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マヤ先住民族の魂を描く巨匠・Akio Hanafujiの作品とその人生に迫る!
タコスに、アートに、古代ピラミッドまで!多様な文化を持つメキシコですが、実はメキシコは世界でも有数の多民族国家だということをご存じでしょうか?
国内には約70もの先住民がいると言われ、それぞれがその伝統と文化を継承しながら、現在までその長い歴史を守ってきました。
その中でも、特にマヤ先住民族の文化が色濃く残る南部チアパス州にて、その伝統と生活を描き、彼らの魂を絵に込める一人の日本人画家がいます。
Akio Hanafujiさん、御年72歳です。
今回は、文化・芸術大国メキシコで、その文化的遺産を後世へと伝えるべく、未だ現役として第一線で活躍されている日本人画家・Akio Hanafujiさんの作品とその人生を紹介します!
目次
- Akio Hanafujiのプロフィール
- 代表作「La paz」と「Fiesta espiritual」
- 描いてきた作品は1,000点以上
- その人生とは?
- Akio Hanafujiの作品が観られる場所の紹介
- 最後に
Akio Hanafujiのプロフィール
<Forbes Mexico Los mexicanos más creativos de 2018 | Arte Contemporáneo より>
Akio Hanafuji(花藤章雄)さんは、1949年8月2日生まれの現在72歳。大阪府東住吉区出身の、モネやルノワールで知られる印象派の画家です。
マヤ先住民族の伝統とその生活の中にある風景を描き、その文化的遺産を後世へと伝えるべく、国内外を問わず精力的に活動されています。メキシコらしい鮮やかな色彩に、日本人のエッセンスが加わった独自のスタイルで描かれるその作品は、メキシコ国内だけでなく、欧米にもコレクターがいるほど。
1975年25歳でメキシコに移住してから45年もの間、多くの人の心を動かし続けてきました。
2018年には、Forbes Mexicoが選ぶ「現代美術における最もクリエイティブなメキシコ人」に選出されています。
代表作「La paz」と「Fiesta espiritual」
「La paz」
<La paz. / 油彩 / 1.70m x 7.80m / 2008 / Región de los Altos de Chiapas>
Akio Hanafujiさんの代表作とも言えるのが2008年に制作された「La paz」です。
縦1.70m、横7.80mにも及ぶこちらの大作に描かれているのは、伝統的な民族衣装をまとったマヤ系先住民であるツォツィル族とツェルタル族の人々の姿。
「La paz」とはスペイン語で「平和」を意味し、貧困率の高い先住民地域や未だに紛争の絶えないメキシコの平和を願い、制作されたそうです。
「Fiesta espiritual」
<Fiesta espiritual. / 油彩 / 1.70m x 8.70m / 2013 / Región de los Altos de Chiapas>
2013年に制作された「Fiesta espiritual」という作品もまた、代表作の一つになっています。
日本語にすると「祭りの精神」というこちらの作品もまた、縦1.70m、横8.70mに及ぶ大作で、「La paz」と同じく伝統的な民族衣装をまとったツォツィル族とツェルタル族の人々の姿が描かれています。
鮮やかな色彩に合わせ、楽器を弾き、踊り、盛大に行われる祭りの様子が細部に渡って描かれており、油彩よるその繊細な描写は、まさに圧巻!
一度でいいから、生で観てみたい作品ですね!
描いてきた作品は1,000点以上
Akio Hanafujiさんがこれまでに描かれた作品は、未発表のものも含めると、その数なんと1,000点以上にも及びます。
その中から近年制作された作品をいくつか紹介します!
