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世界で一番急な勾配を登るケーブルカー「シュトースバーン (Stoosbahn)」がスイスに開通!
昨年の12月16日(土)、中央スイス・シュヴィーツ州のシュトースStoosという場所に、世界で一番急な勾配を登るケーブルカーが開通した。計画開始から完成・開通までに14年かかったこのケーブルカーについて、今回詳しくご紹介したい。
ケーブルカーは村民の命綱
シュトースは、中央スイス・シュヴィーツ州の風光明媚なシュトース・ムオタタールStoos-Muotatalと呼ばれる地域に属する小さな山岳村。
村の人口は約150人だが、その10倍以上に当たる約2200人分の宿泊キャパシティ(ホテル、貸し別荘など)があり、特に冬のスキーリゾートとして知られている。
<眼下には美しいフィアワルドシュテッテ湖Vierwaldstätterseeが広がる>
村は標高約1300メートルの高台にあり、麓の谷から道路が一応通ってはいるものの、バスなどの公共交通機関はない。また、シュトース村は車両の乗り入れが原則として禁止されている「アオトフライ Autofrei(=車無し)」村のため、麓と村を結ぶケーブルカー・シュトースバーン Stoosbahn(「シュトース鉄道」の意)が事実上唯一の足となっている。ケーブルカー自体は1933年から運行されているのだが、80年間で設定されていた運営権の終了と設備の老朽化に伴い、2003年頃から新しいケーブルカーの建設が模索されていた。以降約10年間に渡って幾度もの調査や検討会議・住民投票などが繰り返され、2012年の9月に晴れて定礎式(独語では「シュパーテンシュティッヒ Spatenstich」と呼ばれる)が行われた。そして翌年から本格的な建設工事が始まり、昨年の12月にめでたく完成・運行開始となったのだ。
最大斜度110パーセントの急勾配を斬新なアイデアで登る!
この新しいケーブルカーにはいくつもの特徴があるが、一番の「売り」は、最大斜度110パーセントという世界一の勾配。
勾配の急さで言うと、実はオーストラリアのシーニック・レイルウェイScenic Railwayの方が急(最大斜度128パーセント)なのだが、シーニック・レイルウェイは技術的にはケーブルカーではなく「斜行エレベーター」に当たるそうで、ケーブルカーとしてはこのスイスのシュトースバーンが現段階では世界で一番だ。路線の全長は1740メートルで、744メートルの標高差を約5分間で登る。
写真を見て、車両の形状が面白いのに気づかれただろうか?鉄道車両というといわゆる長四角の形が普通だが、新シュトースバーンは各車両が輪切りのロールケーキのような形になっている。急斜面を登る一般的なケーブルカーでは斜度に合わせて床が斜めになっているのが普通で、乗り降りを含めて乗客は車内で妙な角度での乗車を強いられるのだが、新シュトースバーンではこれを斬新なアイデアで解決。輪切りロールケーキ形の車両が外枠(半円形の受け皿のような形状)の上で斜度に合わせて自動的に回転することで、車内の床が常に平行に保たれているのだ。麓および山頂駅のホームも平らなので、ベビーカーや車椅子での利用はもちろん、スーツケースなど大きな荷物の持ち運びも容易になっている。
この新シュトースバーンは、スイス鉄道SBBが管轄する公共の交通機関網として認知されているので、SBBの一日乗車券やGA(=ゲネラル・アボ、公共交通機関の年間パス)&ハルブタックス HalbTax(半額カード)が有効。もちろんスイス・トラベルパスも有効なので、パス所持者は追加料金などを支払わずに乗車することができる。新しいケーブルカーの乗車と合わせて、日本ではまだあまり知られていないシュトース・ムオタタール地方の魅力を発見してみてはいかがだろうか。
シュトース・ムオタタール地方Region Stoos-Muotatalのオフィシャルサイト(独語のみ)
https://stoos-muotatal.ch/
シュトースへのアクセス
チューリッヒHB駅からスイス鉄道SBBのインターレギオ線(IR)等で約50分(運行ダイヤによって途中駅のツークZugもしくはアート・ゴルダウArth Goldauで要乗り換え)のシュヴィーツSchwyzで下車後、バス1番(ムオタタールMuotathal方面行き)に乗って約17分の停留所シュトースバーンStoosbahnで下車。バス停前すぐのケーブルカー麓駅からケーブルカーに乗って5分の山頂駅で下車。
ケーブルカー料金:大人往復22スイスフラン、半額カード所持者および小人は11スイスフラン。SBBの一日乗車券、GAおよびスイス・トラベルパス有効(追加料金等不要)。
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Asami AMMANN-HONDA
- スイス東部トゥールガウ州の農村在住。元書店員、現在は兼業主婦(介護補助士&日本語教師&日独英通訳)。趣味はスポーツ・園芸・料理、専門は音響映像技術。