スイスの伝統自然甘味料・ビルネル(Birnel)

砂糖に代わる甘味料というと、ハチミツやメープルシロップ、そして最近ではオリゴ糖やアガベシロップなどの名前が挙がる。日本には米飴(こめあめ)や水飴という伝統甘味料があり、砂糖が普及する以前には広く使われていたそうだが、スイスにも類似の伝統的な甘味料がある。それが、今回ご紹介するビルネル(Birnel)だ。

完全植物由来の伝統ナチュラルフード

ビルネルはビルネンディックザフトBirnendicksaft(=梨の煮詰め液)とも呼ばれ、名前からもわかる様に、その原料は梨。細かく刻んだ梨の実から糖分を含んだ果汁を絞り出し、それを煮詰めて作られる。梨果汁以外の添加物(砂糖、着色料、凝固剤、保存料など)は全く使われていない、完全植物由来のナチュラルフードだ。ビルネルは飴色がかった茶色で、緩めの水飴状をしている。見た目や質感はハチミツに近く、現にビルネルをビルネンホーニッヒBirnenhonig(=梨ハチミツ)などと呼ぶこともある。しかしスイスでは、「ホーニッヒHonig(ハチミツ)」の名称はミツバチが作る正真正銘のハチミツにしか使用できないので、これはあくまでも通称。商品としては「ビルネル」もしくは「ビルネンディックザフト」の名前で店頭に並んでいる。

ビルネルに使われる梨は、ホッホシュテミガー・バオムhochstämmiger Baum(=背が高い木)と呼ばれる、いわゆる近代的な品種改良がされていない、樹木の背丈がとても高い古い種類の果樹に生るもの。

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<木のそばにいる人間やトラクターと比較すると、ホッホシュテミガー・バオムの果樹の背がどれぐらい高いのかがわかる>

ホッホシュテミガー・バオムの梨やリンゴの木は、スイス農村地域の伝統的な美しい風景に欠かせない。しかしこの手の古種果樹に生る実はおおよそ小ぶりで、しかも果肉が少なかったり硬かったりするので食用には向かず(もちろん食べられるけれど、食べる果物としての消費者の需要には応えられない)、基本的にその果汁を利用するモストオブストMostobst(=飲料用果実)となる。

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<私の家の農地にあるホッホシュテミガー・バオムの梨の木から収穫した果実。手のひらに2つ載ってしまうほどの可愛らしい大きさだ>

スイスのホッホシュテミガー・バオムについて興味がある方は、2013年5月に寄稿した私の記事「梨の木のある風景」をご覧いただきたい。

ビルネルを使い続ける意義

砂糖がまだ一般的ではなかった(もしくは、あっても高価で手が届かなかった)時代には甘味料として使われていたビルネルだが、今日のスイス人の日常生活ではお目にかかる機会はあまりない。強いて言えば、ハチミツの代わりに朝食のパンに塗ったり、ヨーグルトやミュースリに入れたりするぐらいだ。しかし、砂糖やハチミツが手軽に入手できるようになった今でも、ビルネルは決して「廃れて」はいない。

ビルネルが今も現役で頑張っている大きな理由のひとつに、ビルネルを購入することで社会貢献活動ができるということがある。スイスには数多くの慈善団体があるが、そのひとつである「ウィンターヒルフェWinterhilfe」という団体が、1952年からビルネルを作って販売し、その売り上げを活動資金にしているのだ(注:普通のビルネルは大手スーパー等でも購入できるが、ウィンターヒルフェの活動に貢献できるビルネルは、任意の小売店や個人商店でのみ購入可)。また、ビルネルを使う・買うことで、前出の伝統的なホッホシュテミガー・バオム果樹の保護及び持続的な有効利用-即ち自国の農業&自然環境への継続的な援助にも間接的に貢献することになる。更に最近では、ヴィーガン(完全菜食主義)の方などが、ハチミツの代わりとして植物由来のビルネルを求めるという需要もある。もちろん伝統食品としての用途も健在で、ビルネルは中央スイス・ルツェルン州のクリスマス銘菓「ルツェルナー・レーブクーヘンLuzerner Lebkuchen」に欠かせない材料でもある。スイスならではの伝統食材ビルネル、機会があったら是非ご自身でお試しいただきたい。ルツェルナー・レーブクーヘンについては、レシピなどを含めて今年の後半に記事でご紹介する予定です!

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Asami AMMANN-HONDA

スイス東部トゥールガウ州の農村在住。元書店員、現在は兼業主婦(介護補助士&日本語教師&日独英通訳)。趣味はスポーツ・園芸・料理、専門は音響映像技術。

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