旅先で食べるイサーン料理が、もっと美味しくなる話|タイ

「イサーン料理」という言葉を聞いたことはありますか。

タイ東北部に広がるイサーン地方の郷土料理で、ソムタム(青パパイヤのサラダ)やガイヤーン(鶏の炭火焼き)など、実は日本でも知名度が上がりつつあります。

私はイサーンの農村に暮らして3年が経ちますが、この土地で毎日食べている家庭のイサーン料理は、レストランで食べるものとは少し違う顔を持っています。

市場でもスーパーでも買わない。木から、田んぼから、池から、その日の食材をとってきて、すぐ食べる。そんな暮らしの中で感じた、イサーンの食文化をお伝えします。

目次

イサーン料理ってなに?

木から、山から、土から、土地が食卓になる

イサーン料理はどこで食べられる?

まとめ:イサーンの味を、旅先で

イサーン料理ってなに?

タイ イサーン料理 グルメ 旅行
<食卓に並ぶイサーン料理>

タイ料理と一口に言っても、地域によって味も食材もまったく異なります。バンコクを中心とした中部料理、南部料理、北部料理、そしてタイ東北部のイサーン料理。

その中でもイサーン料理は、辛み・酸味・塩味が強く、主食はカオニャオ(もち米)。農業が盛んで自然が豊かな土地柄から生まれた「自然のものは何でも食す」という姿勢が、この料理の根っこにあります。

木から、山から、土から、と土地が食卓になる

青パパイヤ
<新鮮な青パパイヤを収穫するシーン>

私の村では、庭先や畑のそばにパパイヤの木があります。青いうちに枝からもぎとり、そのままソムタムを作る。これが村の日常です。

日本でよく見かけるソムタムは、細く刻んだ青パパイヤにナンプラーやライム、唐辛子を加えて、臼でトントンとたたきながら作るサラダ。

シャキシャキとした食感と、酸っぱくて辛い味わいが特徴です。でも村で食べるものは、何かが違う。私が何度試しても、同じ味にならないのです。

「なぜ?」と聞いても、みんな笑うだけ。その「再現できない味」こそが、家庭のイサーン料理の正体なのかもしれません。

きのこ
<採れたてのキノコ >

食材は季節ごとに変わります。雨期になると、山や畑でたけのこやキノコが採れます。村の人たちは当たり前のようにかごを持って出かけ、その日の分だけ収穫して帰ってきます。

稲刈りが終わった後の田んぼは、すっかり乾いています。その固くなった土を掘ると、中からカニが出てくる。これも立派な食材です。

家庭の食卓に並ぶ、定番イサーン料理

タイ イサーン料理 グルメ 旅行 カオニャオ
<ふっくらと蒸したカオニャオ>

こうして採れた食材は、そのままシンプルな家庭料理になります。まず欠かせないのが主食のカオニャオ、いわゆるもち米です。

ふっくらと蒸したカオニャオを指でちぎりながら、おかずと一緒に食べるのがイサーンスタイル。箸やスプーンを使わず、手で食べるのが普通です。

そのカオニャオに合わせるおかずは、季節の食材でつくる汁物が中心です。タイ語で「ゲーン」はカレーやスープのような汁物全般を指し、「トム」は煮込むという意味。

トムパー
<魚の煮込みスープ:トムパー>

たけのこの汁物「ゲーンノーマイ」、キノコの汁物「ゲーンヘッド」、そして魚の煮込みスープ「トムパー」。どれもハーブと唐辛子が効いた、素朴だけど奥深い味わいです。トムガイは鶏の煮込みスープで、村では鶏をその場でさばいて調理します。

クンテン
<活き川エビをハーブと和えたクンテン>

エビが採れた日にはクンテンが食卓に出ることもあります。活き川エビをナンプラー・唐辛子・ライム・レモングラスなどのハーブと和えたイサーン発祥の踊り食い料理で、新鮮なエビのぷりぷりした食感がたまりません。

タイ イサーン料理 グルメ 旅行 タムマラコー
<青パパイヤのサラダ:タムマラコー>

そして青パパイヤのサラダは、家庭では「タムマラコー」と呼ばれます。タイ語で「マラコー」はパパイヤ、「タム」は突く・叩くという意味。

名前の通り、青パパイヤを臼で叩きながら作るシンプルな一品で、家庭では具は青パパイヤだけというのも珍しくありません。

どれも材料はシンプルで、調理もおおらかです。でもその日に採れたものを使うから、新鮮で、力強い味がする。これがイサーンの家庭料理の魅力だと思います。

珍しい食材である赤アリの卵「カイモッデーン」

赤アリ カイモッデーン
<赤ありの卵を収穫するシーン>

日本人にはちょっとイメージしにくいかもしれませんが、タイの人、特にイサーン地方の人たちは昆虫を好んで食べます。

中でも赤アリの卵「カイモッデーン」は、この地方を代表する高級食材のひとつ。4月頃にシーズンを迎え、村人たちは長い竹の先にかごを吊るして、マンゴーの木に作られた赤アリの巣へと向かいます。

