たびこふれ

イギリス家庭のお菓子作りを日本で伝える。教室も販売も大人気の東麻布「モーニングトン・クレセント」

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記事投稿日:2018/04/01
最終更新日:2018/04/01

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「モーニングトン・クレセント」を営むステイシーさん。マンチェスターに近いイギリス北部のストックポート出身

イギリスの家庭でつくられる素朴で紅茶に合う焼き菓子。有名なスコーン以外にも、じつはさまざまなお菓子が生まれ、愛されてきました。そんなホームベーキングの焼き菓子づくりの教室が東麻布で開かれています。募集するとたちまち定員になり、月2回ほどお菓子を販売する「オープン・ベーカーリー」の日は開店前から行列ができます。イギリスのお菓子が東京で人気の理由を知りたくて、教室とショップ「モーニングトン・クレセント」を主宰するイギリス人、ステイシー ウォードさんにお話しをうかがいました。

日本大好き!

春は庭が桜の花びらで染まる家で育ったステイシーさんは、幼いころテレビで日本のお花見を目にしてイギリスとの共通点を感じ、「いつか行ってみたい」と憧れたといいます。大学で美術を学び、書道文字の絵画的な美しさに魅せられると日本への興味が深まったそう。17年前(2001年)には夢を実現し、日本に移住。高校で英語教師の仕事に就いたあと、都内でウェブデザインと広告制作の会社で勤め、日本語能力試験1級にも合格。仕事は楽しかったけれど、もっと情熱を注げることを毎日したいと、日本ではよく知られていないイギリスの伝統的な焼き菓子をつくり、伝える仕事を目指します。2011年のことでした。

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キリストの復活を祝う春のお祭、イースターの縁起お菓子「ホットクロスバンズ」をつくるステイシーさん

イギリス人と日本人は似ている

開業に向けて3年間準備したステイシーさん。ビザ取得や食品衛生責任者の資格のことなど、外国人が東京など日本でビジネスを始めるうえで必要なことをひとつひとつクリア。その過程をブログ「a little shop in tokyo」に綴り、情報公開してきました。ステイシーさんと向き合うと、控えめながら向上心や探究心のパッションが感じられ、元気をもらえます。そんな熱い想いが"モンクレ"に多くの人を引き寄せているのかもしれません。

「イギリスと日本は長い歴史をもつ島国。人々の性格も丁寧で冷静。友だちになるには少し時間がかかるかもしれない。でも、いったん友だちになると、とても親しくなれます。趣味や仕事など何でも真面目に取り組むところも共通。心が似ているように思います。教室の生徒さんの知識もすごくて、イギリス人の知らない英国のことを教わっています。毎日、新しい発見があって楽しいです!」とステイシーさんは目を輝かせます。

*ブログ「a little shop in tokyo」(英語) http://alittleshopintokyo.blogspot.jp/

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東麻布は落ち着いた雰囲気の町。昔ながらの酒屋さんが並ぶ通りに「モーニングトン・クレセント」があります

ブラムリーアップルが大事

イギリスのお菓子づくりに欠かせない材料が、酸味の強いブラムリーアップルという品種。ホームベーキングのお菓子は日本で気軽に買える材料でつくりたいと考えるステイシーさんは、この品種が日本にもないのか時間をかけて調べ、北海道で栽培されていることを突き止めました。それで代引きで注文したものの、ジャムかジュースに加工されてくると思っていたといいます。イギリスにはクール宅急便が存在していませんので、フレッシュな果物がそのまま発送されてくるなんて想像できなかったのです。「受け取ったとき感激し、久しぶりにイギリス風のアップルパイをつくったんです」。

実家の庭の木に実ったリンゴで母と一緒につくった絶妙に甘酸っぱいアップルパイ。記憶に留まるおいしさはこのリンゴでなければ再現できなかったのです。その後、このリンゴを愛する日本のグループ「ブラムリーファンクラブ」と出会い、長野の農家を紹介してもらうなど、ステイシーさんは人生が大きく展開していったといいます。放し飼いニワトリの卵を求めて房総の養鶏家に連絡し、取引を相談したときには、『ブログ(a little shop in tokyo)を読みましたよ! ぜひうちの卵を使ってください』と快諾され、驚いたそうです。ステイシーさんが積極的におこなうインターネットでの情報収集と発信は、仕事につながる、よい縁を招いているようです。

