たびこふれ

盆栽と珈琲。 茶室のような東銀座のミニマルな空間で心鎮め、 優しい味わいから元気をたっぷりいただく

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記事投稿日:2018/08/28
最終更新日:2018/08/31

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<引き算を極めた空間で盆栽を愛で、コーヒーを通じて安息と優しさを供する>

目次

ミニマルな和空間でマイルドなコーヒーを供する一軒「BONGEN COFFEE」

ブランドショップが華を競う銀座中心部の南東に位置する銀座2丁目界隈。江戸城修築の際に木挽職人や鋸商が多く暮らしたことから、かつては木挽町と呼ばれ、芝居や見世物の小屋も集まる地域でした。芝居町の名残である、歌舞伎座の周辺は現在、喧騒から少し距離を置き、心鎮まるしっとりとした風情が漂います。そんな静かな町の路地に、ミニマルな和空間でマイルドなコーヒーを供する一軒「BONGEN COFFEE」が佇んでいます。目に入るのは盆栽だけ。余計なものはいっさい置かない静謐な場ですが、優しさと安らぎに満ち、近くで働く私を含めて地域の人々には、その存在が日々の元気の源になっています。

QUICPayに対応

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<「BONGEN COFFEE」のロゴ。書体はきりっとしつつ、ポップな絵柄が親密な雰囲気を呼びこむ。お客さんの受け止めも思い計るバランス感覚、気遣いが店の顔に現れている>

仕事場から歩いて数分の銀座2丁目(一般には東銀座と呼ばれる地域)の路地に「BONGEN COFFEE」があるのを知ったのは、オープンして半年ほど経ってから。カードや携帯電話をかざして支払いができる「QUICPay(クイックペイ)」の対応店が仕事場近くにないかインターネットで検索して偶然、存在に気づいたのです。「BONGEN(盆源)」という屋号と、ホームページ上の盆栽をかたどったロゴに興味を覚えた私はすぐに足を運びました。そして、ここが限られた空間に美意識を凝縮した、小さな店であることを意外に感じたのです。東京において電子決済サービスを利用可能なのはコンビニやチェーン店など日本中に展開する店舗ばかりです。ですから、このような個人的嗜好の表れた店が電子決済に応じている体制に驚き、なるべく現金を持ち歩きたくない自分は稀少にして好みの一軒に、仕事場近くで出合えて心から喜んだのでした。店主の白石 航さんは自身もふだん小銭を出すのが面倒で「QUICPay」をよく利用しているそう。電子決済の便利さを実感しているからこそ、お客さんが支払いにストレスを感じないよう「SUICA」や「PASMO」と合わせて導入したと言います。

ひたすらくつろげる空間

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<暮れなずむ路地に、浮かびあがる美しい空間。開店後、内装を担当した70歳くらいの職人がコーヒーを飲みに来て「今まで造ってきたお店のなかでもここはトップクラスに楽しい現場だった」とつぶやいたそう>

無駄を極限まで省き、簡潔な美を追求した茶の間あるいは能舞台。それが「BONGEN COFFE」で初めて過ごしたときの第一印象でした。目に入るのは芥子(からし)色の土壁、モルタル仕上げの床、岐阜産の銘木を用いた格天井(ごうてんじょう)、焼杉の黒いカウンター、盆栽の背景となる、繊細な色調の漆喰壁。城造りも行う職人が手がけた内装は熟練の手わざによって仕上げられています。左官と大工の伝統技術にモダンな感覚を融合した空間は4人掛けのベンチと小さな棚が設えられているだけ。潔いほどすっきりとしているけれど、冷たさはなく、余白の多い壁や床を眺めていると、ホッと心がなごんでいきます。「純粋にリラックスできるよう物を置いていません。コーヒーがおいしいのはもちろん、空間にも焦点を当てたお店にしたかったんです」と白石さん。ベンチは金具、棚はビスすら目に入らないようにしたというから、引き算を極める美意識は徹底しています。もてなしの心と質の高い設えに包まれてコーヒーを愉しんでいると、それまで抱えていた雑念が霧散していきます。私はここで憩うたびに、気持ちがリセットされ、午後の仕事がはかどるようになりました。

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<ベンチ正面の土壁に設えた棚。オリジナルのトートバッグと、保温性のあるウォールマグがそっと置かれている>

盆栽に惹かれて

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<スポットライトが当たる盆栽は毎週入れ替えている。より際立つよう、白石さんは白無地の目立たぬ服をまとう>

中学生くらいのときから盆栽に惹かれていたという白石さん。樹齢を重ね、なお大切にされ、ずっと残る松に魅了され、その姿をいろいろな角度から眺めるのが好きと言います。とくに樹齢が100年を超えるものは人間よりも大先輩の風格を備え、その迫力に圧倒されるそう。5~6年前から盆栽を買い始めたときも、長く愛情を注いで育てられてきた樹齢のあるものを最初から選んだとか。人に育まれた盆栽が内包する物語や姿かたちの質素で静かな気配に心打たれる白石さん。店造りも盆栽のありように寄り添っていて、長年培ったものを持つ職人の仕事を感じながら、ホッと一息つけます。

