【メキシコ】メスカルのふるさとへ。受け継がれる手しごとのぬくもり

メキシコ南部、オアハカの街へと向かうバスに乗っていた。山の斜面に広がるアガベ畑を車窓から眺めていると、ぽつぽつと小さな民家が見えてくる。ロバが粉砕器を引いていた。きっとメスカルをつくっているのだろう。

オアハカは、先住民文化が今も息づく土地。独自の食文化や民芸が暮らしのなかに自然と根づき、その精神はメスカルの製法や味わいにも表れています。

前回の『【メキシコ】テキーラ発祥の村へ。酔うためじゃなく、味わうための旅』に続き、今回はもうひとつの地酒・メスカルの魅力を、オアハカのやわらかな空気とともにお届けします。

目次

伝統が息づく蒸留所

テキーラに次ぐメキシコの地酒、メスカル。同じくアガベを原料としていますが、テキーラほど品種や産地の縛りがなく、自由な製法と個性豊かな風味が特徴です。蒸し焼きにしたアガベの香ばしさや、少し雑味のあるクラフト感が魅力で、近年はスモーキーなお酒として人気が高まっています。

メスカルの産地はメキシコ各地にありますが、中でも有名なのがオアハカ州。この地はメキシコの中で最も先住民人口の比率が高く、今もなお伝統文化が息づいています。

蒸留所の入り口
<蒸留所の入り口>

メスカルもまたその一つ。多くの蒸留所が機械を使わず、昔ながらの製法を続けています。今回はそんな伝統的なメスカルを味わうべく、オアハカ市内から行ける蒸留所見学ツアーに参加しました。

「El Rey de Matatlán(エル・レイ・デ・マタトラン)」は、オアハカ市内から車で40分ほど。1950年の創業以来、世代を超えてメスカルの技術と精神を受け継いできたという、由緒ある蒸留所です。製造は機械に頼らず、すべてが手作業。施設内にはオーガニックのアガベ畑も併設されており見学も可能です。

ツアー代は250ペソ(約1,925円/2024年12月時点)。軽く見学して、試飲が少しできる程度かと思っていたら、想像以上に充実した内容でした。

<日差しが暑いオアハカ。ツアー開始時に試飲用のカップとハットが貰える。>
<日差しが暑いオアハカ。ツアー開始時に試飲用のカップとハットが貰える。>

<専用のトラック>
<専用のトラック>

まずは専用トラックに乗って敷地内を走り、アガベ畑へ。数分で緑いっぱいの風景が目の前に広がります。畑を歩きながら、品種ごとの違いや育て方など、ガイドの説明を聞きます。

<コロナビールを手渡され、ご機嫌で畑を散策>
<コロナビールを手渡され、ご機嫌で畑を散策>

実際にナタを使ってアガベの葉を切る体験も。葉は硬くて、びくともしませんでした。素人には想像以上に難しく、これが日常の作業だと思うと頭が下がります。

説明を聞いたあとは、青空の下、アガベ畑に囲まれながらの試飲。ほんのりとした甘さの中にある、ワイルドで野性味ある雑味。癖があるけれど、それがメスカルらしさだと感じました。

<ほてった身体に染み渡るカクテル>
<ほてった身体に染み渡るカクテル>

蒸留所に戻り、メスカルを使ったカクテルでひと休み。シャーベット状のパッションフルーツとメスカルの組み合わせが、暑い日差しに心地よい清涼感をもたらしてくれました。

<蒸留の機械>
<蒸留の機械>

ひと息ついたあとは、いよいよ蒸留所の内部へ。

<発酵の様子>
<発酵の様子>

ここではアガベの収穫から蒸し焼き、石臼での粉砕、発酵、そして蒸留まで。メスカルができるまでの全工程を見ることができます。

<El Rey de Matatlánの上質なメスカル>
<El Rey de Matatlánの上質なメスカル>

最後はいよいよ本格的な試飲タイム。なんと10種類ものメスカルをテイスティング。この時点ですでにコロナビール、メスカル2種、カクテルを飲んでいたので、驚きのボリュームです。

すべて野生種のアガベから作られた、希少なメスカル。価格もなかなかのものばかりです。どれも個性的で、飲み比べがとても興味深い体験でした。

土の香りを感じるもの、華やかな香りがふわりと立つもの、鼻にツンとくるような刺激的な一杯──。それぞれの個性を、スタッフの説明を聞きながら丁寧に味わっていきます。

アガベの品種や蒸留方法の違いで、ここまで風味が変わるのかと驚かされました。まさに現地ならではの体験です。

そんなふうにじっくり楽しんでいるうちに、気づけばかなり酔っていました。種類も多く、しかもオアハカの標高は約1,150m。酔いのまわりは思った以上に早かったようです。

スタッフの方は「もっと飲んでみる?」とニコニコ勧めてくれるので、つい頷いてしまうのですが......気づけばふわふわ。これから訪れる方は、ぜひ自分のペースを大切にしてくださいね。