「Resonacias」
<Resonacias. / 油彩 / 100cm x 85cm / 2020 / テネハパ村>
「共鳴」と題されたこちらの作品。民族衣装を着た先住民の紳士が民族楽器を持ち、道端に腰掛ける姿が描かれています。
油彩を用いたその独特のタッチがはっきりと見て取れます。
「Camino al cielo」
<Camino al cielo. / 油彩 / 1.20m x 1.90m / 2020 / シナカンタン村>
「天国への道」と題されたこちらの作品。先住民の家族が道を歩く姿が後方から描かれています。
シナカンタン村の伝統衣装の青と紫と、太陽のようなオレンジ色のコントラストがとても美しいです。
「Invocación sagrada」
<Invocación sagrada. / 油彩 / 100cm x 85 cm / 2020 / テネハパ村>
「聖なる召喚」と題されたこちらの作品。民族衣装を着た紳士二人が、民族儀式などで使われるコパルと呼ばれるお香を入れる容器の前でかがんでいる姿が正面から描かれています。
マヤ先住民族であるツェルタル族の伝統衣装である色鮮やかな帽子が印象的です。
「El camino de 35 Samurais」
<El camino de 35 Samurais. / 油彩 / 1.66m x 6.80m / 2010>
腰にひょうたんを下げ、白い作業着のような服を着た大勢の人々の姿が描かれています。こちらは1897年に榎本武揚がチアパス州に送った「榎本殖民団」と呼ばれる35人の日本人の姿を描いた作品です。
こちらの作品はチアパス州タパチュラにある旧市庁舎に飾られています。
「Cascadas de Agua Azul」
<Cascadas de Agua Azul. / 油彩 / 1.30m x 3.24m / 2020>
印象派の真骨頂!とも言える、こちらの作品。
近年制作されたものの中では貴重な風景画になっていて、その壮大さに圧倒されます!
その人生とは?
ここまでAkio Hanafujiさんの作品を観ていただきましたが、ここからはその波乱万丈とも言える人生について紹介していきます。
学生時代〜上京
中学1年生の時に画家を志し、私立浪速高校美術部に所属。2つ上の先輩には「じゃりン子チエ」の作者であるはるき悦巳さんが在籍されていたそうです。日々デッサンと画廊回りを行いその腕を磨き、2年次には市内にあった「マサゴ画廊」にて自ら個展やグループ展を企画するなど、徐々にその活動の幅を広げていきました。
卒業後、上京し、日々制作活動に励みます。
そして2年後の1970年、大阪で開かれた当時西日本最大の美術展「関西展」にて作品を出展し、大賞を受賞。その後、1971年、1972年と3年連続で大賞を受賞し、1973年には23歳にして審査員を務めるまでとなりました。
25歳でメキシコへと旅立つ
若くして日本美術界にその名を轟かせたAkio Hanafujiさんに待っていたのは、「学閥主義」という壁でした。
当時の日本の美術界には「東京芸大を卒業していないと美術館での個展ができない」という暗黙のルールのようなものがあり、東京芸大はおろか美術大学すら出ていなかったAkio Hanafujiさんは、日本での画家として活動していくことの難しさを痛感します。
そして、1975年25歳の時に日本での活動を諦め、海外で活動していくことを決意。奥さんとそのお腹の中にいる子供を連れ、有り金をはたいてメキシコの地に足を踏み入ました。
人生初の海外、それも未開だったメキシコに降り立ったAkio Hanafujiさんは、関心のあったマヤ文明の研究をするべく、国内でも特に未開の地であったチアパス州に向かいます。そこで、マヤ先住民族であるラカンドン族の人々に出会い、その多様な文化や人々の暮らしに驚き、感動し、この地で制作活動をはじめました。
ベジャス・アルテス宮殿にて東洋人初の単独個展を開く
メキシコでの生活も2年が経ち、1978年には、メキシコ国立美術研究所の国立絵画彫刻学校「La Esmeralda」を卒業。
当時既にチアパス州を離れ、メキシコシティ近くのクエルナバカで活動をしていたAkio Hanafujiさんの元に、その後の画家人生に大きく影響する一通の手紙が届きました。それは、現在でもメキシコ美術界最高権威と言われているメキシコシティにあるベジャス・アルテス宮殿(メキシコ国立芸術院)からの、単独個展の依頼でした。実は過去に画廊回りをしていた際に、ベジャス・アルテス宮殿の学芸員の一人から名刺をもらい、作品をみてもらう機会があったのです。
