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匠の技と心を継承する竹中大工道具館
ハイテクノロジーがデフォルトとなった現代、ネイティブ・デジタル世代も増える一方ですが、その反面、手仕事への関心は増えていると感じます。それを証拠に近年「匠の技」の名を冠したイベントが増え、どれも盛況を博しています。
ところで「匠」は狭義では大工を指します。今日ご紹介したいのは、まさしくその「匠の技」を感じられる場所、『竹中大工道具館』です。「大工」「竹中」と聞いて「竹中工務店」を思い浮かべた方!その連想は大正解です。というのも、竹中工務店の創立85周年記念事業として1984年設立されたのが竹中大工道具館なのです。
目次
信長の普請奉行を務めた初代竹中藤兵衛正高
<迎賓館赤坂離宮の建築にも携わった 出典:内閣府迎賓館ウェブサイト(https://www.geihinkan.go.jp/akasaka/)を加工して作成>
ちなみに、竹中工務店の創立第一年は1899年14代竹中藤右衛門の時とされています。ただし、創業はさらにぐんとさかのぼった1610年(慶長15年)。織田信長の普請奉行を務めた初代竹中藤兵衛正高が神社仏閣の造営業を起こしたのが始まりです。
このことからもわかるように、同社は代々、宮大工として多くの伝統建築にたずさわっており、今でも伝統建築については、新築、保存・修理ともに高い技術を誇ります。
また、それと同時に工場や空港、駅、スタジアム、ホテル、病院など数多くの近代建築も手掛けています。東京タワー、迎賓館赤坂離宮、ポーラ美術館、東京ドーム...と、ちょっと挙げただけでも、知らない人はいない知名度の高い施設が並びます。日本人なら誰でも一度はどこかで竹中工務店の作品に出合っているのではないでしょうか。
新幹線の新神戸駅から歩いて4分!
<通りからのアプローチ ©竹中大工道具館>
今日の話題の主役である竹中大工道具館は、1984年「消えてゆく大工道具を民族遺産として収集・保存し、さらに研究・展示を通じて後世に伝えていくことを目的に」(竹中大工道具館サイトより)設立されました。1989年(平成元年)には財団法人化され、現在の場所、新神戸駅近くに移転したのは2014年10月のことです。日本で唯一の大工道具の博物館で、3万5000点以上の資料を収蔵しています。
新幹線の新神戸駅からなら歩いて4分と、関西人でなくても立ち寄りやすい場所に位置しています。お運びになる方に一言!まわりは住宅やマンションが立ち並ぶ界隈で、こんなところに博物館があるのかと一瞬訝しく思うかもしれません。実は、竹中大工道具館の建物は低く、しかも庭の緑に囲まれているので、道路側からはほとんど見えません。ですので、緑映える垣根を目指すつもりでいらしてください。
建物にちりばめられた匠の技
<アプローチより南面を望む ©竹中大工道具館>
通りから日本庭園風の立派な門を入ると、緑の中に、いぶし銀色の瓦屋根が見えてきます。一見地上階だけの平屋に見えますが、地下にも2階あり、延床面積は1,884平方メートルに及びます。
<舟底天井の多目的ホール内観 ©竹中大工道具館>
木製の扉を入って最初にアッと驚くのが、伝統の舟底天井!圧倒的な存在感です。ガラス張りの多目的ホールには木製の椅子とテーブルが並び、海側山側ともに六甲山の山並みや日本庭園を絵画のように鑑賞できます。
<多目的ホールより中庭を望む ©竹中大工道具館>
展示は主に地下の2レベルに置かれていますが、地下にも中庭や吹き抜けが設けられ、自然の光が取り入れられる工夫がされています。
そのほか、建物の壁は京都の聚楽土を混ぜた漆喰で仕上げられていたり、入り口の自動ドアは木材に削り痕を模様のように残す名栗仕上げを用いていたり、いたるところに匠の技が用いられていて、竹中大工道具館自体も見学に値するものです。
<南面軒先 名栗仕上げの自動ドア ©竹中大工道具館>
この建物の設計施行を手掛けたのは、もちろん竹中工務店。同社サイトには、「大工・左官等の伝統的職人技術に加え、現代技術を空間の随所に編み込み"人と自然をつなぎ、伝統と革新をつなぐ"ものづくり精神の結晶となる建築を目指し」たと紹介されています。実に十指に余る数の建築関連の賞を受賞した「作品」でもあるのです。
大工の極意「五意」を学ぶ展示
<大工道具の標準編成 ©竹中大工道具館>
7つのコーナーに分かれた展示は、多くの道具や、建築模型、設計図、VTRなどを駆使して、歴史と仕組み、手仕事の美、ものづくりの心、木をいかす知恵などを解説します。
中でも、吹き抜けに展示された唐招提寺金堂組物の模型や、茶室のスケルトン模型が印象的です。これだけのものをすべて手仕事で作ってきたという事実に改めて感銘を受けます。また、それを可能とした大工道具の多様さには目をみはらずにはいられません。
ぜひともトライしてもらいたいのは、釘を使わず木材を接合させる「継手仕口を組んでみよう」コーナーです。大阪城の大手門で実際に用いられている継手のほか、台持継(だいもちつぎ)、腰掛鎌継(こしかけかまつぎ)、込栓(こみせん)などが並び、実際に組んでみることができます。簡単そうに見えて意外に難しく、大型の知恵の輪を前にした気分になります。
<腰掛鎌継 ©竹中大工道具館>
また、個人的にとても面白いと思ったのが、大工や用具にかかわる用語や表現の説明です。たとえば「釿ではつって鉇で削る」って読めますか?「釿(ちょうな)」、「鉇(やりがんな)」、恥ずかしながら私は同館展示で学びました。そのほか棟梁となる人物に欠かせない大工技術の神髄とされた「規矩術(きくじゅつ)」。その難解さから、「大工と雀は軒で鳴(泣)く」と言われたとか。また、「適材適所」はもともと木材の使い分けのことを指したなど、日本語の奥深さも感じる機会になりました。
<和の伝統美:左から組子細工、唐紙障子、火灯窓付蛍壁 ©竹中大工道具館>
さまざまな道具の使い方や手入れの仕方は短いビデオにまとめられおり、館内シアターで見ることができます。また、新型コロナの影響で来館できない方向けに、現在2021年7月31日までおうちミュージアムと題して、展示の説明や、職人技をまとめた動画をYouTubeで公開しています。どれも興味深いものですが、個人的に私のお気に入りは、欄間や間仕切りに使われる組子細工の伝統伎を撮ったビデオです。下のリンクから辿ってください。
おうちミュージアムのHP:https://www.dougukan.jp/special_exhibition/ouchi-museum
また、現在は新型コロナの影響で開催が休止されていますが、通常であれば、大人も子供も楽しめる様々な木工室イベントも企画しています。コロナ禍明けにはそちらへの参加もおすすめです。
<休憩室から望む庭 ©竹中大工道具館>
竹中大工道具館
- 住所:兵庫県神戸市中央区熊内町7-5-1
- 休館日:月曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始(12/29~1/3)
- 開館時間:9:30~16:30(入館は16時まで)
- 入館料:一般700円
- 公式HP
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冠ゆき
- 山田流箏曲名取。1994年より海外在住。多様な文化に囲まれることで培った視点を生かして、フランスと世界のあれこれを日本に紹介中。