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<樹齢100年を超える盆栽。存在感に目と心が奪われる>

木挽町で商いをする悦び

「親しみと優しさを前面に店を開くなら、ここ以外の場所は考えられませんでした」と白石さん。店のある旧木挽町の静かな路地は人通りが少なく、住居の建物が点在する環境。私はその穏やかなローカルムードに惹かれ、よく歩いているのですが、商売の立地としては余計なお世話ですが、ちょっと心配してしまいます。実際に、近くで印刷業や画廊を営んでいた人、バイオリン教室をしている先生が寄って来ては「ここで大丈夫?」と気にかけてくれているそうです。そう声を掛けたくなるのは、朝から夜8時まで、とくに界隈を歩く人が少なくなる週末、祝祭日もお盆休み期間も休まずに、白石さんがひとりで店に立ち続けている姿に心打たれるからだと思います。私は店に顔を出せない日や、家に帰る途中、今も白石さんはあの場所でコーヒーを淹れているんだなぁと、ぼんやりと思い浮かべるようになりました。「毎日、誰かしら顔見知りの人が来てくれますから休めなくなってしまいました」と笑う白石さん。ひたむきに地域の人に親しんでもらおうと頑張る様子にエールを贈りたくなるのです。「昔の八百屋や駄菓子屋のように温かみがあり、お互いが感謝の気持ちをもって歩み寄れる店になれたらいいですね」。人と人が触れ合う一昔前の個人商店の魅力を知る世代には心に響く言葉。ますます応援したくなりました。

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<店の近くには柳の並木道がある。妖しく揺れる葉が情趣たっぷり>

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<店の斜めに昭和5年築の銅板張りの家が立つ。地域は仕舞屋(しもたや)に住んでいる人も多く、そのひとりで93歳の女性は白石さんと世間話をするのを楽しみにしている。「彼は私のボーイフレンドなのよ」と顔をほころばせた>

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<93歳の女性からプレゼントされた花を飾る。旧木挽町の女性は何歳になっても色気を失わない>

優しいコーヒー

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<ブレンドは3種、各530円。フルーティなケニア、すっきりしたブラジル、コクと苦味があるコロンビア。それぞれの産地のコーヒー豆をベースに、自分の求める味に近づくよう、いろいろな産地の豆を組み合わせている>

店を開く前、コーヒーとコーヒーを飲める空間が好きで、昔ながらの純喫茶やモダンなコーヒースタンドまで、さまざまなタイプの店で空間の空気感も含めて楽しんできた白石さん。専門店で修行することもなく、どういうコーヒーを提供するか研究してきたといいます。有名店の出身というだけで、先入観をもたれてしまいがち。その「雑音」が嫌で、独学の道を進んだとか。そうして、店のテーマに合うものを探って行き着いたのが、雑味がなく、すっきりしていて飲みやすいもの。その味わいを基軸にブレンドしたコーヒーは豆の個性を強く出し過ぎず、マイルドな味わいにアレンジしています。朝、杖をついて寄ってくださる年輩男性は胃が弱くてコーヒーが飲めない人だったのに、自分が煎れるコーヒーは砂糖も入れずに味わっていただいていますと白石さんはじつに嬉しそうに話します。

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<「ケメックス」のコーヒーメーカーでドリップ。同社製品は持ち手に木が巻かれているタイプが有名だが、その木があると目に映るものが1つ増えてしまうからと、木のない透明タイプを選んだ。ミニマルの追求は徹底している>

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<ラテやエスプレッソはイタリア、ラ・マルゾッコ社のエスプレッソマシンで抽出。スタイリッシュなデザインのマシンのため、赤色のタイプが目立つ位置に据えられることが多い。しかし、白石さんは控えめな白色を選んだうえ、目になるべく入らないように置いている>

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<カフェラテ570円。泡立てたミルクで模様を描くラテアートも余計なことととらえ、あえて施さない>

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<カップのパッケージ。温かみのある絵がワンポイントになっている。店内に空席がないとき、私は旧築地川のほとりにある公園までテイクアウト。柳の木陰で風雅なひとときを過ごしている>

幻のコーヒー

ホッとくつろげる一杯のために、余計なモノコトを徹底して省いている「BONGEN COFFEE」。インパクトある演出を避け、際立った特徴をあえて謳わない姿勢に私は品位を感じ、黒子に徹する姿勢が旧木挽町の風土にとても馴染んでいるように思います。かといって無個性というわけではなく、ホテルなどでは一杯6,000円もするスペシャルなドリップコーヒーも用意されています。たとえば『コピルアック』というコーヒー。これはジャコウネコが熟したコーヒーの実「コーヒーチェリー」を食べて排出した豆の部分をきれいに洗浄する希少なコーヒーです。口に含むなり驚いたのは澄み渡る透明感。すっきりしたクセのない味わいを極めた優しい味わいなのです。飲む前は、珍しいコーヒーを扱うことで他店との差別化を狙っているのかなと思いましたが、特別な一杯として加えたことにも、定めたテーマに対しての筋がきちんと通っていたのでした。

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<澄んだ味わいに驚く『コピルアック』2,000円>

コーヒーと合う塩むすび

スペシャルなメニューといえば「おむすび」に言及しないわけにはいきません。コーヒーとの組み合わせを不思議に思いながらいただくと、すぐさま合点がいきました。優しくすっきりした味わいのコーヒーとおむすびが互いのおいしさを深め合っているのです。具を入れない簡素な「塩むすび」であることも調和をうながしているのでしょう。私はこのシンプルなおむすびに魅せられ、昼食としてよくいただくようになりました。私はコーヒーと同じく、やみつきになる奥深い味わいの虜になっています。日常のそばに、この一軒があってよかった。その幸運な縁(えにし)に深謝しています。

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<「おむすび」は「塩」、「梅かつお塩」、「わさび塩」の3種。各200円。テイクアウトは不可>

BONGEN COFFEE 盆源珈琲

住所:東京都中央区銀座2-16-3
電話: 03-6264-3988
営業時間: 10:00~20:00 無休
HP:https://ginza-bongen.jp/

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