たびこふれ特別企画「歌手UAインタビュー(前編)」旅と移住がつくりだす豊かな音楽世界

たびこふれの特別企画として今回、スペシャルインタビューを行いました。

なんとゲストは歌手のUAです!

歌でこの世界を表現してきたUAの音楽に、旅や移住が与えた影響を伺ってみたら、そこには想像を超えたとっても素敵な物語がありました。

今住んでいるというカナダの日常生活や、今年で30周年という音楽活動についての裏話なども伺いましたよ。

笑ったり驚いたりと、面白いエピソードがたっぷりのインタビューをぜひどうぞ!

目次

旅や移住から何かを得るのではなく、むしろ壊したい

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<カナダでの暮らし風景 畑空間と広いお庭にかかる虹 (UA提供)>

ー まずは旅について。今までどんな所に旅をしましたか?

UA「始めて自分で海外旅行に行ったのは、美大を卒業する頃に友人と行ったニューヨークとサンタフェ、そこからメキシコに。デビューして最初の15年間は仕事で海外に出ることが多かったですね」

ー 特に好きな場所や国、印象的だったところは?

UA「モロッコかな。日本とは全くの別世界で、文化も自分が持っていた価値観とも違ってました。アラブの文化と元々の砂漠の人たちであるベルベルの文化、そこにフランスの文化が混ざっているのだけど、ベルベルの人たちのコスチュームやアクセサリーというか、アートに衝撃を受けた記憶があって」

「その時はスペインから船で入りました。ポール・ボールズという作家が暮らしていた『タンジール』という場所、どうしてもそこから入りたいというこだわりもあって。右側からずっと行って、二つの砂漠も行って、マラケシュだったりフェズだったりを2週間くまなく見てまわって本当にドラマティックだった。ドレミノテレビ(NHK教育テレビ)で歌のお姉さん(うたうううあ)をやっていた頃だから2003年、31歳の頃かな」

ー 旅というものから何を得たかったですか?

UA「沖縄に移住するまでは、旅をしなければいけないという風にプライオリティーを置いていたんです。いつも通りの自分ではない部分を見るべきだと。

歌のためにという訳ではないのだけども。旅で何かを得たいというよりかは、日常ではないものによって自分の中の固定概念などを壊したいなと。私がUAではない、私自身でいられる所に行きたかったというか」

<UA 30th Anniversary Live 日比谷野外大音楽堂 2025.06.21 (土) photo by Atsuki Iwasa>
<UA 30th Anniversary Live 日比谷野外大音楽堂 2025.06.21 (土) photo by Atsuki Iwasa>

死を感じた海岸と世界で一番眩しいポルトガルの夕陽

ー 旅先で出会った印象的なことや思い出は?

UA「AJICO(ブランキージェットシティの浅井健一とのバンド)のツアー活動を終えて、映画『水の女』で初主演するまでに数ヶ月あった時、当時自分がとても尊敬していた北村道子さんというスタイリスト(衣装デザイナー)さんに『一番最西端の夕陽を見たらいいよ』と言われてポルトガルに行ったことがあって。

29歳の頃で、自分を超えたものを探していた時というか。AJICOで燃え尽きていたというのもあるけど(笑)、何かを探しにポルトガルに行ったんよね」

「リスボンからバスに乗って2時間の、ナザレっていう場所に行って。そこは漁師町で独特の民族衣装が見られるようなところだった。新市街と旧市街に分かれているのだけど、新市街の大きなビーチがとても長い湾になっていて、遠く向こうまで歩いてみようと思ったのね。

実際に歩いてみるとほんと誰も人がいなくて、ここでもし私が死んだとしても誰も見つけられないなというぐらい(笑)」

「死ぬことさえも見つからない、みたいな場所があるんだと。それは単なる私の空想だけど、それが後に『泥棒』という作品に繋がっていく。

そこからまた街方面に戻って、いよいよ噂の最西端の場所で一番眩しい夕陽を見るという時間になって座って見ていたのね。そしたら夕日がほんっとにでっかくて眩しすぎて見ていられなかった、もう向き合えないぐらいで」

<ポルトガルの夕陽をみて作ったアルバム『SUN』のジャケット>
<ポルトガルの夕陽をみて作ったアルバム『SUN』のジャケット>

UA「その時に、眩しすぎてフッと後ろを見たのね。そしたら新市街から旧市街に向かう景色が見えて。ポルトガルの古い街って今じゃないような景色をしているのだけど、ほんとに昔のままの風景で絵画のように美しくて...なんて綺麗なんだろうってびっくりして」

「美しいとしか言いようがないその景色があって、太陽とその間に立っている私というものがあって。ただただ景色は美しいけれども、やっぱり人っていうものが美しいって『思う』という事が美しいっていう意味なんだなって分かって。