巣ごとかごに落として卵を収穫する様子は、この季節だけの風物詩です。

赤アリ カイモッデーン
<赤アリの卵:カイモッデーン>

カイモッデーンはもともとイサーン発祥の食材。私がよく目にするのは、魚の煮込みスープ「トムパー」の具として入っている食べ方です。

ラープ(ナンプラー・唐辛子・ライム・煎り米粉で和えたサラダ)の具にすることも多く、いろいろな料理に使われています。

見た目は白くプリッとしていて、ぱっと見は何だろう?という感じ。よく見ると卵とわかります。

私にはまだ味の特徴がうまく言葉にできないのですが、シーズンになると村人たちが目を輝かせて食べる姿を見ると、この土地ならではの特別な味があるのだと感じます。

投網ひとつ、塩だけ食べられる0円のごちそう

タイ イサーン料理 グルメ 旅行 ナマズ 魚
<ナマズを焚火で焼くシーン>

なかでも忘れられないのが、村の農場のため池での食事です。年間を通じてため池では魚が釣れます。

ある日、農場で作業を終えた村人たちが投網を打ちました。上がってきたのはナマズと小魚たち。その場で焚き火をおこして、ナマズは丸ごと塩焼きに。

タイ イサーン料理 グルメ 旅行 エビ 魚
<小魚とハーブをバナナの葉で包んで蒸したもの>

小魚は、近くに生えていたハーブと一緒にバナナの葉に包んで蒸しました。ハーブは魚の臭みを和らげるためです。

ため池の魚は少々どぶ臭くても、ハーブがあれば全然平気。味付けは塩だけ。0円のご馳走です。バナナの葉がそのままお皿になって、食べ終わった残りは犬や鶏、蟻が片付けてくれる。掃除も必要ありません。

そもそもイサーン料理とは、「身近にある山や川の生き物を、臭みなく、美味しく食べるための工夫の集合体」だと聞いたことがあります。

イサーン地方も豊かになり、こうした食べ方をする機会は少なくなってきたといいます。けれど私が暮らすこの村では、その素朴なごちそうが、今でも当たり前の日常です。

何度作っても、同じ味にならない

ソムタムの話に戻ります。村の人たちのソムタムは激辛です。唐辛子の量が、日本人の感覚では想像を超えています。

最初の頃は食べるたびに涙目になっていました。それでも食べるのをやめられないのは、その味に引きつけられるからです。

私も覚えようと何度か挑戦しました。同じ材料を使って、同じ手順で作る。でも、どうしても「あの味」にならない。おそらく、長年使い込んだ臼のこなれ具合、唐辛子をたたく力加減、そしてその人が育った場所の感覚。

そういうものが全部混ざり込んでいるのだと思います。料理はレシピじゃない。その人の体とその土地が作るもの。イサーンで暮らして、そのことを何度も思わされました。

イサーン料理はどこで食べられる?

バンコクで食べる

バンコクにはイサーン出身者が多く、街のあちこちにイサーン料理の屋台や食堂があります。特に日本人旅行者にも入りやすいお店が多いスクンビット周辺がおすすめ。

まずはソムタム、ガイヤーン(鶏の炭火焼き)、ラープ(ひき肉のスパイスサラダ)、カオニャオ(もち米)の組み合わせから試してみてください。

イサーン地方へ行く

本場の味を求めるなら、ぜひイサーン地方まで足を運んでみてください。

コラート(ナコンラーチャシーマー)、ウドンターニー、ウボンラーチャターニーなど主要都市を拠点に、地元の食堂や市場でのローカルグルメを楽しめます。

バンコクから夜行バスや飛行機でアクセス可能です。バンコクでは味が少しマイルドにアレンジされていることもありますが、イサーン地方ではより辛く、発酵食材を使った力強い味に出会えます。

まとめ:イサーンの味を、旅先で

タイ イサーン料理 グルメ 旅行 ハーブ パパイヤ
<食べるものはなるべくその日に収穫する>

市場で買わない、スーパーで買わない。季節の恵みをその日にとってきて、その場で食べる。それがイサーンの食の根本にある姿勢です。

そこから生まれた料理は、辛くて、酸っぱくて、ハーブが効いていて、もち米と一緒に食べる。シンプルだけど、奥深い。

ぜひタイを旅する際には、イサーン料理のお店に立ち寄ってみてください。

屋台の素朴な一皿にも、0円のご馳走につながる何かがきっと感じられるはずです。

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はるな

タイ最東部イサーンの村で子育てをしながら、旅と生活の境目にある物語を綴るライター。観光地よりも、人の暮らしや日常の風景に惹かれ、その土地に流れる時間を見つめてきました。暮らしの中から、ふと旅に出てみたくなるような瞬間を言葉にしています

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