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グリーフセラピーとしての四国八十八ヶ所の巡礼旅
目次
グリーフセラピーとは
私はカラーセラピストとして活動していますが、その中で「心の癒しの旅」の研究もしています。東洋大学の大学院で、「グリーフセラピーとしての巡礼」というテーマで、四国八十八ヶ所の巡礼旅を研究しました。
グリーフセラピーとは、悲しみや喪失を癒すこと。愛する人の死や仕事や恋愛、人間関係の喪失、社会で認められにくい喪失(ペットロスや病気で肉体の一部を喪失するなど)は、日本に限らず世界共通の苦悩です。
グリーフセラピーとしての巡礼
四国八十八ヶ所とは、弘法大師が修行をした88ヶ所の霊場をめぐる巡礼のことです。最近日本人だけでなく、多くの外国人観光客も四国八十八ヶ所の巡礼に訪れているそうです。日本人でも外国人でも、巡礼の目的が健康や観光、仏教の世界に触れてみたいなどであったとしても、心の奥底には「今の自分をもっと変えていきたい」、「人生を見つめ直していきたい」という願いが隠れているような気がします。
また、宗派や組織にとらわれない信仰の空間が、現在の四国八十八ヶ所に訪れる、仏教以外の宗教を持つ外国人旅行者たちにも受け入れやすいのだと思います。四国八十八ヶ所には、仏教の平等精神がしっかりと根付いているのです。
外国人の巡礼者は、長いバカンスを利用して、1回の旅で88ヶ所を巡る人も多いようです。しかし、日本人はなかなか仕事などで時間が取れない人が多いでしょう。そんな方には「区切り打ち」がおすすめです。「区切り打ち」とは、定期的に四国に訪れて数ヶ所を巡り、いずれ88の寺院を達成する巡礼方法です。
区切り打ちで何度も巡礼に出ることで、現在抱えている悩みや悲しみを一旦置き去りにして、悩みの解決方法や、今後の自分の方向性を考える最適な空間を作り出すことができます。その際、ひとりで巡礼するのがいいですね。孤独な時間を持つことで、日頃気づくことができない真の自分が求めている願望ややっておきたいことが浮かんでくるのではないでしょうか。
巡礼と胎道
古来から、人は巡礼を通じて「生まれ変わる」ことができるといわれています。白い装束を身にまとい、巡礼道という空間に入ることで、一旦「死の世界」に入ると考えられています。巡礼道とは、謂わばお母さんのお腹にある「胎道」なのでしょう。巡礼道という胎道を歩くことにより、今までのしがらみや、悲しみ、喪失などの負の感情をすべて吐き出すことができ、88ヶ所すべての霊場を巡り終える「結願」を達成したときには、再び生まれ変わることができるのかもしれません。
「巡礼と胎道」という考え方は、日本にもいくつか事例があります。四国においては、高知県室戸にある、御厨人窟(みくろど)という洞窟がその一つです。その洞窟は浄土への入り口で、洞窟が母親の胎内を表しているといわれています。
また、沖縄に亀甲墓(かめこうばか)と呼ばれる、亀の甲羅に似ている形をしたお墓の様式があります。この変わった形は女性の子宮を模したものと言われており、人間は母親の胎内から生まれ、死ぬと再び帰っていくという「母体回帰」の思想が表れていると考えられます。台湾やサハリンのアイヌ民族にも、これに似たお墓の習慣があるそうです。
日本には「死んでも再び生まれ変わってくる」という輪廻転生の思想があります。これを心のどこかに刻み込んでおくことも、悲しみや喪失で辛い思いをしている人たちの精神的な支えになるのではないでしょうか。
巡礼を繰り返すことで「何度も生まれ変わる」
大学院の研究で四国に現地調査した際、1番の霊山寺(徳島県)、51番石手寺(愛媛県)、88番大窪寺(香川県)を訪れました。
88番の大窪寺で、88ヶ所をすべて巡り、「結願」を達成した人々に「次の巡礼地は、どこへ行きたいですか?」というアンケート調査を行いました。すると、お礼参りとして弘法大師ゆかりの和歌山県の高野山や西国三十三ヶ所をあげる人もいたのですが、多くの人たちが「再び四国を巡礼したい」と答えたのです。
何度も四国八十八ヶ所を巡り回ることによって、自分に足りないものを見つけたり、反省をしたり、人生を再構築したりと、生まれ変わりを繰り返したいという願望の表れなのではないでしょうか。
運動、コミュニケーションと癒し
今回の調査で、悲しみや喪失を癒すためには、「歩くこと」と「コミュニケーション」が効果的であったということが分かりました。
水泳やジョギングなど、無心になって汗を流すことは、安眠や食欲増進にも繋がり、結果的に心が浄化されていくといわれています。巡礼旅は、ひたすら歩き続ける事で、行動としてのセラピーになっていたのです。
また、四国八十八ヶ所巡礼では、多くの地元の人々からお接待を受けたり、巡礼者同士の交流があったりします。見ず知らずの人であれば、心の奥底にある、家族や友人にも誰にも言えない悩みや秘密を打ち明けることができると思います。スペインのサンチャゴ巡礼においても、信仰というよりも地元の人々や巡礼者同士のコミュニケーションが巡礼の動機になっていると聞きます。コミュニケーションすることで、心のデトックス、カタルシス効果になって、スッキリして生きるチカラをチャージできるでしょう。
四国八十八ヶ所巡礼の旅は、自己との対話を可能にする思考空間を創ることで、心と体にたくさんの恵みを与えてくれます。必ずあなたの悲しみや喪失感を癒してくれることでしょう。
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石井亜由美
- カラーセラピスト&アロマテラピーアドバイザー、CS旅チャンネル番組審議委員。カラービジネス、心の癒しと観光をテーマに長年研究。講演、出版、執筆、観光地のイメージカラー作成、テレビなどで活動中です。