美しい景色のその間に人がいるからこそ、美しいんだって言ったり思ったり、泣いたりとかするんだなぁって思ったんです」

「昼間には、私がここで死んだとしても誰も見つけてはくれないと思っていた自分が、今は太陽に照らされて世界を美しいと感じていて、美しいと私が思うから美しいという意味が生まれているんだって知った。1日の中でそういうストーリーがあった日でした」

沖縄の豊さ溢れる暮らし、その次の日に見た呆然とする現実

ー ポルトガルでの凄いエピソードに鳥肌が立ちました。お話からその時の風景が伝わってきて頭の中に鮮明に広がったというか。他にも、印象深い旅はありましたか?

UA「そう、それとはまた違って衝撃的な思い出があるのが沖縄の北部、ヤンバルに行った時かな。一人旅ではなくて友人とワイワイ行ったのだけど、川に行った時に地域の子どもたちがみな裸で遊んでいてね、ハブが出るかも知れないような場所なのに何も恐れていないというか。そのうち暗くなってきて、そしたらまるで雪が降っているかのように蛍が現れ始めて。あまりの蛍の凄さにここが日本だっていうのが信じられないくらい驚いた」

<沖縄に住んでいた頃のことを歌にしたアルバム『JaPo』より>
<沖縄に住んでいた頃のことを歌にしたアルバム『JaPo』より>

UA「東京から飛行機で3時間で、那覇からは車で1時間半かな?ポルトガルよりもっと近いから、行こうとしたらすぐに行ける場所。だけどびっくりしたよね、日本にこんな場所があるんだって。

単に自然がそうだったという事も含め、ヤンバルの高江という場所(ヘリパッド建設問題のある地域)に移住して住んでいた人たちの理念や、コミュニティーとしての絆の中で子どもたちがそういう風に育っていたという事もあり、そこに暮らしている人たちの価値観も含めて感動したというのがあって」

「そしてその翌日に、高江のヘリパッド建設反対の座り込みをしている人たちの姿を見て心が凄く揺れてしまってね、呆然とした。その日の経験は後に自分が沖縄に暮らすまでに至る最初の衝動としての経験でした」

ー その日の経験が影響した曲やアルバムはありますか?

UA「アルバムは『JaPo』という作品が、自分が3年半沖縄に住んで感じたことを表せた作品になります。ただ、住んでいた時にはひとつも曲をかけずにいたけど、沖縄を出てカナダに暮らし始めてからブワッと言葉にできるようになったのが『JaPo』で」

ー それは外に出て初めて、客観的に見られて詩を書けたということですか?

UA「いや、もう完全に主観。祈りがずっとテーマだったのね、ポルトガルの夕陽をみて作ったアルバム『SUN』の頃からだけど、自分の祈りが不十分なんだって思っていて。延々とそれが『JaPo』まで続いてしまったのだけど、『JaPo』を作りあげたことで自分はそのテーマからは卒業できたんです」

<UA 30th Anniversary Live 梅田芸術劇場 2025.06.14 (土) photo by Atsuki Iwasa>
<UA 30th Anniversary Live 梅田芸術劇場 2025.06.14 (土) photo by Atsuki Iwasa>

UA「ポップに回帰したのはそこから。デビューしてからの初期の3作品『11』『アメトラ』『turbo』のようなテイストのバイブレーションがあるようなものを最近作っているのだけれど、もう祈りはないのかと言えばそんな訳はなくて、概念的じゃなくなってきたのね。何を歌っていようと意識次第なんだなと。恋愛や食べ物のことを歌っていようが、言葉は重要じゃないとなってきていて」

ー 確かに、歌詞も肩の力が抜けて言葉遊びを楽しんでいるかのような気配もありますね。音楽も『情熱』や『甘い運命』といったUAの代表作のようなバイブレーションで、最近作られた『微熱』(マヒトゥー・ザ・ピーポー作曲)や『お茶』(ハナレグミ作曲)からもそれをビシバシ感じられます。

そしてついに始まった海外生活が大騒動に?

ー UAとしてデビューしてから、現在のカナダ以前に住んでいた場所は?

UA「デビューしてから東京の世田谷にしばらく住んで、2005年には自然のある生活を求めて神奈川県の藤野に引っ越し。田んぼをやったりしながら6年間、ビーガンを実践していた頃かな。それから3.11のことがあって移動したのが沖縄です」

ー なるほど。そこからいよいよカナダ移住ですよね。カナダの暮らしはどうですか?

