モーツァルトが眠るザンクト・マルクス墓地


音楽の街として、多くの音楽家が生きたウィーンには、音楽家の数だけお墓があります。神童と呼ばれたモーツァルトも、ウィーンを舞台に活躍した数々の音楽家の一人ですが、彼の眠るザンクト・マルクス墓地は、18~19世紀のままで時間が止まっている、独特の雰囲気が立ち込めています。

AT_20170801_1.jpgザンクト・マルクス墓地

モーツァルトの生涯と死の謎

幼いころから3度演奏旅行でウィーンを訪れ、マリア・テレジアやヨーゼフ二世の前で演奏し、神童と呼ばれたモーツァルト。その後25歳の頃に、故郷ザルツブルクからウィーンに出てきてから10年間ウィーンで暮らし、35歳でその短い生涯を閉じます。

生前には、数々の交響曲やオペラを生み出し、ハプスブルク家の君主の前で御前演奏し、天才音楽家の名をほしいままにしたモーツァルト。しかし、彼の死と死後は謎に包まれています。

モーツァルトの死因に関しても、病死から他殺説まで多くの議論が重ねられていますが、お墓の位置も、特定されていません。ウィーン郊外にあるザンクト・マルクス(St Marx。現地の発音では「サンクト・マルクス」が近い)の共同墓地に葬られのですが、埋葬時に妻すら立ち会わなかったため、後から場所を特定することができなくなってしまっているのです。

AT_20170801_2.jpgザンクト・マルクス墓地の入り口の門

モーツァルトの埋葬地「嘆きの天使」

朽ちた墓石や、苔むした天使の像の間を、なだらかな散歩道が続きます。この坂を上ったところに立て札があり、左に曲がったところに、モーツァルトの埋葬された場所とされるところに、「嘆きの天使」像があります。また、他の音楽家たちが眠るウィーン中央墓地にも、別のモーツァルトの記念碑が建てられています。

AT_20170801_3.jpgモーツァルトが埋葬場所と推定される場所に建てられた「嘆きの天使」像

ぜひ、像の前に立ち、この独特の雰囲気の墓地の中で、モーツァルトの音楽とその死の謎について考えを巡らせてみてっください。

ザンクト・マルクス墓地の歴史

モーツァルトの墓参りにこの墓地を訪れる人も絶えませんが、ぜひ足を運ばれたら、「嘆きの天使」像だけではなく、墓地全体を見まわしてみてください。ヨーロッパの墓地は通常公園の様に広々としていて明るいものですが、このザンクト・マルクス墓地は、一風変わった不思議な雰囲気に包まれています。

AT_20170801_4.jpg「嘆きの天使」像から更に墓地の奥

その理由は、この墓地自体が現在では埋葬に使われていない、「墓地の野外博物館」のような特徴があるからです。

時代は18世紀にさかのぼります。ちょうどモーツァルトの時代のハプスブルク家当主ヨーゼフ二世は、ウィーン市内の病気の蔓延を防ぐため、墓地を郊外に移すことを決定します。こうしてできた5つの墓地のうちの一つがこのザンクト・マルクス墓地で、1784年(モーツァルトの死の7年前)から埋葬に使われ始めます。ヨーゼフ二世は、葬式を華美に執り行いすぎていたウィーン人に対し、質素な葬式を制度化します。そのため、墓石も防腐処理もなく、無造作に埋葬される遺体が増えたのが、この時期です。

AT_20170801_5.jpgザンクト・マルクス墓地の打ち捨てられた墓石

モーツァルトの埋葬場所が判明していないのは、モーツァルトが極貧のうちに亡くなったからではなく、当時の最新の埋葬に関する規律が、このように規定されていたからなんです。実際死亡時にモーツァルトが困窮していたかというと、戦争による一時的な通貨の暴落によって以前の生活を保てなくなった時期がありましたが、その後経済状態は再び改善し、死の直前には他の音楽家より高収入だったと言われています。

倹約好きのヨーゼフ二世の改革のど真ん中で、埋葬場所が謎に包まれてしまったモーツァルトですが、その後、この墓地は1874年まで埋葬に使用されました。その後さらに郊外に、巨大な中央墓地が建設されたことで、ザンクト・マルクス墓地は墓地としての役割を終えます。

AT_20170801_6.jpg散歩道の両脇に、苔むした墓石が立ち並ぶ

現在この墓地は、「記念公園」として保全されていますが、過去100年間だけ使用された墓地ということで、18-19世紀のままで時間が止まっている、不思議な感覚に陥ります。

更に奥に足を踏み入れ、誰にも気が付かれることのない墓石を眺めて見たり、そこに刻まれた生年没年を読んでみてはいかがでしょう。

ここに埋葬された人たちだけではなく、この墓地自体の歴史にも思いを馳せると、「死」に対して独特の距離感を持つウィーン人の死生観を肌で感じていただけるかもしれません。

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ひょろ

オーストリア、ウィーン在住。10年以上暮らしてもまだ新しい発見の連続のウィーンの魅力を、記事執筆、現地調査、ネットショップなどを通じてお届けしています。国際機関勤務を経て、バイリンガル育児の傍ら、ミュージカル観劇が趣味。

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