トラベルヘルパーってどんな仕事? 介護旅行は実際どんな風?

トラベルヘルパーってどんな仕事? 介護旅行は実際どんな風?

<冒頭の写真提供/あ・える倶楽部>

皆さんは「トラベルヘルパー」をご存知ですか? トラベルヘルパーとは、介護技術と旅の知識を備えた、外出支援の専門家です。SDGsの考え方とともにバリアフリーなインフラが整いつつある今、介護付き旅行の需要が高まっています。

今回は、NPO法人日本トラベルヘルパー協会(以下、日本トラベルヘルパー協会)の会長であり、介護旅行のパイオニアとして30年超の歴史を持つ会員組織「株式会社SPIあ・える倶楽部」(以下、あ・える倶楽部)の代表取締役社長も務める篠塚恭一さんに、トラベルヘルパーとはどんな仕事なのか、介護旅行とはどんな旅なのか、詳しく教えてもらいました。

目次

<1. 介護旅行(介護付きの旅行)とは>

<2. トラベルヘルパーとは>

<3. トラベルヘルパーの仕事内容>

<4. どんな人がトラベルヘルパーを利用している?>

<5. 介護旅行は実際どんな風?>

<6. 介護旅行の気になる料金は?>

<7. 介護旅行を楽しまれる場合の注意点>

<8. 介護旅行を旅の選択肢に加えてみませんか?>

1. 介護旅行(介護付きの旅行)とは

※以下、篠塚恭一さんによる解説です。

介護旅行とは、介護付きの旅行サービスのことです。食事やトイレ、お風呂など、日常生活の中で不自由のある方々に対して、外に出て、非日常の中において、必要な介護を提供しています。

不自由な体を押しても「出かけたい」というからには、強い目的があります。なぜそこに行きたいのか――生まれ故郷や家族との思い出の場所、過去に行きそびれてしまった場所など――私たちは旅行のプロとして、その方が行きたいところに行くにはどうしたらいいか、相談しながら、実現可能なプランをご提案しています。

もとはツアーコンダクターなど旅行に関わる人材の育成事業、派遣事業を行っていましたが、30年程前にはすでに旅行者の高齢化が進んでいたため、今後、要介護の高齢者や障害のある方々を介助できる添乗員のニーズはさらに高まるだろうと、1995年からトラベルヘルパーの人材育成に取り掛かり、1998年に介護旅行に特化した旅行会社「あ・える倶楽部」のサービスを開始しました。

2. トラベルヘルパーとは

「あ・える倶楽部」のトラベルペルパーには、利用者から情報収集をして旅行プランを設えるコーディネーター業務と、実際に旅行に同行する2つの役割があります。

トラベルヘルパーは、介護士や看護師等などの有資格者であり、そのうえで、旅行の業務知識および外出時の介護の技術を習得し、2日以上の実地外出研修を経て、検定試験に合格した人のことです。

皆さんトラベルヘルパーというと、旅行に同行してにこにこと車いすを押しているイメージをお持ちだと思うのですが、あれは、トラベルヘルパーの仕事のほんの一部です。旅先では、天候が悪化したり、エレベーターが故障中だったり、さまざまなアクシデントが起こります。そのような変化する環境の中で、いかに安全を確保しながら移動し、介護して快適に過ごしていただくか、いかに楽しんでいただけるよう環境設定ができるか、という部分がトラベルヘルパーの大きな役割です。

我々の仕事は段取りが8割です。介護を必要としている方が対象者なので、下準備として、要介護者がどんな日常生活を過ごしているのか、どのような介護が必要なのかなど、入念な聞き取りが欠かせません。

実際に、リモートや手紙、メール、電話などで情報収集していくのですが、杖があれば歩けるのか、どのぐらい歩けるのか、具体的に旅先にその方がいるところをイメージできるようになるまで、その人自身を多角的に捉えていくことが大切です。そのうえで、コーディネイト役が旅行プランを立て、必要な手配をして、現場でサービスを提供するトラベルヘルパーにしっかりと繋いでいます。チームで力を合わせ、利用者の希望の旅を叶えています。

3. トラベルヘルパーの仕事内容

2006年に日本トラベルヘルパー協会を設立し、これまで1,500人以上に養成講座を行ってきました。養成講座の参加者には介護関係者も多く、介護福祉士やヘルパーたちが副業としてトラベルヘルパーの資格を取られています。「あ・える倶楽部」のトラベルヘルパーは、全国に400人以上。ゆるやかなネットワークで繋がっており、旅行先までの移動に同行が必要でない場合には、できるだけ現地(旅行先)付近の方を派遣するようにしています。