*ブログ「ブラムリーファンクラブ」 http://blog.livedoor.jp/apple5555/

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長野県小布施で栽培されるブラムリーアップル

イギリスの焼き菓子の魅力

ヨーロッパのお菓子といえば華やかなフランスのお菓子を思い浮かべる人が多いでしょう。「フランスの焼き菓子はとても素敵でゴージャス。おいしくて装飾もきれいで私も大好き。でも、これはあくまで商品です。イギリスの焼き菓子は商品にするためではなく、家族のためにつくるもの。プディング(食後に食べる甘いものの総称)などを大きくつくって、みんなで切り分けて食べます。クリスマスやイースターのときだけにつくる季節のお菓子もあって、お菓子の背景に歴史や文化が感じられる。こうした温かな雰囲気のお菓子に皆さんが興味をもつかなと思い、ブランブリ―アップルの入手先が日本で見つかってから、いよいよ教室とお菓子の販売を始めることにしたんです」。

そんなステイシーさんに多く投げかけられる質問が「どこかの料理学校で勉強したの?」。イギリスの焼き菓子はフランスの焼き菓子と違って学校ではほとんど勉強できません。学べる場は家庭です。ステイシーさんも自分の家でお菓子づくりを自然と覚えてきました。

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約200年前のヴィクトリア朝時代からレシピが継がれてきた伝統菓子の書籍

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翌年のイースターまで「ホットクロスバンズ」を一年間、時計に挿して飾っています

伝統を大事に

ステイシーさんが大事にしているのは「伝統を守りつつ、しっかりおいしくつくること」。イギリスそのままの味を目指したいから、食材の選択と配合がほぼ定まった伝統的なレシピを重視しつつ、多少のアレンジも試し、つくり比べをした末、自分がよりおいしいと思えるものを頑張ってつくっていきたいと話します。だからでしょうか、いくつかお菓子をいただいたのですが、ホームベーキングならではの温もりがあふれながら、しっとりした食感、甘さと酸味のバランス、ビターなアクセントなど、多様な味わいが複雑に調和していて、私には素朴というより、洗練のおいしさが感じられました。伝統を踏襲し、独自のものをと主張することはない。だけど、もっと幸せな気持ちになれるものをと、そっと工夫する。ステイシーさんの向上心、思慮深さをお菓子は静かに伝えてくるように思います。

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イギリスの一般家庭では11時ごろや午後など小腹が空いたときや食事のあと、紅茶と自家製かスーパーで買う焼き菓子でティータイムを日々楽しんでいるとか。「アフタヌーンティー」はホテルや外のティールームでの特別な体験。懐石料理のように雰囲気を味わうもの。たくさんのお菓子が載る三段スタンドを持つ家庭はほとんど無いそうです

お菓子教室で伝えたいこと

ステイシーさんのお菓子教室にはプロのシェフから、ミキサーを触ったこともない超ビギナーまで幅広い層が参加。あらゆるスキルの人がつくれるのがイギリスの焼き菓子です。最初は緊張していた生徒さんも最後はおいしくできた喜びをみんなでワイワイと共有。そんな雰囲気に魅せられ、遠くは沖縄や長崎、仙台から通う人もいるとか。教室では毎回1種類のお菓子をつくり、生徒さんは完成したお菓子1ホールを持ち帰れます。「イギリスのお菓子が好きになると、ポケモンみたいに、あらゆる種類のお菓子を食べてみたい、つくってみたいとなるようです」。

おのずとあれもこれもと参加したい人が増え、定員6名の教室の予約が人気の内容は受付開始から1分で埋まってしまうことも。イギリスのお菓子は誰にでもつくれることをできるだけ多くの人に伝えたいから、スタッフを育て、バランスをはかりながら教室の機会を少しずつ増やせるように頑張ります、とステイシーさんは次のステップに考えをめぐらせていました。

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「バテンバーグケーキ」のつくり方を教えた教室の様子。教室の参加申し込みはこちらのホームページから