El Rey de Matatlán

  • 住所:Carretera Internacional km 26.5, Macuilxochitl de Art. C (En Crucero a Teotitlan Del Valle, Carretera Internacional, 70461 Tlacolula de Matamoros, Oax., メキシコ
  • 電話:+52 951 1890 378
  • 営業時間:9:00〜19:00
  • WhatsApp:+52 951 223 0945(WhatsAppでツアー予約可)
  • 公式サイト:El Rey de Matatlán

青空市のにぎわいと郷土の味

蒸留所のあとは、近くの村へ。オアハカ市の周辺には小さな集落が点在しています。"木彫りの村"や"陶器の村"など、それぞれに特産品があり、毎日のように「ティアンギス」と呼ばれる青空市が開かれています。

とくにメスカル蒸留所にほど近いトラコルーラ村はアクセスもよく、気軽に立ち寄ることができます。

<ティアンギスの様子>
<ティアンギスの様子>

青空市場。その名の通り空は快晴。青空の下、市場は大賑わい。オアハカはカラリとしていて、いつも元気な太陽が降り注いでいます。

地元の人たちが集まり、野菜や衣類、靴などの生活用品がところ狭しと並びます。細い通りは歩くだけで、肩がぶつかるほどの人の熱気。ローカルな空気に満ちていて「遠い国にまで来たんだな」という実感が湧きます。

<メキシコ料理に欠かせないチリがたくさん売られている>
<メキシコ料理に欠かせないチリがたくさん売られている>

<細かいモコモコが特徴。地元の女性が手でかき混ぜながら提供してくれる>
<細かいモコモコが特徴。地元の女性が手でかき混ぜながら提供してくれる>

まずは乾いた喉を潤すため、テハテを一杯。カカオととうもろこし粉から作られる、オアハカの屋台や市場ではおなじみの飲み物です。

味は薄いココアのよう。とうもろこし粉が入っているので、ささやかな香ばしさと濃厚さがあります。飲みごたえもあり、「このまま青空市を楽しむぞ」というエネルギーも戻ってきました。

<ヤギ肉の煮込み>
<ヤギ肉の煮込み>

<タコスドラーダ(揚げタコス)>
<タコスドラーダ(揚げタコス)>

ティアンギスではオアハカ料理も楽しめます。旅の途中、出会ったメキシコ人たちは口をそろえて「料理はオアハカが最高だよ」と言っていました。

実際、何を食べても美味しくて、他の都市とは一味違う独自の食文化が息づいていると感じます。青空市場でも、そんな伝統の味をたっぷり味わいました。

<マドレ(地元のママ)の手作りアイス>
<マドレ(地元のママ)の手作りアイス>

どの料理も素朴で味わい深く、香りがふわりと立ち上ります。チリやハーブがそっと忍ばせてあって、食べるたびに丁寧な手仕事が伝わってくるようでした。

メキシコ料理といえば、辛い・甘い・酸っぱいなど、強い印象があるかもしれません。でもオアハカの味には派手さはなく、家庭的でほっこりとしたものが多いです。お腹の底にまでじんわり広がるおいしさ。オアハカの料理は他のメキシコの土地に比べ、優しさがあるように思います。

それはきっと、人柄にも通じるのだと思います。オアハカの人々は、とてもフレンドリー。それはテンションが高いとか、距離が近すぎるということではありません。目が合えばふっと微笑みかけてくれる。

心に余白があるような、そんな穏やかさがありました。オアハカの街には都市のようなせわしなさはなく、田舎らしい和みが広がっています。

Tlacolula de Matamoros(トラコルーラ村)

手しごとの文化から紐解くメスカルの味

<伝統の織物>
<伝統の織物>

民芸品にも、オアハカの文化と暮らしの知恵が詰まっています。陶器、刺繍、織物、木工──どれも鮮やかで、丁寧で、見ているだけで嬉しくなるようなものばかり。そこには"手でつくる文化"と、"手で直して使う文化"が、深く根を下ろしているように感じます。

<オアハカの刺繍>
<オアハカの刺繍>

詩集の作業の様子
<作業の様子>

半年メキシコに滞在して気づいたのは、メキシコの人々の"直す力"の強さです。冷蔵庫や水道が壊れても、すぐに誰かがやってきて直してしまう。町には修理屋がたくさんいて、スマートフォンもパソコンも、器用にさっと直してしまいます。

あるメキシコの友人は言いました。「壊れたら買い替えるんじゃないよ。直して、また使うんだ。」その言葉を聞いたとき、民芸品の緻密な美しさや、街にあふれる手仕事の文化が腑に落ちた気がしました。

メキシコは、民芸の国。人の手が作るもののあたたかさに、あらためて心を打たれました。そして今日味わったメスカルにも、そんな手作りの温度を感じます。

人のぬくもり、素朴な雑味、伝統とクリエイティビティが同居したような味わい。この一杯には、土地の文化と人の営みがまるごと詰まっていたのだと。メキシコを旅してきた今だからこそ、そう思います。

※20歳未満の飲酒は法律で禁止されています。

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