「あ・える倶楽部」では、介護旅行のほかに、買い物やお墓参りなど日帰りのお出かけにもトラベルヘルパーが利用できます。友人と一緒に出かけるような感覚で、トラベルヘルパーと定期的に旅行やお出かけを楽しまれている方も多くいらっしゃいます。他の旅行会社の団体ツアーにトラベルヘルパーとともに参加することも可能です。

いまは、「伊豆の温泉旅館までは自分たちで行けるが、まち歩きや入浴介助だけをお願いしたい」という風に、ヘルパーサービスのみというご利用も増えています。ホテルなど、バリアフリーの宿も増えているので、旅行プランは自分たちで立て、介護の部分だけ依頼するというスポット利用も一つの使い方です。

4. どんな人がトラベルヘルパーを利用している?

利用される方は、高齢者や障害を持った方で介護サービスを受けている方、病後の方、健康に不安がある方が主です。ご家族が「祖父の具合が悪くなってから家族旅行がなくなってしまった。家族旅行を復活させたい」ということで利用される方が多いですね。

あとは、身寄りのない方。成年後見人などの善意の第三者から「お金はあるが、旅行に同行してくれる人がいない。世話してくれる人がいない。相談できる人がいない」ということで社会的リソースとして我々に相談されるケースも少なくないです。

今は、障害のある方の利用も増えています。高齢の方も障害のある方も、移動は車椅子という方が9割以上です。 要介護度が高い方でも、移動に耐えられる身体で主治医の許可があり、容体が安定していて医療と連携が取れればご利用いただけます。利用可能かどうか、という判断に、要介護度や障害の重さ軽さは関係ありません。外出を諦める前に、まずはご相談ください。

5. 介護旅行は実際どんな風?

介護旅行は、トラベルヘルパーなどのサービスをどう使うかによって、その内容はさまざまです。ここからは、実際にみなさんがどのように介護旅行を楽しまれているのか、いくつか具体的なケースをあげて説明していきます。

Case1 軽井沢の別荘でのご静養にトラベルヘルパーが同行

旅行ガイドを読むお母様
<写真提供/あ・える倶楽部>

都内の自宅から、ご家族が運転する自家用車で軽井沢の別荘へ、5日間のご静養旅行に同行しました。要介護のお母様を別荘に連れて行きたいが、お嬢様は介護ができないため、トラベルヘルパーに同行してもらい、道中や別荘での介護をお願いしたい、とのこと。

都内からヘルパー1名が同行し、現地にてもう1名ヘルパーが合流。お母様もお嬢様も大の旅行好きということで、トラベルヘルパーと4人で一緒に歌を歌ったり、旅行の話をしたりして、ゆっくりと過ごされました。

Case2 「ゆっくり温泉につかりたい」お母様の願いを叶える温泉旅行

松本城をバックにみんなで撮影した写真
<写真提供/あ・える倶楽部>

旅館の部屋で様子
<写真提供/あ・える倶楽部>

「ゆっくり温泉につかりたい」というお母様の願いを叶えるため、お嬢様の依頼で信州浅間温泉へ同行しました。北海道からお嬢様のご主人ご両親も参加され、数年ぶりの再会をとても喜ばれました。

美術館、大王わさび農場、松本城と観光され、お宿はバリアフリー設計された展望露天風呂がある「ホテル玉の湯」へ。ゆっくりと安心して温泉を堪能され、浴槽に浸かると「瀬戸の花嫁」をフルコーラス歌われたそうです。

お風呂場の様子
<写真提供/あ・える倶楽部>

Case3 ご兄弟に会うため、10年ぶりに故郷・鹿児島へ

観光名所を巡る様子
<写真提供/あ・える倶楽部>

ご兄弟に会うため10年ぶりに故郷・鹿児島を訪れる男性に、ご自宅から鹿児島までトラベルヘルパーが同行しました。

行きの飛行機では、眼下に見える美しい富士山に「おー!富士山がよく見える」と喜ばれていました。鹿児島では、お墓参りや親戚との会食などをメインに、桜島や開聞岳、鹿児島の観光名所である植物公園やロケット打ち上げ台なども訪れ、旅行を楽しまれました。念願のお兄様たちとの再会ではがっちりと握手を交わされ、大満足の6日間でした。

Case4 ラスベガスでカジノやエンタメを楽しむ7日間

ラスベガスの風景
<写真提供/あ・える倶楽部>

ラスベガスへ7日間の介護旅行に同行しました。トラベルヘルパーを伴って連日カジノに通われ、ブラックジャックやルーレット、ポーカーなど、さまざまなゲームを堪能されました。

ラスベガスでは、カジノ以外にもエンターテイメントやショッピング、グルメなども楽しめました。旅慣れたトラベルヘルパーが同行することで、ご自分のペースで、安心して海外旅行を楽しむことができます。

6. 介護旅行の気になる料金は?