そうして開かれたのが、1978年べジャス・アルテス宮殿国際展示室で行われた「Akio Hanafuji展」です。
「あのべジャスアルテスで29歳の日本人画家が単独個展を開くらしい」
そんな噂は国内に一気に広まり、個展は連日大盛況。日本からは文化庁の文化担当官が来墨し、当時のメキシコ大統領夫人までもが訪れました。ベジャス・アルテス宮殿の44年間の歴史の中で、東洋人が単独で個展を開催したのはこれが初めてのことだったそうです。
こうして、日本では個展ができず母国を去ったAkio Hanafujiさんの夢は、メキシコで大きく叶うことになりました。
個展後~現在まで
ベジャス・アルテス宮殿での個展後は、依頼のあったゲレーロ州立大学で美術講師として1988年まで10年間勤務し、生徒に絵を教えながら、自らも制作を行いました。
退職後は、絵一本で食べていくことを決め、自分に合う画材を探すべくメキシコ全土を旅したり、当時家が近所だったメキシコ美術界の巨匠ルフィーノ・タマヨとの交流から刺激をもらうなどし、その活動を続けていきました。そして、初めてメキシコを訪れた際のあの衝撃と感動を思い出し、マヤ先住民族の伝統と文化を描くことを決意。2006年にチアパス州サンクリストバルデラスカサスに拠点を移します。
その後は、フランスやポーランド、オランダなどでも作品を発表。現在までに150を越える個展を開き、国内外問わず精力的に活動されています。
2011年の東日本大震災発生時には、震災チャリティ絵画展示販売会を企画し、その収益金をメキシコ赤十字社を通じて被災者の方々に寄付。2013年より毎年北部モンテレイにある国内唯一の障害者児童施設「Nuevo Amanecer」で子供たちに絵を教える活動をするなど、社会事業活動も行なっています。また、2014年にはそれまでの活動とその功績が認められ、チアパス州政府により作品集が制作されました。
Akio Hanafujiの作品が観られる場所の紹介
Taller y Galeria Akio Hanafuji
サンクリストバルデラスカサスのセントロより徒歩10分の場所にあるAkio Hanafujiさんの画廊兼アトリエです。
こちらは2006年に移住された時から現在まで14年間使われており、数多くの作品を生で体感することができます。
【Taller y Galeria Akio Hanafuji】
- 住所:Av Yajalón 2, Barrio del Cerrillo, 29220 San Cristóbal de las Casas, Chis.
- 開館時間:10:00〜18:00
- 定休日:不定期(基本的には年中無休で営業されているそうです!)
- 入館料:無料
- HP:http://www.akiohanafuji.com/
Casa del Alma Hotel Boutique & Spa
サンクリストバルデラスカサスにあるこの街で最初のブティックホテルに、Akio Hanafujiさんの作品が飾られています。HPのギャラリーからも閲覧可能です。
【Casa del Alma Hotel Boutique & Spa】
- 住所:16 de Septiembre 24, Barrio Mexicanos, 29200 San Cristóbal de las Casas, Chis.
- HP:http://www.casadelalma.mx/
最後に
いかがでしたでしょうか?
作品の凄さはもちろん、その人生はまるで映画のようです。
実は、今年2021年はメキシコのスペインによる征服から500年、独立から200年にもあたる節目の年になります。これまでにあったメキシコ先住民の歴史を考えると、その文化的遺産を描く作品の価値はこれからもどんどん上がっていきそうですね。
Akio Hanafujiさんの今後のご活躍に目が離せません!
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Ai Nishino
- メキシコ大好きな旅するフォトブロガー。25歳の時に、青年海外協力隊としてタンザニアで2年間職業訓練校にて活動。そして、バックパッカーに。英語、スワヒリ語を話し、スペイン語を習得中です。ライター、デザイン、翻訳などをして海外ノマド旅中。AiWorld Exploreというサイトを運営。