【コラム】廃墟と化した、もうひとつのイタリアへ ~パエストゥム~

南イタリアのリゾート地、アマルフィから近い場所にある古代ギリシャの面影を残す街「パエストゥム」を知っていますか?

日本での知名度はまだあまり高くありませんが、この街には世界遺産として登録されるほどの貴重な遺跡群が現在も残っています。

※写真はイメージです。クリエイティブコモンズライセンスに基づき掲載しています。

参考:クリエイティブコモンズ公式サイト(外部サイトに遷移します)

はじめに:パエストゥムとは

南イタリア観光の中心となるナポリ、そしてリゾート地として人気を誇るアマルフィやサレルノからほど近い場所にパエストゥムはあります。パエストゥムは古代そのままの姿で残るギリシャ都市遺跡で、世界遺産にも登録されています。

日本ではまだ知名度は高くありませんが、遺跡好きな人もそうでない人も、南イタリア観光では必見と言っても過言ではない、素晴らしいスポットなのです。

今回は、そんなパエストゥムの魅力に迫ってみましょう。

なぜイタリアにギリシャの都市遺跡が?

さて、ここでふと違和感を覚えた方もいるかもしれません。イタリアと言えば古代ローマですが、なぜローマ遺跡ではなく、ギリシャの遺跡があるのでしょう。パエストゥムに限らず、特に南イタリアを旅しているとこのようなギリシャ遺跡を目にすることがよくあります。

実は、これらが造られた紀元前600年ごろ、人口の増えた古代ギリシャでは地中海各地に向けた植民地活動が全盛期を迎えていました。人々は本国から地中海沿岸の各地に移り住み都市を築きました。

中でもギリシャに近いイタリア南部やシチリア島は彼らにとって好都合の場所。こうして南イタリアには数々のギリシャ都市が造られることになったのです。

南イタリアの中心都市ナポリも、実はこういったギリシャの植民地に起源を持つ街のひとつです。

パエストゥムの歴史

パエストゥムも、そんな古代ギリシャの植民地活動全盛期に、交易のための拠点として築かれました。当時は海神ポセイドンにちなんでポセイドニアと呼ばれていました。

すぐに海に向かって帆を張る民族として有名で、海洋貿易が非常に得意だったギリシャ人たち。海に近いパエストゥムもその拠点として当時はさぞかし栄え賑わったことでしょう。

その後何世紀もの間に支配者が移り変わり、ローマ人の手にも渡ります。ローマ支配のもと繁栄を謳歌しますが、残念ながらその後地形の変化で湿地化してしまい、マラリアの蔓延、9世紀にはイスラムの海賊からの襲撃など様々な痛手を負うこととなります。

街はしだいに歴史の舞台から忘れ去られ、廃墟と化していきました。

1000年の眠りから覚めた古代都市

引用:Wikimediaより

ところが、鬱蒼と茂る草木や蔦の間に眠っていたパエストゥムは、1000年の眠りから突如目を覚ますことになります。

ナポリ王カルロ3世が、まるでこんもりとした森のような姿になっていたパエストゥムの都市遺跡を発見したのです。以後、遺跡はほぼ当時と変わらない完全な保存状態で、現代の私たちの目の前に蘇ったのです。

パエストゥムを囲う城壁は全長4.7キロ。この広大な遺跡の周囲には、近代的なビルなどはありません。海からの風が吹き抜け、広い空に松林や草原が映える牧歌的な風景の中に巨大な古代文明の跡が姿を現す......まさに、古代ロマンたっぷりの光景が目の前に広がっています。

パエストゥム観光のハイライトは3つの神殿

パエストゥムのハイライトは、3つの巨大な神殿です。まずは、パエストゥム建設当時に造られた最古の神殿である「バジリカ」。なんと、これはかの有名なアテネのパルテノン神殿よりも100年も昔に造られたもの。赤みを帯びた列柱は中央がふっくらと膨らみ、全部で50本もあります。

途方も無い年月を耐え抜いてきたその姿は雄々しくもあり、広い空と緑の草原とのコントラストが感動的です。

続いて「ネプチューン神殿(ポセイドン神殿)」。これは全体的に保存状態の良いパエストゥムの遺跡の中でも最も本来の姿に近いとされ、太くしっかりとした列柱、華麗で端正な姿が訪れる人々の心を捉えます。

屋根部分に続く破風(はふ)と呼ばれる三角形の部分もしっかり残っており、様々なアングルで美しく撮影することが可能です。

そして最も北に位置するのが「アテナ神殿(ケレス神殿)」。知恵の女神アテナを祭るために建てられたこの神殿はやや小ぶりながら、他の2つに負けず劣らず堂々とした佇まい。周囲にはただ何もない緑の草原が広がるのみであるため、すっくと伸びる神殿の姿がことさら美しく際立っています。

パエストゥムの魅力は、修復無しで紀元前の姿が残っていること

パエストゥムは遺跡ばっかりで退屈だな、と思った方もいるかもしれません。しかし、ここまでの規模の神殿群がレプリカや修復無しで現存している場所は、世界でもまず他に無いのです。

かのパルテノン神殿でさえ、ほとんどが戦火で崩れ現在は修復のための足場だらけです。そして世界遺産であるにもかかわらず、まだそれほど観光化されてないため観光客が少ないというのもポイント。牧歌的な緑の中に古代都市がほぼ完全な姿で蘇った姿には、感動を覚えるでしょう。

さらに、遺跡近くにある国立考古学博物館には、世界中でここにしかない古代ギリシャの驚嘆すべきフレスコ画やテラコッタを見ることができます。

ギリシャ彫刻は皆さんもよくご存知かもしれませんが、実は古代ギリシャ人の描いた絵画となると、ほとんど残っていないのです。人間や動物の描写、個性的な色遣い、凝った構図は現代の私たちが見ても美しくデコラティブで、さすがあれだけ精緻な彫刻を作った古代ギリシャ人たちだと感嘆せざるを得ないでしょう。

知る人ぞ知るイタリアの中のギリシャ遺跡パエストゥム。古代ローマが栄えるまだずっと昔に、イタリアにはこうしたギリシャ人たちの街があったのです。

古代ロマン溢れるもうひとつのイタリアを見に、パエストゥムを訪れてみてはいかがでしょうか。

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