介護旅行の料金は、自立、軽度、中度、重度の4段階に分かれ、要介護度や拘束時間・行き先によって異なってきます。あ・える倶楽部の基本料金は以下の通りです。ホームページでもご覧いただけます。

ご利用は1日(終日)8時間、半日4時間を基本サービスとし、超過の場合は、時間外加算として追加料金となります(超過は30分単位で加算)。夜行列車の利用など、早朝・夜間の移動を伴う業務については、ご利用時間にかかわらず1日料金となります。

国内旅行についてはほぼ一律ですが、海外旅行の場合には、同じ介護度の方でもハワイに連れて行くのと南アフリカに連れて行くのとでは異なりますので、エリアによって多少変動があります。

基本料金表

出典:ご利用の流れ・料金について(あ・える倶楽部) ※2024年10月11日現在

また、入浴介助のみご利用の場合は、トラベルヘルパーの移動実費・保険等の諸費用を含んだ金額として下記の通りになります。

お1人で歩行のできない方で、入浴用車いす、リフト等の福祉機器がない場所では、体重が40kgをこえる場合は、安全確保のためにトラベルヘルパー等を増員することがあります(増員による料金加算は、自立・要支援の方の料金で)。また、近隣にトラベルヘルパーのいない遠隔地でのご利用の場合は、出張費を別途いただくことがあります。

入浴介助のみの料金表
出典:ご利用の流れ・料金について(あ・える倶楽部) ※2024年10月11日現在

その他、提供するサービス内容によって加算される料金については下記の通りです。

料金が加算されるもの
出典:ご利用の流れ・料金について(あ・える倶楽部) ※2024年10月11日現在

7. 介護旅行を楽しまれる場合の注意点

できるだけ正直に、したいことや、特に背景のようなものがあれば、きちんとお伝えいただいたほうがいいと思います。そして、できるだけ努力はしますが、できないこともありますよ、ということをご了承いただくことが注意点でしょうか。

大切なことは、年齢や障害を超えてQOL(人生の質)が向上する生活を選ぶことができる暮らしです。一説によれば、トラベルの語源はトラブルにあると言われ、急に飛行機が飛ばなくなったり、電車が止まったりすることもあるかもしれません。体調が変化することもあります。でも、そんな時も「ここまで来れたね」と到達できたことを喜んで、残された人生を楽しんでいただけたらと思います。

旅行などというものは、他愛のない希望です。そんなに大仰なものではなく、本来、誰でもできるのが当たり前のものなはずです。 たまたま要介護になった、障害を持ったということで旅行をあきらめないでください。誰でも楽しめ、誰でも行かれる、そういう社会にして行きましょう。旅行についてお悩みがあれば、ぜひ、トラベルヘルパーにご相談ください。

8. 介護旅行を旅の選択肢に加えてみませんか?

いかがでしたか? トラベルヘルパーがサポートしてくれる介護旅行があれば、いくつになっても旅行の予定にワクワクする気持ちが保てそうですよね!

人間は、カレンダーに楽しい予定が入っていると元気になるものです。少し先の未来に、小さな希望や目標があれば、もうちょっと長生きしてみようかなという気になるのではと思います。旅行は難しいかなと諦めていた方も、トラベルヘルパーがサポートしてくれる介護付き旅行について検討してみてはいかがでしょうか。


篠塚 恭一(しのづか きょういち)
大手旅行代理店の添乗員を経て、1998年に「(株)SPIあ・える倶楽部」を設立。代表取締役社長。高齢者や障害者向けの旅行サービスを提供しつつ、トラベルヘルパーの人材育成にも注力。2006年にNPO法人日本トラベルヘルパー協会を設立。理事長に就任。

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宮原香菜子

日本大学芸術学部写真学科卒。情報誌や旅行ガイドブックの編集プロダクションを経て、フリーランスのライター・編集・ときどきカメラマンに。趣味と実益を兼ね、おてんば盛りの小学生の娘が思いっきり遊べて、大人も楽しめるスポットを日々発掘しています。ママライターとして子育てに役立つ情報をWebや雑誌で発信中です。

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