした。1930年に周氏が購入し邸宅の主に。敷地面積が5000㎡近くあり、そのうち庭園の面積が約4000㎡。当時から「上海一広大な庭園の邸宅」と呼ばれました。邸宅は栄宅同様、自宅の他社交の場として使われました。邸宅は洋館ですが、周氏のライフスタイルは中国式で、写真のような中国服をいつも着ていたということです。
周氏には13人の子供がいましたが、その娘の一人が家庭教師と結婚しました。当時の時代背景では、名家の令嬢が家庭教師と結婚することは考えられないことでした。その後、戦争や時局の変化もあり、周氏は香港に渡り逝去。周氏の娘も香港へ渡り、その後音信不通に。邸宅にいた一族も上海を去り、娘の息子(邸宅の主の周氏の孫)が邸宅に50年あまり住み続けました。遂に邸宅に住むのは彼一人になり、上海指折りの邸宅に一人で住んでいることから話題になりました。90年代には往時を偲んでかこの邸宅でダンスパーティが催されていた事もあったそうです。2000年に入り、周氏の一族から邸宅の所有権の確認をする提訴をされ、結果息子は邸宅を追われました。その後上海市が所有する企業が邸宅を買い上げ、修復。そして昨年オーケストラ博物館として一般公開されたのです。
現在の展示では50年余り在住していた主人に関する話は触れられていませんでしたが、当時の報道は加熱を極め、上海人の間ではよく知られた話だったそうです。息子の職業は画家で特に上海の洋館の絵を好んで描いていましたが、その収入では邸宅の修繕費用は賄えず、受け渡しの際はかなり傷みも激しい状況だったそうです。それを修復して公開したことは果たして良かったのだろうか?邸宅を追われた息子のその後は・・・など色々考えさせられます。
■施設データ
上海オーケストラ博物館
住所:上海市徐汇区宝慶路3号
アクセス:地下鉄1号線「常熟路駅」4番出口徒歩4分
開館日時:火~金曜、9時30分~16時30分(16時最終入場)
入場:無料
※事前予約制
最後に
今回の記事はいかがでしたでしょうか。記事では2つの洋館をご紹介しましたが、上海には他にもたくさんの洋館建築があります。上海でもっとも多くの洋館が見られるのは旧フランス租界エリアですが、そんなエリアを歩いて洋館を楽しむ旅もまたいいと思います。あなたのお気に入りの風景に出会えますように。
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