<カナダでの暮らし リノベーションした母屋(UA Instagramより)>
<カナダでの暮らし リノベーションした母屋(UA Instagramより)>

UA「10年経って生活のリズム感とかはようやく落ち着いてきて。最初は大騒動というか、やることがいっぱいありすぎて暮らしも大変だった。お金を出して作ってしまえば何でもすぐにできるけど、夫の希望もあってできるだけ自分たちでどうにかしていくっていう生き方を選択しているから」

「最初はトレーラーハウスを作って、2年後ぐらいに母屋(現在住んでいる家)のリノベーションを開始して。コビット(コロナ)が始まった年に母屋で暮らし始めたのだけど、今はトレーラーハウスの方をリノベーションし始めたところかな。全部自分たちでやってる」

ー 食べ物も自給自足だったりするのですか?

UA「それは結構難しくて、カナダでは年間を通して野菜が採れないのでね。緯度が相当高くて冬場は野菜ができないし、夏は雨が降らなかったり日本とは全然イメージが違うと思う。春には植えないといけないのだけど、その頃には仕事で日本に通ったりもしていたから今年はちょっと厳しいかな。今はハーブ畑みたいになっているよ」

<カナダでの暮らし マスコービーダックのお母さんと子どもたち(UA Instagramより)>
<カナダでの暮らし マスコービーダックのお母さんと子どもたち(UA Instagramより)>

ー 鶏を飼っているっていうのをSNSで見たのだけどかなり多いですよね、何匹くらいいるのかな?

UA「ニワトリが30羽、マスコービーダックのメスが4羽、オスは先日何者かにやられちゃったんだけどダックリングが30羽ぐらいいるんだよ、ちっちゃいけどね。グースも3羽、いま卵をあっためているからもの凄い牽制してくるんよ。さっきね、どこから入ったのか部屋の中から突然、野生のウサギが飛び出してきて」

ー えっ、そんなことってあるの(笑)?!

UA「それでウチの猫と犬がみんな追いかけて走ってるから、あかんあかん〜!って追いかけながら救出して、そしたら13歳の息子がもう喜んでね。ウサギを飼うのが夢だったから、いま友達とケージを作っているみたい」

ー なんか、絵本に出てくるような世界が...(笑)

UA「そう、野ウサギを追って全員走りまわってるっていう(笑)。こっちはそういうとこなんだわ。日本も田舎だとあるかも知れないけど、そういうとこが好きでね。鳥たちも飼っているというか勝手にいる感じでね。だから勝手にいなくもなるし、食べられちゃったりとかする」

「フリーレンジという言い方をすればかっこいいけど、野放しで飼ってるとこはあまりないかな、周りの人たちは柵をして飼ってるから。ウチは人の暮らしと生き物の暮らしを分けてないんよね、まあそれは成り行きでという感じだけど」

<カナダでの暮らし 母屋と広い庭(UA Instagramより)>
<カナダでの暮らし 母屋と広い庭(UA Instagramより)>

ー 最初の沖縄への旅で出会った人々の生活はとてもナチュラルで新鮮だったんですよね?いま現在はUAも同じような感じで暮らせているのでは?

UA「同じというかUA流だし、彼女たちのやっていた生活には足元も及ばないんだけどね。まぁ自分らなりの自然農というか...私は一個のカテゴリーの中にいるのがどうも苦手みたいでね」

「そういう意味でも旅をしていたし、こうだと決まって変わらない感じが続くことを恐怖に思えてしまう性質があって。だけどそんなことは間違っているんだけどね、今はもうそれに気がついているよ、だから『Happy』という曲もできました」

『Happy』というのは最新曲ですよね、確かに初めて聞いた時に、とても新しいUAに出会えた気がしました。ここまで前半は今までの旅や移住生活のお話を中心に伺いましたが、後半はいよいよ噂の『Happy』について深掘っていきたいと思います。歌詞の中でキーワードとなる言葉は何と「梅干し・お味噌汁」という話題作の『Happy』。その曲が誕生した裏側のお話、そして30周年のアニバーサリーライブで揺れ動いていたUAの想いとは?このあと後編に続きます!

>>たびこふれ特別企画「歌手UAインタビュー(後編)」旅と移住がつくりだす豊かな音楽世界

インタビュアー Hinata J.Yoshioka  
(企画・構成・ライティング・編集)

UA(歌手)  

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Hinata J.Yoshioka

フォト&ライター。国内を転々と旅した後、沖縄にたどり着き12年を過ごす。現在は神戸を中心に活動中。ハワイ好きでフラ歴もあり、ロミロミマッサージのセラピストとしての一面も持つ。好きなことは料理・物作り・音楽・読書・写真・旅などあらゆることに興味はつきない。世界を船でぐるり2周した物語もWebで掲載中!!

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