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1884年にロイヤルウェディングの記念につくられたと伝わり、イギリス人の誰もが知っている「バテンバーグケーキ」

お菓子は不定期に販売

ステイシーさんの活動は教室がメインですが、月に2回ほど不定期に伝統的なイギリスの焼き菓子を販売する「オープン・ベーカリー」を開催。いつ催し、どんなお菓子が並ぶかはホームページやSNSで情報を発信しています。当日は開店から買えるまで1~2時間待ちの長い行列となる場合も。並んでいるうちに完売ということもあるようですから、開店前、早めに到着することをお勧めします。以下、多様なバリエーションのごく一部、取材時につくられていたお菓子のいくつかを紹介します。

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ヴィクトリア女王が好んだバニラ風味の「ヴィクトリアスポンジケーキ」。これは生クリームとジャムがはさまっていますが、ラズベリージャムだけのオーソドックスなパターンもある、クラシックでシンプルなお菓子

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ほとんどのイギリスの家庭が有塩バターを付けて食べる「スコーン」。焼いたその日のうちに食べるのがおいしい

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「コーヒー+クルミのケーキ」。クルミの食感とコーヒーシロップとコーヒー+ブラウンシュガーのバタークリームの相性が抜群

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イギリスでは戦争のとき、砂糖の代わりに人参など甘さのある野菜をケーキに入れ、「キャロットケーキ」が誕生したとか。中にクルミかピーカンナッツ、レーズン。上にはクリームチーズ、ローストナッツ、スライスアップルが載ります

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「レモンドリジルケーキ」。レモン汁をたっぷりかけたスポンジはしっとりと深いレモンの味わい。紅茶にぴったり!

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「ベイクウェルタルト」。イギリス北部の美しい町ベイクウェルで1820年代ごろに生まれたお菓子。サクッとしたタルト生地に甘酸っぱいラズベリージャムが合わさり、レモンをアクセントに用いたアーモンドケーキです

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イギリス人なら懐かしいと思うお菓子「フォンダン・ファンシー」。かわいらしくて、とてもおいしい

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「ブラムリーアップルのクランブルパイ」。甘さと酸味のバランスが絶妙な特別なお菓子です。本場イギリスのアップルパイには、紅玉より酸味がしっかりしている、このリンゴが間違いなく入っています

イースターのお菓子をいただきました!

取材後、私は「オープン・ベーカリー」の日、開店1時間前から行列に並び、イースターのお菓子として知られる「シムネルケーキ」と「ホットバンズクロス」を購入しました。そして、近くの公園で撮影後、早速、焼きたてをいただきました。ボリューミーで、ひとつでも食べ応えがあります。しっとりとした生地の食感、甘さのバランスも自分好みで、食後にしばらく幸福な感覚が余韻として残りました。どちらのお菓子もイギリス人にはとても意味深い存在で、イースターが近づくと食べたくてたまらなくなるそうです。「シムネルケーキ」はもともとは母の日(マザーリング・サンデー)に女の子が焼いて母にプレゼントする特別なケーキ。11〜12個のボール(1ホールあたり)がケーキの上に載せられるのですが、このボールはキリストの12使徒を表しているのだとか(唯一、キリストを裏切った使徒ユダを置きたくないと考える人は11個のみ飾る)。こんなふうに、お菓子の背景に文化があるのが、とても興味深く、ほかのお菓子のストーリーも知りたくなりました。これからも機会があれば、たとえばお菓子づくりの教室にも参加し、ステイシーさんからイギリスのいろいろなお菓子のことをお聞きしていきたいと思います。

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イースターのフルーツケーキ「シムネルケーキ」(左)と「ホットクロスバンズ」

インフォメーション

店名:MORNINGTON CRESCENT(モーニングトン・クレセント)
住所:東京都港区東麻布2-14-3 カサド並木101
電話:03-6441-0796
オープン・ベーカーリーの開店時間:11:00~売り切れ次第
HP:www.mornington-crescent.co.jp
Facebook ユーザー名:MorningtonCrescentTokyo
Twitter ユーザー名:MonCre_Tokyo
Instagram ユーザー名:morningtoncrescenttokyo

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