フランス北部の巨人文化

<TOP画像:ジェアンたちのパレードから©Kanmuri Yuki>

私の住むフランス最北の地には、フランスでありながら異国を思わせる特徴がいくつかあります。それは、中世から18世紀終わりまで、この地域がフランドル伯領として今のオランダ南部からベルギー西部と命運をともにしてきたことと無関係ではありません。

目次

町のアイドル、巨人(ジェアン)

フランス 巨人ジェアン イベント
<パレードの様子©Kanmuri Yuki>

そんな独特な文化のひとつに、「巨人(ジェアン)」があります。その名の通り、普通の人間よりずっと大きなサイズで作られているいわば人形です。

それぞれ、どこかの町や地域に属していて、お祭りにはパレードの目玉として登場します。地域にまつわる実在の人物をモデルにしていたり、架空の人物であったりと、その起こりはジェアンごとに異なります。

フランス 巨人ジェアン イベント お部屋
<クロワのジェアン、ジル(左)とマチルド(右)©Kanmuri Yuki>

それぞれのジェアンにはちゃんと名前も付いています。たとえば、クロワのジェアンはジルとマチルド。ドゥエのジェアンはガイヤンとその妻マリーに、3人の子供ジャコ、フィヨン、バンバンといった具合です。

ベルギーにも同様に巨人文化が残っており、そのうち古く遡れるものは、2015年からユネスコの無形文化遺産に指定されています。ドゥエのガイヤンもそこに含まれます。

もともとはイベリア半島から

実はこの巨人の文化は、イベリア半島から入ってきたものと言われています。イベリア半島、つまり今のスペインやポルトガルのある場所です。フランスの北の端とスペイン?と驚かれるかもしれませんが、歴史を見ればなんの不思議もない話なのです。

フランス 巨人ジェアン イベント コミーヌ おたま歴史祭
<中世から続くコミーヌのおたま歴史祭©Kanmuri Yuki>

中世以降、フランドル伯領は、9世紀から14世紀終わりまで続きましたが、1384年フランドル伯ルイ2世が亡くなったことで、その娘婿であるブルゴーニュ公フィリップ豪胆公がこの土地を受け継ぐことになりました。

フィリップ豪胆公は、領土をさらに拡張し、「ブルゴーニュ領ネーデルランド」と呼ばれるフランス北部から今のオランダまで覆う広い範囲を統治。安定したこの時代は約一世紀続きます。

フランス 巨人ジェアン イベント フランドル伯 ホスピス
<フランドル伯ゆかりのホスピス・コンテス ©Kanmuri Yuki>

そうして、16世紀にはかの有名なカルロス1世(カール5世)が、父や祖父の死により、ブルゴーニュ公、スペイン王、神聖ローマ帝国皇帝などの称号を一身に背負うことになります。

そこから18世紀初めまで、続くのが「スペイン領ネーデルランド」なのです。巨人は、この時代にイベリア半島から届いたさまざまな文化的影響のひとつというわけです。

巨人(ジェアン)に会える日

フランス 巨人ジェアン ワットルロー
<ワットルローのジェアンたち©Kanmuri Yuki>

さて、ではフランス北部を旅行したとして、町の人気者ジェアンたちにはどこで出会えるのでしょうか?一番可能性が高いのは、それぞれの町のお祭りです。

例えば、ドゥエのガイヤン一家のお目見えは、一年に一度、毎年7月5日以降の最初の日曜と決まっています。ちなみにガイヤン氏が誕生したのは、1530年と約500年も前のこと!妻のマリーはその翌年作られ、17世紀に入ってから3人の子供たちが誕生しました。

ジェアンの大きさはさまざまですが、ガイヤン氏はかなり大きいほうで、8.5メートルの高さに、重さが370キログラムあり、6人の担い手によって支えられます。

文字通り縁の下の力持ちとなる担い手たちは、代々その役目を受け持ってきた家の子孫たちなのだそうです。氏子が代々担ぎ手を受け継ぐ日本のお神輿を連想してしまいます。

フランス 巨人ジェアン アラス
<アラスのジェアン、コーラ、ジャクリーヌ、デデ ©Kanmuri Yuki>

こちらはアラスの巨人コーラ、ジャクリーヌ、デデです。アラスには他にも三体のジェアンがいて、そのうちマオー・ダラスは、昨年2025年の夏誕生したばかりです。

アラスでは、毎年8月末に伝統のアンドゥイエット祭りが開かれます。この日はジェアンもパレードでお目見えです。

祭りの終わりに鐘楼から投げるもの

このあたりの町や地域のお祭りには似たパターンがあり、多くはパレードから始まります。ブラスバンドや、巨人(ジェアン)、ダンスなどのパレードが町を練り歩き最高潮に達した頃、その町の鐘楼など高い場所から何かを投げることが多いです。

フランス, コミーヌおたま歴史祭 ジョアン
<コミーヌおたま歴史祭の様子 ©Kanmuri Yuki>

通常9月第二週末に行われるワットルローのベルルーフ祭では、ベルルーフ人形が投げられますし、10月第二週末に開かれるコミーヌのおたま歴史祭では、木製のおたまが投げられます。前回紹介したように、ダンケルクのカーニバルでは、燻製のニシンが投げられます。

ベルルーフ人形をキャッチしようと手を伸ばす人々 ジョアン フランス
<ベルルーフ人形をキャッチしようと手を伸ばす人々 ©Kanmuri Yuki>

いずれの場合も、投げられるものをキャッチすることは幸運と結びついていると考えられており、群衆は歓声を上げながら、こぞって上を向き手を伸ばし、非常ににぎやかな祭りのクライマックスとなるわけです。

ワットルロー

カーニバルでも出番!

それぞれの町に固有なお祭りのほか、復活祭の40日以上前に催されるカーニバルも巨人(ジェアン)の出番のひとつです。

ジュアン ベルグ フランス 選挙人
<ベルグのジェアン、ラマルティーヌの選挙人 ©Kanmuri Yuki>

例えば、上の写真はダンケルクの少し内陸寄りにある町ベルグのジェアン「ラマルティーヌの選挙人」です。今年2026年のベルグのカーニバルは、3月8日。普段は市役所が管理しているラマルティーヌの選挙人も、この日は賑やかな群衆の中を練り歩くことになります。

市庁舎で見られることも

クロワの市庁舎で見かけたジル ジェアン フランス
<クロワの市庁舎で見かけたジル。下のほうの穴が開いているところが普通の大人の頭の位置 ©Kanmuri Yuki>

祭りやカーニバルの時期に来られない方もがっかりすることはありません。ジェアンは多くの場合市庁舎などに安置されていて、場所によっては自由にジェアンを見ることができます。

フランス北部を旅されるときは、ツーリストインフォメーションなどで、この近くでジェアンを見られる場所はありますか?とぜひ聞いてみてください。各地域のスターであるジェアン、あなたもどこかで会えますように!

(冠ゆき)

クロワ

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冠ゆき

山田流箏曲名取。1994年より海外在住。多様な文化に囲まれることで培った視点を生かして、フランスと世界のあれこれを日本に紹介中。

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