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晴れの町、熊谷の国宝と桜の名所
埼玉県熊谷市と言えば、日本の最高気温を何度か塗り替えたことから、「暑い町」が代名詞になった感があります。とはいえ、1年を通してみれば、四季のメリハリもしっかりある土地。加えて何よりの魅力はその日照時間の多さ!年によっては日本一の快晴日数を誇る「晴れ」の町でもあるのです。
熊谷市は埼玉県の北部に位置し、東京駅から新幹線で40分弱、在来線でも都内から約1時間の距離です。江戸時代には中山道の宿場として発展し、明治初期には「熊谷県」の県庁所在地でもありました。
今日はこの熊谷市から国宝である歓喜院聖天堂と、「さくら名所100選」に数えられる熊谷桜堤をご紹介します。
目次
国宝に指定された歓喜院聖天堂
<まばゆいばかりの御本殿、奥殿の側面 © Kanmuri Yuki>
妻沼聖天山歓喜院(めぬましょうでんざんかんぎいん)は、熊谷市の北部に建てられた高野山真言宗の仏教寺院です。「斎藤別当実盛公が、当地の庄司として、祖先伝来のご本尊聖天さまを治承三年(1179年)にお祀りした」(聖天山パンフレットより)のがはじまりで、「実盛公の次男斎藤六実長が出家して(中略)建久八年(1197年)に本坊の歓喜院を開創した」(同上)ものです。JR熊谷駅からは、朝日バス6番乗り場から出ているバスで約30分。妻沼聖天前で下車してください。
御本殿まで3つの門
<妻沼聖天山、貴惣門 © Kanmuri Yuki>
バス停から参道を進むと、御本殿(歓喜院聖天堂)までに、貴惣門、中門、仁王門の三つの門をくぐることになります。貴惣門は1851年竣工。3つの破風で成る非常に奇抜な意匠を特色とし、国の重要文化財に指定されています。上の写真は正面から撮っていますが、参拝の折には忘れず側面から眺めてみてください。
<妻沼聖天山、中門 © Kanmuri Yuki>
2つ目の中門は、1670年の妻沼の大火を免れたもので、それゆえ聖天山最古の建造物でもあります。左右に金剛力士像が配された仁王門は1658年創立ですが、現在建っているのは、台風で倒壊した後、明治27年に再建されたものです。仁王門手前右手には、参拝者の休息用にベンチなどが置かれています。その奥の高台には、木々に囲まれた美しい多宝塔を望みます。
<多宝塔 © Kanmuri Yuki>
仁王門をくぐり抜けた先にようやく見えるのが、2012年国宝の指定を受けたご本殿(歓喜院聖天堂)です。日光東照宮と同じ権現造で、拝殿の後ろに中殿、奥殿が続きますが、日光東照宮と異なるのは、ここでは、表の拝殿よりも奥殿の方が煌びやかだということ。表にも色鮮やかな彫刻は見られますが、側面から後方にかけて施された絢爛豪華な彩色彫刻には及びません。
庶民の浄財を資金に44年かけて完成
<仁王門とその向こうに見える御本殿 © Kanmuri Yuki>
側面から後方にかけての見学は有料となりますが必見です。拝観時間内の正時には、ボランティアガイドさんの説明を聞けるので、できればその時間に合わせて拝観することをおすすめします。約30分で、歓喜院聖天堂の歴史から彫刻があらわす故事まで、どこにも書いていない内容を実に詳しくレクチャーしてもらえます。それ以外の時間帯は、音声ガイドが流れます。
暴風雨や火災の被害を受けたのち、現在残る歓喜院聖天堂の再建が始まったのは、1735年(享保20年)のことでした。これは、日光東照宮の約100年あとにあたります。徳川家が命じた日光東照宮と異なり、歓喜院聖天宮の再建に関わる諸費用は、すべて近隣の庶民らの浄財を財源としたため、1779年(安永8年)の完成までに44年という長い年月を要しました。かかった工費は2万両だったと言います。
緻密な装飾に躍動感あふれる彫刻
<リスや猫も生き生きと © Kanmuri Yuki>
奥殿の外側を覆いつくす装飾は、現地で実際に見て説明を聞くのが一番かと思いますが、ひとつだけ個人的に印象的だったことを挙げるとすれば、実在の動物の生き生きとした表情と、想像動物の彫刻の多さです。龍や鳳凰のほか、蜃(シン)、貘(バク)、玄武(ゲンブ)などもそこここに見られます。御本殿の表側には、鯉から、鯱(シャチ)、飛竜(ヒリュウ)と進化する様子も彫られていて、子どもも興味を持つに違いないと思いました。
<波の中、右から左へ鯉、シャチ、飛竜が見える © Kanmuri Yuki>
妻沼聖天山歓喜院
- 所在地:埼玉県熊谷市妻沼1511
- 公式HP:妻沼聖天山
- 電話番号:048-588-1644
- 境内は常時開放
国宝聖天山堂拝観
- 拝観時間:平日10:00~15:30、土日祝:9:30~16:00(受付は拝観終了時間30分前まで)
- 拝観料:1人700円
- 無料ボランティアガイドの時間:基本的に10時、11時、12時、13時、14時、15時、16時(16時は4月~10月のみ)
平成の工事で蘇った色彩
<御本殿奥殿外壁 © Kanmuri Yuki>
なお、歓喜院聖天堂が現在のような輝きを放っているのは、2003年~2011年まで8年かけてなされた保存修理工事のおかげです。手掛けたのは、文化財などの修理、施工を専門とする小西美術工藝社。実は、同社のウェブサイトからは、360°パノラマで妻沼聖天山本殿を見学することができます。御本殿内部は一般に公開されていませんから、唯一鑑賞可能である貴重なページです。ぜひチェックしてみてください。
荒川沿いの桜堤
<熊谷桜堤 © Kanmuri Yuki>
季節柄外せないもう1つの熊谷のおすすめは、桜堤です。熊谷駅南口から南方向へほんの5分ほどまっすぐ歩くと突き当たるのが荒川。この土手沿いに約2kmソメイヨシノが500本ほど並んでいます。これが江戸時代から知られた熊谷桜堤で、1990年には公益財団法人日本さくらの会により「さくら名所100選」にも選ばれました。例年の開花時期は3月下旬から4月上旬にかけて。毎年4月頭にはさくら祭りが開かれ、屋台が並びますが、過去2年はパンデミックの影響で中止となっています。
土手には菜の花も植えられ、快晴の時などは、ピンクと黄色の鮮やかなラインが青空にくっきり映え美しい限り。自信をもっておすすめできる桜の名所です。
<青空に映える桜色と黄色 © Kanmuri Yuki>
熊谷桜堤
都内から日帰りできる熊谷、この春に訪れてみませんか。
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冠ゆき
- 山田流箏曲名取。1994年より海外在住。多様な文化に囲まれることで培った視点を生かして、フランスと世界のあれこれを日本に紹介中。