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世田谷で日本中の美しい手仕事良品に出会い、買う
北は東北、南は沖縄。日本各地の美しく実用的な工藝品を販売する店「手しごと」が世田谷区尾山台にあります。尾山台は近くの自由が丘の賑わいとは少し距離を置いた落ち着きのある住宅街です。東急大井町線・尾山台駅から伸びる通りを歩くこと約3分。
「手しごと」の扉を開けると、テーブルや棚に焼きもの(陶器・磁器)、吹きガラス製品、竹や樹皮でできたカゴ、パン皿の木工品などの工藝品が目に入ってきました。それらは地域の土や植物、特有の自然素材を手あるいは火の力で成形したもの。伝統的な形、製法に沿って職人が作る実用品です。化学素材の工業製品、使い捨ての大量生産品があふれる現代の日本に、いまだ健やかで心安らぐ手仕事の日用品が多く存在している。初めて店を訪ねた人はその事実にきっと驚くのではないでしょうか。
奇抜な形や色、模様で個性を前面に主張する作家的な作品はこの店にはありません。昔ながらの佳い形を大切に受け継ぎつつ、必要ならば現代の用途に合うように改良を加える。
大事なのは使いやすく、長く愛用でき、使い込むほどに美しさを増していくこと。日々の暮らしがより心地よく楽しくなるもの、住居空間に彩りを与えてくれるもの。そんなふうに職人が使う人を想いながら、熟練の技術で誠実に制作したものが選ばれています。
たとえば焼き物では、幅広い料理に応じた器に窯特有の模様が品よく施されています。
シンプルでいて温かみを感じられ、しかも求めやすい価格。観光地のお土産店や商業施設でこのような焼き物を見つけることは案外できないでしょう。自分の住む町、都会地あるいは旅先でなかなか心動かされる物が無いという人はこの店を目指すことをお勧めします。
無名の職人が地域の人たちのために丈夫で長持ち、平穏無事な形で作る手仕事の良品は結果として美しさを宿すことが多く、これらの民衆的工藝品を柳宗悦という人は「民藝」と表しました。柳が全国で美を見出した工藝品は目黒区駒場の「日本民藝館」に収蔵・展示されていますが、柳の美の視点に沿った工藝品が「手しごと」には選び抜かれて集まっているのです。民藝とは何か?どのようなものが美しいのか、使いやすく長く使いたくなるのか。知識もなく、選び方もわからないという人にも足を運んでいただきたい。この店はそうした考えで物を選び、揃えているそうです。
私が店のディスプレイを見渡して気づいたことがありました。それは店で扱う物がただ眺めているだけでも心地よい情緒をまとっているということ。訪問日は盛夏でしたのでガラス製品が多く置かれていたのですが、ピッチャーにはモダンな色彩の花が挿され、窓辺には簡素な棚が設けられ、そこにガラス製品が並べられていました。ガラスの涼しげな透明感が際立つ展示手法やガラスの器の活用例はそのまま真似したくなります。どうしたら物がより魅力的に思えるのか心を砕いた展示にはインテリアの参考になるヒントがたくさん散りばめられていると思いました。
この店は企画展を頻繁に行なっているのも大きな特徴です。例えばコーヒーなど食べ物をテーマにした器を集める。春にはカゴやザル、ベーシックな食器など新生活に合う物を揃える、といった具合。どんなシーンにふさわしいかテーマに合わせて物が提示されるため、使う側としてはその物が自分の生活の場にある情景を豊かにイメージできて、物がいっそうと魅力的に思えるはずです。
また、洋食主体の生活に便利な物を職人に注文し、特別に制作してもらうことがあるのも特色。訪問時は秋田の吹きガラス職人・伊藤嘉輝さんのガラス製品を多数展示していたのですが、そのなかにはシリアルなどを保存できる密閉性の高いガラス容器、冷製スープを満たす深いガラスの皿、冷蔵庫の保存に便利な蓋付きピッチャーといった特注品も含まれていました。
この特別な注文は作り手との厚い信頼関係の構築がまず大前提となります。その上で、どんな形が佳いのか、使いやすいのか、職人の感覚や技術も含めて見極め、検討する必要があります。「手しごと」のスタッフは自身のライフスタイルから、こんな物があったら役に立つと発想し、私も欲しくてたまらない製品に見事、結実している。とても驚き、深く感服させられたのでした。他にはない美しい日用品を買える、東京はもちろん世界的にもスペシャルな一軒だと思います。
"民芸のある暮し" 手しごと
住所:世田谷区等々力4-13-21 等々力市川ビル1F
TEL: 03-6432-3867
営業時間:11:00 〜 19:00 火曜定休(祝日を除く)
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ヤスヒロ・ワールド
- 東京佃島生まれ育ちの江戸っ子。旅行ガイドの編集者。
フェイクは苦手ですが、ケイク(ケーキ)は大好物。